高揚感が抑えられるから逆にワクワクしてくる?
MVアグスタは37回ものワールドタイトルを獲得した名門であり、レーシングイメージの強いイタリアンメーカーである。
そのMVアグスタが、3年前に3気筒スーパースポーツのF3・675をリリースさせてからというもの、排気量のメインを800ccとしながら、バリエーションをネイキッド、ストリートファイター、ストリートモタード、長脚スポーツと多様に発展させてきたが、今回、ついに本格的なツアラーを登場させた。

しかも、既存モデルの派生型ではない。ツアラーに相応しい特性を追求し、エンジンの性能パーツやフレームなど、かなりの部分が新設計されているのだ。
だから、走り味ときたら、これまでのMVアグスタとは全くの別物である。走り出すや、楽しんでみようかと気持ちが昂ぶるのではなく、快適さにホッとさせられるのだ。

エンジンは6速、1500rpmで走れるほど粘りがあってスムーズで、スロットルを開ければ優しく太いトルクが湧き出てくる。ストロークが大きい前後サスは、路面を包み込むかのようで、とにかく乗り手に優しく快適だ。

ハンドリングも安定性指向だ。フレームも剛性が高められた印象で、車体がどっしり落ち着いていて、気分的にも落ち着いてくる。
マシンから旋回性をひけらかすようなことは一切なく、奥ゆかしくライダーに従ってくれるという感じだ。パッションが抑えられ、疲れないフィーリングだと言っていい。やはり、ツアラーだけのことはある。
となると、快適で疲れなくても、面白さに欠けるみたいだが、決してそんなことはない。もっと遠くまで脚を伸ばせそうで、冒険心がワクワクしてきそうなのである。

それに、こいつは乗りこなす気にさせてくれる。このヴェローチェは長脚のアドベンチャーツアラーなのだが、多くのモデルほどに大きさや重さを感じさせることがない。持て余すことがないのだ。
ハンドル切れ角もMVの他モデルより大きく、Uターンもしやすくなっている。
ただ、それだけに足着き性にちょっと難があることが残念なのだが、ヨーロッパの連中の様子を見てみると、身長が180cmあれば両踵が接地しそうなので、人によっては問題とならないだろう。

ともかく、足着き性を除いて車格がジャストサイズなら、動力性能的にもジャストサイズだ。低中回転域でスポーティに走れるのは、本来は公道を走るバイクにとって大切なことのはず。
最高出力の110HPは実に現実的で、十分ながらも使い切れて、気後れすることがない。
バイクを駆ることの面白さが作り込まれているわけで、形とアプローチは違えど、やはりMVアグスタそのものだったのである。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高	2084×900×NAmm
ホイールベース	1424mm
シート高	850mm
車両重量	191kg
エンジン形式	水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
総排気量	798cc
ボア×ストローク	79.0×54.3mm
圧縮比	12.2:1 
最高出力	110HP/10000rpm ※
最大トルク	8.5kg-m/8000rpm ※
燃料供給方式	FI
燃料タンク容量	20ℓ
キャスター角/トレール	NA/108mm ※
変速機形式	6速リターン
ブレーキ形式 前・後	φ320mmダブルディスク・φ220mmディスク
タイヤサイズ 前・後	120/70-17・190/55-17
●PHOTO:MV AGUSTA/和歌山利宏 ●REPORT:和歌山利宏
				
				
