文:大冨 涼/写真:南 孝幸、大冨 涼、石神 邦比古
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スズキ「水素エンジンバーグマン」の概要

SUZUKI
水素エンジンバーグマン
二輪技術展示車
スズキがカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みのひとつとして研究開発を進めている二輪技術展示車「水素エンジンバーグマン」。
ベース車両には市販のスクーター「バーグマン400」が使用されており、ガソリンの代わりに水素を燃料とすることで、走行中のCO2排出をゼロにすることを目指している。
エンジンの鼓動や排気音といった内燃機関の持つ本来の魅力を残したまま環境性能を両立させることができることから、実現すれば「バイクの楽しさのひとつである、排気音を楽しみながらも環境に配慮した乗り物に乗りたい」という願いを叶えてくれるモデルだ。


今回展示された最新の水素エンジンバーグマンは、2023年のジャパンモビリティショーにて展示された初期モデルからルックスと内燃機関の双方が大きく進化。具体的な内容としては、ホイールベースの短縮化とバックファイア現象の改善だ。
2023年仕様のホイールベースは、ベースモデルである「バーグマン400」よりも約200mmほど長い仕様(バーグマン400のホイールベースは1580mm)だった。これは、フロアボード下に水素燃料タンクとエンジンを並べて置く関係で、どうしてもボディそのものを延長する必要があったため。

▲上は2023年のジャパンモビリティショーに展示された初期モデル。まるでロンスイカスタムのような外観に賛否両論が相次いだほか、旋回性・取り回し性があまり良くないという点に課題を抱えていた。
それが、今回の展示モデルでは、前回より約80mmホイールベースを短縮することに成功。外観がより自然な印象となった。
このホイールベース短縮は研究チームの努力の賜物。水素燃料タンクの位置をこれまでよりもフロント寄りに配置するため、ラジエターの形状と位置を見直している。さらに燃料タンク搭載角度も若干斜めにするなど、干渉しそうなユニットをミリ単位で微調整して、何とか実現したのだとか。

▲実車にラジエーターや燃料タンクの位置関係を反映する前に試行錯誤は繰り返したものの、開発チームに凄腕のレイアウターがいたおかげで、実際のはめ込み段階では割とすんなりいった、と、開発チームの主査・二宮至成さんが笑顔で話してくれた。
もうひとつ、走行実験で問題となっていたのがバックファイア。水素は燃えやすい性質を持っており、シリンダーの吸気ポートの中に残ったわずかな水素に何らかの原因で引火し、エンジンが爆発するタイミングとは別に燃焼が吸気側へと逆戻りしてしまう現象が起こっていた。
この解決策として、インジェクターの位置をバルブの近くに置くことで、吸気ポートに水素を残りにくくして対策。結果、本イベント展示前のテストでは1度もバックファイアを起こさなかったとのことだ。

また、通常通りプラグから点火した場合でも、燃焼後のシリンダー内に残ってしまう電気的なエネルギー(残存電化)を受け、予期せぬタイミングと場所で火花が飛んでしまうゴーストスパーク現象も課題となっていたが、こちらも点火コイルを付けることによって対策がなされている。
このほかにも、現在水素エンジン車が現在抱えている問題は、想定される点火タイミングよりも早い段階で何の予兆もなく爆発が起きてしまうプレイグニッション現象。これは水素を燃料として使う上で研究者たちが最も頭を悩ませている問題だそうで、エンジンそのものが壊れてしまう危険があることから、これをどのように抑えられるかが今後の課題となっている。

さらに、国内の水素ステーションのインフラが不十分であることも開発のネックとなっている。一般に整備されている水素ステーションは、トヨタの市販車「MIRAI」用であることから、50L以上のタンクにしか水素を充填できず、燃料タンクが10Lの水素エンジンバーグマンが仮に市販化されたとしても、現段階では燃料である液化水素を充填できる場所がないのだ。
「まだまだ課題はありますが、研究自体は、すごく面白いことをやらせていただいていると思っています。声を大にして言いたいのは、とにかく、インフラを整えてほしい! ということですね。あとは我々が頑張りますから!」と語るのは開発チーム主査の二宮さん。
これらの問題が解決すれば、水素エンジンバーグマンが市販化する時代はグッと近くなるかもしれない。
スズキ「水素エンジンバーグマン」の写真
文:大冨 涼/写真:南 孝幸
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