この週末は全本ロードレース第7戦、九州大分はオートポリス大会が行われました。鈴鹿8耐を終えて後半戦がスタートした全日本は、JSB1000クラスがもてぎ大会を終えての2レース目、そのJSB1000とST600は、土曜と日曜に各1レースが行なわれる2レース制で行なわれる予定でした。
というのも、今シーズンは各クラスのレース開催数がバラついていて、ここまでJSBクラスが8レース消化したのに対し、ST600とJ-GP2クラス、J-GP3クラスは4レースしか行なわれていないんです。このオートポリス大会でST600クラスも2レース制となっていたのはそんな事情。
しかし、そうは問屋が、いやオートポリスの天候がおろしません。海猫(=ごめ)が鳴くからニシンが来る、といったのは赤いツッポのヤン衆ですが(注:北原ミレイ「石狩挽歌」よりw)JSB1000とST600のレース1が行なわれる予定だった土曜、オートポリスサーキットへ駆け上がる上津江の212号線の山間には、きれいな雲海が見えました。雲海が見えるときゃサーキットは真っ白……ってことがあるんですよね。

画像: 土曜の公式予選、スタート時刻がこれ ライダーによると「コースは見えてもポストのフラッグが見えない」

土曜の公式予選、スタート時刻がこれ ライダーによると「コースは見えてもポストのフラッグが見えない」

サーキットに着くと、悲しいかなその読みがドンピシャ的中。朝イチのスケジュールであるJ-GP3の公式予選は、雨は小降りながらコースに霧が立ち込め、コースインすぐに視界不良で中止。2番目の予選であるJSB1000の走行でも、コースイン1周目に転倒者が出て赤旗中断、すぐに再コースインしたものの、1周を終わらないうちに、今度は視界不良でまたも赤旗中断。このまま「走行は××時から始まります」と何度もアナウンスがあるものの、その時点で何度も視界はよくならず、午前中の走行全キャンセルが決定しました。
天候が悪いのは誰のせいでもありませんし、少し霧が晴れたように見えても、コースを走る選手たちには、コースサイドのポストから提示されるフラッグが確認できない状態でしたから、走行中止は正解。オートポリス側の判断は正しかったと思います。
何せこの頃の天候といったら、1分ごとに霧の濃さや発生場所が変わり続けるような状態で、JSBも「ヨシ、霧が晴れた!やります!」ってライダーがピットロード出口で待機していたら豪雨がザーッ、ハイ撤収~、ってこともありました。チームもライダーも、集中力を保つのが大変でした。もちろん、ぼくらメディアもレインウェアを着ては脱ぎ、脱いでは着て、って繰り返しましたからねw

画像: 土曜、2度の赤旗の後、晴れてきた、スタート!と思ったら豪雨がザーッ ピットロード逆走で撤収~

土曜、2度の赤旗の後、晴れてきた、スタート!と思ったら豪雨がザーッ ピットロード逆走で撤収~

画像: チーム関係者を集めての事情説明、訂正スケジュールのミーティング 春のAPでもやったな、これ

チーム関係者を集めての事情説明、訂正スケジュールのミーティング 春のAPでもやったな、これ

各チームの関係者を集めてのミーティングで、JSBとST600の土曜の決勝1の中止が決定。なんせ決勝どころか、その前の予選すらできていませんからね。このミーティングが行なわれた正午ごろ、天候が回復し、午後イチのST600クラス予選はウェット路面→乾きつつ、のコンディションの中で行なわれましたが、ST600走行が終わったら、計ったようにザーッと雨。雷も鳴りはじめて、JSBの走行は完全に中止されました……。その後のJ-GP2クラス予選はなんとかできたんですけどね。
日曜の朝は雨も止んで日も差したんですが、今度は熊本市内からミルクロードを上がってサーキットに向かうと、またも息を呑む美しい雲海がw  サーキットに着くと、霧も晴れ上がって気温も上がり始め、いい天気ではあったんですが「これ、いつまでもつかなぁ」って心境のまま、土曜に予選ができなかったJ-GP3とJSBは、いつもの朝のフリー走行がそのまま公式予選に、ST600とJ-GP2はフリー走行のままで決行されました。

画像: ポールポジションを獲得した中須賀 これで今シーズン9戦8回目のポール! 残り1回はもてぎの野左根です

ポールポジションを獲得した中須賀 これで今シーズン9戦8回目のポール! 残り1回はもてぎの野左根です

JSBクラス、公式予選が始まると、最初はほとんどのライダーがレインタイヤスタートの後、路面が乾き始めてほとんどのライダーがスリックタイヤに履き替えてのタイムアタック。結果、ポールポジションは、8耐を負傷で欠場、それでももてぎ大会を勝った中須賀克行が獲得。2番手に野左根航汰が入って、ヤマハファクトリーレーシングが1-2を決めました。
3番手に渡辺一樹(ヨシムラ 以下「一樹」と表記)、4番手に渡辺一馬(カワサキ 以下「一馬」と表記)、5番手に高橋巧(TeamHRC)、6番手に津田拓也(ヨシムラ)、7番手以降に加賀山就臣(TeamKAGAYAMA)、秋吉耕佑(MotoUP)、清成龍一(モリワキ)、水野涼(ハルクプロ)と、このあたりが日本を代表するトップチームですね。大体、土曜日に走行できず、いきなり日曜のハーフウェットからドライ路面のセッティングを、予選1回の走行でピシッと合わせてくるってところがチーム力、ライダーの地力なんですね。特に今回は、1週間前に行なわれた事前テストも、2日間の日程のうち、2日目がサーキット施設停電に見舞われ、走行がキャンセルされていましたから、ほとんど準備ができないまま決勝を迎えた感じだったんです。
心配された天気の崩れもなく、ようやく予定通りに進む日曜日。J-GP3クラスが終わって、ジョナサン・レイによるNewZX-10RRのデモランも終わり、ようやくJSBクラスの決勝レース。オートポリスでは、実に1年ぶりのドライでのレースですね。春の大会はハーフウェット路面でスリックタイヤスタートした渡辺一馬→松崎克哉のチームグリーン勢が1-2フィニッシュを飾ったんでした。

画像: 3列目アウトからスルスルと前に出た#71加賀山がホールショット! 存在感みせた!

3列目アウトからスルスルと前に出た#71加賀山がホールショット! 存在感みせた!

その決勝レース、ホールショットを決めたのは、いつもの高橋巧ではなく、加賀山! もともとスタートの名手である加賀山ですが、3列目7番手からのホールショットはお見事! スタートから1コーナーまで、全日本が開催されるサーキットでいちばん距離のあるオートポリスでのホールショットは、スタートシグナルへのリアクションタイムだけじゃなく、ローギアの引っ張りと伸び、1コーナーでのブレーキング競争と、いろんな見所があるんです。
オープニングラップは加賀山→一樹→中須賀→野左根→一馬→高橋巧→津田の順。加賀山が序盤トップに立つ姿を見るのは久しぶりです。3周目には一樹がトップに浮上。今シーズンからヨシムラに移籍した一樹ですが、GSX-Rでトップに立つ姿も初めてです。いつもと違う風景が繰り広げられる序盤になりました。

画像: 加賀山をかわしてトップに立ったのは#26渡辺一樹 後に中須賀、野左根、高橋がいます

加賀山をかわしてトップに立ったのは#26渡辺一樹 後に中須賀、野左根、高橋がいます

一樹がトップに浮上すると、誰かがスパートするタイミングに遅れてはならじ、と中須賀もピタリマーク。同じ思いで野左根も前に出て、スタートで集団に飲まれてしまった高橋も、後退しはじめた加賀山、一馬をかわして、レース中盤までかかって3番手へ。その頃にレースを引っ張っていたのは、7周目に中須賀を、9周目に一樹をかわした野左根。野左根がトップに立った周にも、中須賀は一樹がトップに立ったタイミングと同じように、無理やりにでも前を抜いて、トップを走る野左根の後方につけています。このへんが、展開を読む力、レースでの巧さですね。

画像: 渡辺をかわして先頭に立った#5野左根 ここから野左根、中須賀、高橋が抜け出し始めます

渡辺をかわして先頭に立った#5野左根 ここから野左根、中須賀、高橋が抜け出し始めます

画像: トップ3、#21中須賀が野左根を捕えようとする瞬間 この後の最終コーナーで仕留めます

トップ3、#21中須賀が野左根を捕えようとする瞬間 この後の最終コーナーで仕留めます

画像: トップ3後方で一樹vs一馬 後方に津田がいます

トップ3後方で一樹vs一馬 後方に津田がいます

レース中盤、先頭集団は野左根→中須賀→高橋巧、そこからやや離れて一樹と一馬、おなじみのバトルofワタナベ、後方に津田、加賀山、秋吉というオーダー。
今シーズン、ここまでの全日本のレース中盤といえば、序盤に逃げた高橋を中須賀がマークし、前に出るタイミングをうかがう――ってパターンが多かったんですが、シーズン中盤あたりから、序盤に出遅れた野左根が完全に追いついてきましたね。その意味でも、野左根→中須賀→高橋巧というオーダーは、いつもと違う新鮮な風景でした。
「コータが前に出て、ペースによっては前に出ようと思ってましたが、コータのペースもよかったんで、しばらく前について体力温存していました。後ろから来る巧君にも気を配って、スパートのタイミングをうかがっていた感じです」と中須賀。トップで逃げてレースをコントロールしているようで、実は野左根は中須賀の手のひらの上。さらに、そのふたりの後ろにつく高橋は、徐々に遅れはじめてしまうんです。

画像: 空き時間にはまだ右肩アイシングが欠かせないのに……中須賀、痛みに耐えてまたがんばった!

空き時間にはまだ右肩アイシングが欠かせないのに……中須賀、痛みに耐えてまたがんばった!

画像: 区間によっては中須賀をしのぐ速さを見せる野左根 もう1ステップ上がるにはなにが足りない?

区間によっては中須賀をしのぐ速さを見せる野左根 もう1ステップ上がるにはなにが足りない?

画像: HRC待望の初優勝はまたもおあずけ、の高橋 ギリギリまで迫っても抜くまではもう一歩

HRC待望の初優勝はまたもおあずけ、の高橋 ギリギリまで迫っても抜くまではもう一歩 

結局、中須賀はラスト5周に野左根をかわして、その周にペースアップ。そのスパートについていけなかった野左根、その後方の高橋、という順で表彰台TOP3が決まりました。もてぎと同じ顔ぶれですね。
「スタートでユキオさん、一樹と見慣れないメンバーが来ましたが、あせらずに自分のペースでレースできました。中盤以降はコータが前、巧君がいて、いつもの3人でトップ争いになりましたが、今日になって気温が上がって、事前テストも含めていちばん路面温度もキツかったので、厳しかった。優勝できたし、コータが2番手とヤマハで1-2を決められたんで、日本のレースをヤマハでリードしていってやろう、と思います」と中須賀。

中盤からトップに出てレースをリードした野左根も、いつもと違う戦略でレースを進めたひとり。「ヤマハ1-2とはいえ、いつも中須賀さんが前にいて、その様子をうかがっているうちに引き離されてしまうパターンが続いていたので、今日は前に出てやろう、と。前でコンスタントにいいペースで走れたんですが、らすと5周くらいで中須賀さん、差してくるだろうな、と。その通りに、最終コーナーのイン側という、すごく意外なところで仕掛けられたのがすごいな、と。でも、今日はいつものタイミングでは話されずに、ひとつ吸収できた」(野左根)

今シーズン勝ちなし、もてぎに続いて中須賀、野左根の後塵を拝した高橋は、全力でやった、でも追いつけずに次こそは…という気持ちをにじませた。
「今日はスタートで前に出られなかったこともあって、レース展開も、前回のもてぎのように前に出て、あとから抜かれてしまった反省を生かして、違う組み立てにしていました。スタートで少し下がって8番手くらいにいたので、これはマズイと無理やり前に出て、レース中盤に3番手に上がってからは、追いついて、離れて、の繰り返しになってしまいました。前のふたりの走りを見ながら余裕を持って走っているつもりが、きょうの路面温度ではペースアップについていけなかった。次はやり返したい……これ、いつも言ってますね」(高橋)

画像: 予選も決勝もライバルを圧倒! 敵なしの快進撃はいつまで続くのか

予選も決勝もライバルを圧倒! 敵なしの快進撃はいつまで続くのか

これで全日本ロードレースは、岡山国際→鈴鹿と2戦3レースを残すのみ。7戦9レースを終えてのランキングは以下の通りです。

1 中須賀克行 ヤマハファクトリー 212p
2 高橋 巧  TeamHRC     168p
3 渡辺一馬  Teamグリーン    159p
4 野左根航汰 ヤマハファクトリー 135p
5 津田拓也  ヨシムラスズキ   126p
6 渡辺一樹  ヨシムラスズキ   126p

あと3レースでの最大獲得可能ポイントは25p×3レースで75p、最終戦にはボーナスポイントが3p×2レースがつきますから、75+6=81p。なので、現時点で81p以内にいるランキング4位の野左根までがチャンピオン獲得の可能性が残っています。ランキング2位の高橋が残り3レースを全勝したとしても、中須賀は37pだけ獲得すればチャンピン獲得。これはあと3戦すべて8位以上ならばOK。2年ぶりのチャンピオン奪回の可能性は限りなく高くなってきました。
これでシリーズは少し間隔が空いて、次戦岡山国際大会は9月30日が決勝レース。この期間にいかにテストをやってマシンを仕上げてくるか、が終盤の2戦3レースの結果を左右しそうです。

写真・文責/中村浩史

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