ポテンシャルを高めながら優しさも増した全方位進化
クラッチを繋いだ瞬間に驚いた。
正直、トルクが薄い? という印象。
でも、決して回転が落ちることなく、ノッキングも起こさず、しっかり加速する。決してトルクがないわけじゃない。むしろトルクはかなり上がっている。
ただ、それを感じさせないのだ。
クルージングスピードの3000〜4000回転あたりでもその傾向が出る。
アクセルをパーシャルにしてその回転域を保つと、まるでエンジンのインフォメーションが消えたかのよう。
しかし、アクセルをひとたび開ければ気持ちいい加速を見せ、実にパワフルだ。
コーナリングも不思議な感覚だ。
コーナリングの最中にアクセルをオフにするとバイクが緩やかに、自然にバンクし始める。
減速しているのだから切れ込むのは当たり前だが、その流れがとても自然で、アクセルのオンオフだけで曲がれるような錯覚を覚える。
整理してみて、つまりこういうことだと気付いた。
これはGSというビッグオフロードツアラーのネガティブな部分を消し去って、誰でも乗りやすくしたバイクなんだと。
排気量が大きくパワフルだと、アクセルワークに対する反応が過敏になり、初心者ではギクシャクすることがある。そのネガを感じさせないフィーリングなのだ。
コーナリングも同じ。従来型では、ハンドルのちょい手前、タンクの上あたりにある重心を意識して、あまり倒れ込まないようなアクセルワークをするのがGSを操るコツだったが、新型はそういうテクニックを必要としなくなったわけだ。
オフロードで走ると、それはさらに如実に現れる。
今までなら、バイクが常に垂直でいるように気を使い、バランスを取る乗り方が必要だったが、新型はそんなことを忘れるくらいに軽く感じる。
特にサスペンションの追従性が高く、荒れたところでバイクが揺さぶられても、決して重さを感じさせない。
「エンデューロ」モードでは、リアタイヤのスリップなんて気にせず、ガバッとアクセルを開けていれば、バイクの方がしっかり収めてくれる。
それも、しょぼいトラコンのように、単にパワーをカットするのではなく、いい塩梅で加速を続けていられる。なかなか賢い。
大柄で、身体的に自信のないライダーは尻込みするGSだが、新型はそんなことを感じさせず、普通に乗れるように進化している。
だが、決して初心者向けに「牙を抜いた」わけではなく、あくまで入り口を優しくしただけ。
工業製品としての出来の良さに、正直驚かされた試乗だった。
SPECIFICATION
全長x全幅×全高 2205x965x1490㎜
ホイールベース 1510㎜
シート高 850/870㎜
最低地上高 NA
車両重量 256㎏
エンジン形式 空水冷4ストDOHC4バルブ水平対向2気筒
総排気量 1254㏄
ボア×ストローク 102.5x76㎜
圧縮比 12.5
最高出力 136PS/7750rpm
最大トルク 14.58㎏-m/6250rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 20L
キャスター角/トレール量 64.5度/99.6㎜
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ305㎜ダブルディスク・φ276㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70R19・170/60R17
PHOTO:南 孝幸 TEXT:三橋 淳、本誌編集部