発表直後からずっと乗りたかったホンダ・CL250にやっと乗れる! どうせなら長距離を走れるタイミングで……と先延ばしにしているうちに発売から10カ月も経っていた。そもそも泊まりがけで走ったのは、もう半年前か。CL250は気負うようなバイクではない。なのに妙に緊張しながら、東京新橋の編集部を発つ。憧れのスターゆかりの町、愛知県瀬戸市を目指した。
文・写真:西野鉄兵
※CL250のツーリング性能が気になる方は2ページ目の【レビュー】をご覧ください。
画像1: Honda CL250 総排気量:249cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ単気筒 シート高:790mm 車両重量:172kg 発売日:2023年5月18日 税込価格:62万1500円 ※積載しているバッグは筆者の私物、そのほかはノーマル仕様

Honda CL250

総排気量:249cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ単気筒
シート高:790mm
車両重量:172kg

発売日:2023年5月18日
税込価格:62万1500円

※積載しているバッグは筆者の私物、そのほかはノーマル仕様

【紀行】ダメダメライダー、CL250やいろんな人に救われるの巻

掛川のインターを下りると辺りは真っ暗だった。10分ほど前から大粒の雨が降り出し、お気に入りのマックスフリッツのダウンジャケットが濡れて重くなる。ウインターグローブの中まで浸水し、指先が震えだした。

CL250のLEDヘッドライトは明るく頼りがいがあるが、いかんせん道が暗い。照らされる雨粒の勢いばかりが気になる。最初の目的地である掛川駅前はインターを下りて1km程度だったはずだが、一向に町灯りが見えてこない。何やらバイパスに乗ってしまったようで、分岐もなかなか現れない。

数分走ってようやくコンビニが見つかった。停車し、スマホを出すためポケットに手を伸ばすと、ファスナーはすでに開いていた。iPhoneまでびしょ濡れだ。Googleマップを開けば案の定、明後日の方向に突き進んでいる。1時間ほど前に見た雨雲レーダーを信じきっていたら、雨に降られた。カッパはバッグの奥底にしまっていて、簡単には取り出せない……。

ありえない。ありえないほどツーリングが下手になっている。

*    *    *

新橋から掛川、約220kmを近いと感じるか遠いと感じるか

東京新橋の編集部を出発したのは、ひと仕事済ませた後の午後2時だった。ツーリングのときは早朝か前の晩に出るのが通例だった身としては、違和感があり気が重い。

画像: ▲新橋を出発。

▲新橋を出発。

CL250は軽快そのもの。首都高に乗るまでの数キロでこのバイクなら安心して旅ができると感じた。ライディングポジションが楽で、視界が広い。足つきの不安もまったくない。

首都高に乗っても印象のよさは変わらなかった。時速60~80km程度の速度域では、自在に走れる。思ったように加速し、減速できる。見た目から感じる軽快さが、そのまま走りに現れているバイクだ。

今日は午後7時に静岡県掛川の駅前で、打ち合わせが一件ある。それを終えた後、再びCLに乗って浜松の宿へと向かう。

掛川までは約220kmで、Googleマップは2時間50分~4時間20分かかると示した。このパターンだとノンストップならだいたい3時間か。いつも思うけど、到着時刻の幅が広いよね。

道は用賀で片側3車線となり東名高速になった。順調に進む。港北PA・海老名SAを過ぎ、「このバイクなら一気に走れるかも」とCLにあらためて手ごたえと安心感を得る。

ところが中井PAの手前で「足柄まで12kmの渋滞」との表示が。山が近くなり気温は下がってきた。中井PAに退避し、念のため用を足す。念のため、エナジードリンクを一本飲む。

画像: ▲平日の午後、中井PAのバイク枠は貸し切り。

▲平日の午後、中井PAのバイク枠は貸し切り。

事故渋滞、それも火災らしい。PAの出口まで渋滞が伸びてきた。下手すると間に合わない可能性がある。

1時間以上かけて渋滞を脱した。トレーラーが炎上していたが、消火は完了したあとのようだった。運転手は自力で脱出したと、のちにニュースで見た。

渋滞は当然嫌いだが、渋滞を抜けた瞬間、まわりのクルマとともに一気に加速するのは好きだ。最近はあの加速が渋滞緩和に繋がることが浸透したのか、みんなアクセルの踏みっぷりがいい。この開放感を味わうのも久しぶりだった。

西へ向かう際は新東名を使うことが増えたけれど、今日は東名だ。新東名に比べると道幅が狭く、こまかなカーブも多いため、ペースは上がらない。ただ景色は変化に富んでいる。定番の絶景PA・由比で二度目の休憩を取る。

画像: ▲由比PAにて。

▲由比PAにて。

Googleマップで目的地到着時刻を確認すると、まだ余裕があった。そうなると、焼津の日本坂PAでも休み、牧之原PAでも休む。のんびりしているうちに、すっかり日は沈んでいた。

東名を走っていて、静岡市・藤枝市・焼津市・島田市・牧之原市・菊川市・掛川市・袋井市・磐田市の位置関係を忘れてしまっていたことに悲しくなった。6年前、ツーリング雑誌の編集部に在席していた頃なら、東京から東名と新東名の終点くらいまでは、すべて把握していたのに。

あの頃は毎日、紙の地図やGoogleマップを眺めていた。いまは日々、車両メーカーのホームページを見ている。新型車の諸元や装備内容の記憶と引き換えに、地理の知識が失われた。

それだけなら切なくも仕方のないことだが、ツーリング能力の低下はきつい。ヘッドセットの充電を忘れて、音楽もナビ音声も聞けない。暗くなると東西南北どちらに進んでいるかよく分からない。そして冒頭の体たらくに繋がる。

画像: ▲暗くなり始めた焼津の日本坂PA。

▲暗くなり始めた焼津の日本坂PA。

毎日バイクには乗っているから運転に不安はない。ただ荷物を積載していると少し勝手が異なり、ややぎこちなさがあるなと感じてしまう。

掛川での約束には何とか間に合った。マックスフリッツのダウンジャケットと防寒ジーンズをずぶ濡れにしてしまったことが悔しくてたまらない。防風フィルムのおかげで中は全然濡れていなかったが、それがまた切ない。こんな使い方をしてしまったのは初めてだ。

打ち合わせを済ませ、浜松・中田島砂丘近くの宿に着いたのはちょうど日付が変わった頃だった。ツーリングってこんなに過酷だったか……そう思うほど、疲れている。

念のためお伝えしておくが、CL250はまったく悪くない。むしろ扱いやすいCLでよかったと心底思う。信号待ちなどで、ふらついたときにぐっと耐えられる。へとへとでもCLなら、こかしはしない。

画像: ▲2日目の朝。宿の窓からの景色。

▲2日目の朝。宿の窓からの景色。

マックスフリッツの新店がオープンしたぞー!

雨雲は東へ抜け、快晴の朝を迎えた。気分も晴れやかになる。やりなおそう。ツーリング能力が落ちたことは自覚したうえで、もう一度勘を取り戻していくしかない。

心機一転、「マックスフリッツ浜松」のオープニングイベントの取材に向かった。

画像1: 【紀行】ダメダメライダー、CL250やいろんな人に救われるの巻

バイクの聖地・浜松にできた新店は、初の直営支店となる。売り場面積は全国最大規模で、品ぞろえも当然いい。店内は明るくて、周辺の雰囲気も味わい深い。バイクもクルマも無料で駐められる。とてもいいお店だ。

いつだって急ぐ必要はない

午後3時に店を出て、ここからは完全にプライベートの時間だ。行くぜ瀬戸市! Googleマップで経路を表示し、分岐と距離だけ確認する。ヘッドセットは昨晩充電したが、ナビは使用しない。今日はナビに頼っちゃいけない気がする。

一般道を少し走って東名高速に乗った。するとじんわり渋滞が発生し、前方には煙が立ち込めている。焦げ臭さが鼻を衝いた。ふと足柄のトレーラー炎上を思い出す。

中央分離帯が燃えていた。

画像2: 【紀行】ダメダメライダー、CL250やいろんな人に救われるの巻

誰かが火のついたタバコでも捨てたのだろうか。

思い出したのは、バイクで単独世界一周を果たしたカメラマンさんの言葉だ。その人はグループツーリングをするとき、誰よりもペースが遅かった。普通の一般道で、まわりのクルマの流れよりもだいぶ遅かった。

「コーナーを曲がった先に道が必ず続いていると思うなよ」

南米やアフリカ、アジアの秘境での走行経験から、日本の道を走るときも常人の何倍もあらゆることに警戒していたのだろう。

中央分離帯の炎上を見て、自分が動揺していることに気づいた。

もうひとつ、かつての旅で得た格言を思い出す。

「お茶飲んでいきな」

これは北海道・美瑛のライダーハウス兼カフェで、ダンディなマスターから聞いた言葉だ。当時、取材にも関わらず寝坊した私が慌てて出発しようとしていたときに、引き留めてくれたひと言だった。

焦ったってろくなことはない、という至極当たり前のことなのだが、20代前半に美瑛の大空のもとでいただいたあの一杯はきっと一生忘れない。北海道の軽やかな空気と土混じりの緑の香り、夏の眩しい日差し、目の前に広がる大地、黒いTシャツにバンダナ姿のかっこいいマスター。その情景はいまもはっきりと浮かぶ。

画像: ▲東海環状道、豊田市の鞍ヶ池PA。

▲東海環状道、豊田市の鞍ヶ池PA。

以来、もっとも急がなきゃいけないときにこそ、必ずお茶かコーヒーを一杯飲むようにしている。目的地の瀬戸市まで一気に走れないこともないが、東海環状道にスイッチした後、一息入れることにした。

 

夕暮れどき、予約していた瀬戸パークホテルに着いた。神社の境内に建つ珍しいビジネスホテルだ。

改装したばかりのようで、部屋もバストイレも超きれい。スタッフの方はものすごく感じがよくて、親切だった。藤井聡太八冠のにじみ出る人柄のよさは、土地が育んだものなのだろうか。予約時はただ立地と値段で選んだだけなのに、大当たりの宿だとすぐに分かった。

しかもここは、771年に創建されたという瀬戸の産土神、深川神社の境内だ。何ともありがたい。

瀬戸物の町・瀬戸市! 藤井聡太八冠の町・瀬戸市!

シャワーを浴びたのち、夜の町に繰り出した。

将棋棋士・藤井聡太八冠の地元で、町を上げて藤井八冠を応援している……というのはニュース番組などで幾度も見てきたが、本当にすごかった!

町のいたるところに藤井八冠のイラストや応援メッセージ、記録達成のお祝いポスターが掲げられている。

画像: ▲せと銀座通り商店街で有名なシャッター大盤。タイトル戦のときはここに地元の方が大勢集まる。これが見たかったんだー! ひとりでテンション爆上がり。

▲せと銀座通り商店街で有名なシャッター大盤。タイトル戦のときはここに地元の方が大勢集まる。これが見たかったんだー! ひとりでテンション爆上がり。

2017年6月、当時中学生だった藤井聡太四段はデビューから前人未到の公式戦29連勝を達成した。昨年の八冠独占フィーバーもすごかったが、伝説のはじまりは新たな若きヒーローの誕生に日本中が沸いたこのときだった。

その連勝の最中、将棋を目にする機会が増えて、駒の動かし方を知っていただけの私も興味を持った。

以来、指すのも観るのも好きで、初めてインドアの趣味が持てた。その後のタイトル八冠獲得までの軌跡は、さまざまなメディアを通じて追ってきたつもりだ。いつしか月額制の棋譜中継アプリまで見るようになった。将棋という最高に面白いものに出合わせてくれた藤井聡太八冠には感謝しかない。大ファンです。

画像: ▲瀬戸の夜は予想していたよりも静かだった。中心部に瀬戸川が穏やかに流れる、住み心地のよさそうな町。

▲瀬戸の夜は予想していたよりも静かだった。中心部に瀬戸川が穏やかに流れる、住み心地のよさそうな町。

この町で本当にあの人に会えるなんて

下調べしていた藤井八冠スポットをひとしきり歩いて巡った後、スペシャルゲストがやってきた。

そう、この方がお待ちかねのご本人……若林浩志さんです!

なんでやねん、誰やねん、とツッコむwebオートバイ読者はいないと信じたい。当ウェブサイトで毎週欠かさず日曜日に4年以上記事をアップしてくれている「スーパー・カブカブ・ダイアリーズ」の若林浩志さんです。

近くの町に住む若林さんも藤井八冠のことは当然大好きで、じつは母校も八冠と一緒。瀬戸に泊まることは数日前に連絡していたのだが、本当にわざわざクルマでやってきてくれた。カブで来たかったそうだけど、仕事の都合でやむなくクルマになったという。

本業はカメラマンなのに文章はえらく面白いし、なぜかさまざまな事柄に詳しい。瀬戸物に関する知識も豊富で、たっぷりと説明してくれた(全然ついていけなかったが)。その賢さは、きっと子どもの頃に受けた教育の賜物だ。私も八冠と同じ学校に通いたかった。

画像: ▲八冠瀬戸物。これぞ瀬戸市!

▲八冠瀬戸物。これぞ瀬戸市!

自身は運転があるからお茶しか飲めないというのに、瀬戸で人気の居酒屋をわざわざ調べておいてくれた。私の生ビールをウーロン茶で快く乾杯してくれる。

画像: ▲居酒屋では、八冠達成を祝うためカンパチも頼んだ。

▲居酒屋では、八冠達成を祝うためカンパチも頼んだ。

ふたりで藤井八冠の偉大さを讃えあったのち、話題は自然とバイクやカブ界のことになった。普段から頻繁に電話もしている仲だが、話は尽きない。

 

最後の一杯を飲みながら、私はこのツーリングでの情けない体たらくを打ち明けた。

「そんなもん、キャンプ一発で解消っしょ!」

カラッとした優しさが沁みいる。

画像3: 【紀行】ダメダメライダー、CL250やいろんな人に救われるの巻

キャンプツーリング、したいなあ。

CL250は、気軽な旅バイクとして、すこぶる高いポテンシャルを秘めている。今回は高速道路主体のほぼ移動しているだけのツーリングだったが、キャンプ道具を積んで一般道をのんびり走ってみたい。本領は必ずそこにある。

2024年度はとにかく走ろう。若林さん、付き合ってもらいますよ!

画像: ▲この旅の総走行距離は774.7km。行きは10代の頃の自分に笑われちゃうくらいダメダメだったけれど、帰りは順調で、細かなトラブルも(自覚は)なかった。三日も走ればブランクは解消する……のかな? またCL250を借りられたら、絶対キャンプに行く!

▲この旅の総走行距離は774.7km。行きは10代の頃の自分に笑われちゃうくらいダメダメだったけれど、帰りは順調で、細かなトラブルも(自覚は)なかった。三日も走ればブランクは解消する……のかな?

またCL250を借りられたら、絶対キャンプに行く!

画像: ▲瀬戸に行ったら将棋ポストもぜひ見つけてね。裏面に詰将棋があるよー!

▲瀬戸に行ったら将棋ポストもぜひ見つけてね。裏面に詰将棋があるよー!

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