扱いやすく懐も深いがスポーツ性能は一級品
何年ぶりだろうか。空冷DSエンジン搭載車以来の「SS」ブランドの復活である。このシリーズは、敷居の高いスーパーバイクのトップモデル…今でいう「パニガーレ」シリーズなどよりずっと気楽に操れるスポーツ性能と快適さを魅力としている。
スリムで美しい、パニガーレの流れを汲むデザインのフルカウルなど、見た目にはかなり尖った走りをしそうな姿だが、その車体構成はかなりのストリート指向。フレームはモンスター、エンジンはハイパーモタード系のテスタストレッタ°11がベース。つまり、モンスターの、スポーツNK的なハンドリングに、ハイパーモタードの瞬発力をスパイスにした、といったところだ。
しかし、瞬発力はあっても荒くれ者ではない。パワーは110馬力。スポーツNKやツーリングスポーツたちと比べても、比較的穏やかなチューニングが施されている。
実際に走ってみると、このエンジンがすこぶる使いやすい。モンスターよりピックアップはいいが、低中域でよく粘って滑らかに回る。4速の3000回転は峠道で気持ちよく流せる回転域。高圧縮で、フライホイールマスの少ないパニガーレ系エンジンなら、ガタガタして滑らかには回しにくい回転域だ。
しかし、このSSはその回転域でも快适に走る。しかも街中で、5速や6速で3000回転より少し低い回転域からでもスムーズな加減速をしつつ流せる。4000回転も回せば、リッタークラスのマルチスポーツなどより強烈な瞬発力でダッシュもできる。
許容回転域の半分がパワーバンドで、5000回転から急激なトルク変動のない、スムーズな力が出る。力の核は6500〜9000回転で、振動も少なめ。どこでも使いやすいパワーというのが魅力だ。
今回試乗したのは上級グレードの「S」で、前後にかなり高級なオーリンズのショックが付く。設定されているバネはパニガーレ系よりずっとソフトで、乗り心地を十分に考慮した味付け。これもいい。
比較的アップライトなライポジだが、このタイプは路面からの突き上げなどを受けると強い衝撃が身体に伝わりがち。だが、街中をノロノロ走るぺースから、峠道を3速全開でフルバンクするようなペースまで、見事にスムーズな初期吸収と、落ち着きの良さを発揮。路面が荒れていても硬いとか、跳ねるといった感触はまずない。少し粘るような、落ち着きのあるハンドリングがツーリングでの気楽さを生むが、体重移動をしっかりすれば俊敏に身を翻す。旋回性もツーリングスポーツというよりスポーツNKに近いと言える。
守備範囲の広い優秀な車体とサスが、使い方を選ばないオールマイティな走りを生み、扱いやすいエンジンは「誰にでも操れるドゥカティ」を実現している。しかもそのスポーツレベルが非常に高く、速くも走れる。新世代のSSは、熱い血を潜ませた「ツーリングスーパースポーツ」なのだ。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高 2070×750×1186㎜
ホイールベース 1478㎜
最低地上高 NA
シート高 810㎜
車両重量 210㎏
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブL型2気筒
総排気量 937㏄
ボア×ストローク 94×67.5㎜
圧縮比 12.6±0.5
最高出力 110HP/9000rpm
最大トルク 9.5㎏-m/6500rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 16L
キャスター角/トレール 24度/91㎜
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ320㎜ダブルディスク・φ245㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70ZR17・180/55ZR17
Photo:南 孝幸