アップライトするハンドルに空冷Vツイン何もかもが規格外! 捨てよ固定概念‼
ハンドルバーが高く迫り上がって、細身の車体にはソロ仕様のシートや小振りなヘッドライトが備わっている。これぞスキニーチョッパーと言わんばかりのスタイルだ。
日欧のスポーツバイクに乗り慣れた人からすれば、理解できないクエスションな部分も多いだろう。グリップは肩の高さまであり、上半身はまったく前傾にならず、ステップも地面から足を上げて投げ出したままのところにある。
着座位置もソファに座るように深く、荷重がリアタイヤにドッシリとかかるから駆動輪のトラクションを損なわないようビッグツインのトルクをしっかり伝えられる。スポーツバイクで必要と言われている前輪荷重、このオートバイにその理論は通用しないのだ。
それにしてもワイルド、そして良い意味で古めかしい。1745㏄もの排気量があるエンジンは、未だに空冷式でOHV。プッシュロッドカバーをクロームで目立たせ、そのアイデンティティを誇示しているかのよう。18年式で新作パワーユニットに積み替えたが、45度V型2気筒であることはもちろん、ミッションは別体式でプライマリーチェーンで駆動力をクランクから取り出して伝えている。
左側に張り出した横長のケースが、その1次減速機構。従来は足着きを大いに邪魔していたが、新型になってケースもカバーも薄くした。
渋滞時などに熱いと苦言を呈されていた問題は、水冷化という選択を退け、フレームダウンチューブ間に備えたオイルクーラーで対策した。おかげでシリンダーには、フェイクではない美しい冷却フィンが健在だ。
SPECIFICATION
全長×全幅:2320×865㎜
ホイールベース:1630㎜
最低地上高:125㎜
シート高:680㎜
車両重量:297㎏
エンジン形式:4ストOHV4バルブV型2気筒[Milwaukee-Eight 107]
総排気量:1745㏄
ボア×ストローク:100㎜×111.1㎜
圧縮比:10.0:1
最大トルク:14.78kg-m/3000rpm(145Nm/3000rpm)
燃料タンク容量:13.2L
レーク角/トレール:30°/157㎜
変速機形式:6速リターン
ブレーキ形式:前後ディスク(ABS)
タイヤサイズ 前/後:100/90B19 150/80B16
燃費:5.5L/100㎞
必要最低限なものしかないハンドルまわりなんだか心まで、身軽になってくる!
もちろん見た目だけでなく、ビッグツインならではの鼓動、そして低回転でのゆとりあるクルージングを実現しようとロングストローク設計や大径フライホイールにこだわり、低い回転でもノッキングしないようツインスパークにし、2→4バルブ化し燃焼効率を向上した。
エンジンを強力にするだけでなく、昔のハーレーがそうだったようにテイスティなエンジンとなっている。そしてさらにVツインの鼓動をより鮮明にライダーへ伝わるよう、フレームに緩衝装置はなく、わざわざリジッドマウントにしているのだ。
トップギア6速での100㎞/h巡航は2200rpmでこなし、この回転領域での歯切れ良い排気音、鼓動感を味わっていると、どこまでもいつまでも走り続けたくなってくる。
ハンドルまわりには必要最低限のものしかなく、メーターでさえハンドルクランプに内蔵して隠してしまった。ウインドプロテクションはまったくないから、走行風をまともに食らっているのにそれがまた心地いい。
ストリートボブに乗ると、潔く風を受け止め突き進もうという気になるから不思議だ。これがチョッパーの魅力なのだろう。60〜70年代の若者たちによるカウンターカルチャーに端を発するガレージカスタムは、装飾を取り払い、外装もチョップ(ぶった切った)した。
チョッパーに乗る若者たちは、豪華であることを否定するかのように身も心も軽くなって自由であることを求めた。
ストリートボブで走ったときのこの身軽さは、きっとそんなフリーダムな精神が受け継がれているからなのだろう。
DETAILS
高いギアを使っての気怠い加速ジワジワ速度が増すフィーリングに酔いしれる
ハンドルはずいぶんと迫り上がって見えるから、グリップ位置はさぞかし高いのだろうと警戒してしまうが、実際に走ってしまうと肩より少し低い位置にあるグリップは違和感なく、長時間での走行も疲れづらい。
高い位置からフロント19インチ+細身のタイヤを操るハンドリングは、想像以上の旋回性があり車体の動きは軽快そのもの。低速で若干切れ込むので、コーナー進入でブレーキングを終わらす基本厳守でコーナーに入り、アクセルを開けながら立ち上がればワインディングもアグレシッブに楽しめる。
醍醐味は加速にあり、低いギアを使ってのレスポンスの良い強烈なダッシュも痛快だが、高いギアでエンジンを低回転でもたつかせながらの気怠い速度アップもビッグツイン・クルージングの魅力だと思う。これは大排気量でワイドレンジなギア比が成せる技。重いクランクの慣性で少しずつスピードが乗っていく独特なフィーリングを味わってしまうと、エンジンの鼓動感がクセになる程の面白さがあるのだ。
PHOTO:関野 温