1990年に始まったテイスト・オブ・フリーランスから、現在のテイスト・オブ・ツクバまで。その歴史は36年に及ぶ。しかし、レースが終われば歓声は消え、マシンはガレージへ戻り、やがて当時を知る人も少なくなっていく。だからこそ、記事と写真という形でこの熱狂を次の世代へつなげたい。現在進めている「テイスト・オブ・ツクバ&フリーランス」本は、単なる懐古的な記録集ではない。36年前を走ったライダーと、今を戦うライダーが同じ一冊に収まり、そこに読者自身も参加できる本を目指している。

レースは終われば消える。でも記録は残せる

チェッカーフラッグが振られれば、レースは終わる。リザルトには順位とラップタイムが残り、誰が勝ったのかはネット上に残っている限り調べることができる。しかし、その日の筑波が寒かったのか、それとも暑かったのか。パドックでどんなマシンが注目を集めていたのか。ライダーがどんな表情でグリッドに並び、どれほどの激しいバトルが繰り広げられたのか。そうしたものは、誰かが記録しておかなければ少しずつ失われていく。

筆者が初めてテイスト・オブ・フリーランスを観戦したのは1993年。以来、取材する側として、このレースを長く見続けてきた。振り返れば、当時パドックで当たり前のように見かけていたマシンも、心の中で応援していたライダーも、すでに過去のものとなった例は少なくない。

だからこそ思う。記録できるうちに、記録しておかなければならない、と。それが「テイスト・オブ・ツクバ&フリーランス」という本を作ろうと考えた、最も大きな理由だ。

画像: 雑誌バイカーズステーションに掲載されていたテイスト・オブ・フリーランスの記事。

雑誌バイカーズステーションに掲載されていたテイスト・オブ・フリーランスの記事。

雑誌『バイカーズステーション』に眠っていた膨大な記録

この企画を実現する上で、大きな存在となるのが二輪専門誌『バイカーズステーション』だ。同誌は1990年の第1回テイスト・オブ・フリーランスから長年にわたって大会を取材し、その模様を誌面に記録してきた。しかも残されているのは、掲載済みの記事だけではない。

フィルムカメラが主流だった時代、カメラマンは1回のレースで何十枚、何百枚というカットを撮影する。その中から誌面に使われるのは、ほんの一握りだ。つまり編集部には、撮影されながら一度も誌面に載らなかった、いわゆる「残ポジ」が数多く眠っている。そこには、確かにあの日の筑波を走っていたにもかかわらず、これまで一度も世に出ることのなかったライダーやマシンたちの姿がある。

さらに、当時は誌面の都合でモノクロ掲載された写真でも、元のポジフィルムはカラーだ。30年以上の時を経て、それらを改めてデジタル化し、初めて本来の色で世に送り出す。それも今回の本でぜひ実現したいことの一つだ。

画像: 雑誌『バイカーズステーション』に眠っていた膨大な記録
画像: 記事の素材となった写真たち。赤い丸印がついているのが記事に掲載されたもの。それ以外は日の目を見なかった写真だ。今回、このように使用されなかった写真も可能な限り雑誌に掲載しようと考えている。

記事の素材となった写真たち。赤い丸印がついているのが記事に掲載されたもの。それ以外は日の目を見なかった写真だ。今回、このように使用されなかった写真も可能な限り雑誌に掲載しようと考えている。

画像: こちらも使用されなかった写真。1994年12月のテイスト・オブ・フリーランスのワンカット。

こちらも使用されなかった写真。1994年12月のテイスト・オブ・フリーランスのワンカット。

昔を懐かしむだけの本にはしたくない

ただし、この本を「あのころは良かった」と昔を振り返るだけのものにはしたくない。なぜなら、テイストは今も続いているからだ。

2026年のテイスト・オブ・ツクバにも、かつてと変わらない情熱を持ったライダーやコンストラクターが集まり、筑波のラップタイムを削り続けている。そこで本書では、往年のテイスト・オブ・フリーランスの記事や写真だけでなく、現在のテイスト・オブ・ツクバも大きく取り上げる。各クラスのレースレポートはもちろん、可能な限り多くの出場ライダーの走行写真を掲載したいと考えている。

1990年から2000年代にテイストを走ったマシンと、2026年に走っているマシン。長い時間を隔てた両者が、一冊の中で向かい合う。そこまでできて初めて、このレースの歴史を「過去」ではなく「現在まで続く文化」として伝えられるのではないだろうか。

画像: 2026テイスト・オブ・ツクバ皐月ステージの写真。

2026テイスト・オブ・ツクバ皐月ステージの写真。

読むだけではなく、“参加できる本”にしたい

さらに今回、こだわったのが「読者もこの本の一部になれる」ということだ。クラウドファンディングのリターンには、本を受け取るだけのものだけでなく、支援者として名前を誌面に残すプランを用意した。

また、テイスト・オブ・ツクバに参戦しているライダーを対象に、自身の走行写真を大きく掲載できるリターンも設定している。通常、雑誌や本では「載る側」と「読む側」は明確に分かれている。しかし、テイストというレースはライダーだけで成り立っているわけではない。マシンを作るショップがいて、手伝う仲間がいて、家族がいて、そして毎回筑波サーキットへ足を運ぶ観客がいる。

ならば、この本も同じでいい。テイストを愛してきた人たち自身が、この36年の歴史の一ページになる。そんな一冊にしたいのだ。

画像: 2026テイスト・オブ・ツクバ皐月ステージの参加ライダーのほぼすべての写真が手元にある。写真はZERO−2に参加したゼファー。(ZERO-4クラスのゼッケン16のH様の写真のみ撮り逃してしまいました。申し訳ないです)

2026テイスト・オブ・ツクバ皐月ステージの参加ライダーのほぼすべての写真が手元にある。写真はZERO−2に参加したゼファー。(ZERO-4クラスのゼッケン16のH様の写真のみ撮り逃してしまいました。申し訳ないです)

なぜクラウドファンディングなのか

もちろん、通常の出版という方法も考えられる。だが、テイストという題材はあまりにも濃密で、そして専門的だ。全国の書店に大量に並べて広く売る雑誌というより、この文化を本当に好きな人へ、大切に届ける本である。

一方で、数多くの写真を掲載し、過去のフィルムをデジタル化し、十分なページ数と印刷品質を確保しようとすれば、制作費はどうしても大きくなる。

そこで選んだのがクラウドファンディングだった。

あらかじめ必要とされる部数を把握できれば、一般的な商業出版では難しい内容にも踏み込むことができる。言い換えれば、これは単に「売れる本」を作るための仕組みではない。「残すべき本」を、必要としてくれる人たちと一緒に成立させるための方法なのである。

画像: なぜクラウドファンディングなのか

最初の一冊を、どうしても実現させたい

とはいえ、クラウドファンディングは目標金額に届かなければ成立しない。現在も多くの方から支援をいただいているが、目標達成にはまだ力が必要だ。だから最後に、ここまで読んでくださった皆さんへ率直にお願いしたい。

「もしテイスト・オブ・フリーランスを走ったことがあるなら」
「テイスト・オブ・ツクバを観戦したことがあるなら」
「かつて雑誌でそのマシンたちに胸を躍らせたことがあるなら」
「あるいは今回の記事を読んで初めて、『こんな面白いレース文化が日本にあるのか』と思っていただけたなら」

ぜひ、この本を残すために力を貸してほしい。

一冊の本を手に入れるというだけではない。1990年から36年間、無数のライダー、ショップ、メカニック、そして観客によって受け継がれてきた文化を、次の時代へ渡すことへの参加だと考えていただければうれしい。

そしていつの日か、この本を開いた人が、往年のマシンやライダーの写真を眺めながら思ってくれたら最高だ。

「2026年、この文化を本という形で残そうとした人たちがいたのだ」と。

画像: 雑誌はクラウドファンディングの返礼品として手に入れることができる。後日レース会場での販売も考えているが、クラウドファンディング経由の方は名前を紙面に載せたり、特別なプレゼントを用意している。 camp-fire.jp

雑誌はクラウドファンディングの返礼品として手に入れることができる。後日レース会場での販売も考えているが、クラウドファンディング経由の方は名前を紙面に載せたり、特別なプレゼントを用意している。

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