最高の天気だった土曜日からうってかわって、朝から非情の雨が降り続いた九州・熊本&大分エリア。オートポリスサーキットには霧が立ち込め、オートポリス2&4は朝からスケジュール変更、フリー走行ディレイ→短縮→中止と、なんとかレースを成立させようと、主催者・関係者には忙しい午前中でした。何のスケジュールが何時スタート、いやそれ延期、いやそれ中止……最後にはレース中止もありえます――そんな状況だったのです。
通常「朝フリー」と呼ばれる決勝前のウォームアップランは、なんとか雨も上がって、霧も晴れかけた12時スタート。けれど、走行中セッション中に霧が立ち込め、走行は赤旗中断。そのあと、何とか霧も晴れて、よーしやるか!って感じの決勝スタートでした。今考えれば、この時間帯だけだったんですね、この日曜にオートポリスが走行可能になったのは!
レース手順としては、まずはグリッド上にマシンを並べにピットから出ますよね。まずここで、ひとつの選択。そう、タイヤはどうする! レインかスリックか?というひとつ目の選択です。
この時、まずコースインして、時間内ならばいったんピットロードに戻って通過して、グリッドにつくまでに最大2周はできるんですが、レインで出て行って周回、あ、やっぱ濡れてるじゃん、レインで正解、と判断したライダーと、この路面ならスリックで!と判断したライダーがいたんです。チーム判断、ってパターンもありますしね。
結果、レインタイヤを選んだのが予選上位陣の顔ぶれでした中須賀、渡辺一樹、津田、野左根、高橋巧……。そしてスリックを選んだのがカワサキのふたり、渡辺一馬と松崎克哉でした。
「チームがスリックで行こう!と背中を押してくれました。僕はこの濡れ方ならスリックもイケるかな、いやでもレインの方がいいか、って迷いっぱなしだったんですが、チームはもうスリックで行こう、と。本当に心強い、結果的にチームに助けられましたね」とは渡辺一馬。一馬がスリックを選んだことで、松崎もスリックを選択。結果、カワサキはタイヤギャンブルに出たんです。
これ、本当に時々起こるレースのアヤで、いま路面状況は濡れてる、でも晴れてきそう、いやまた雨だろう……そういう選択で、スリックかレイン、どっちがギャンブルかが変わってくるんです。今回は、スリックタイヤが絶対少数。つまり、スリックを履いたカワサキ勢がギャンブルを打った、ってことになります。レインタイヤ勢は「ばかだな、あいつスリックでやんの」と思ったでしょうし、スリック勢は「雨降るな、ラインよ乾け!」と願っていたんでしょう。

そしてこの時、選択を変えたのがモリワキホンダの高橋裕紀でした。ユウキは、ピットから出ようとしたときに、カワサキ勢がスリックタイヤだったのを発見! これもライダー、チーム、そしてピレリタイヤのイタリア人エンジニアさんが「だいじょうぶ、お前ならスリックで行ける!」と強く推してくれたそうです。こういう時、いいな、イタリア人(笑)。

画像: 決勝スタート この時、写真以上に路面は濡れていました

決勝スタート この時、写真以上に路面は濡れていました

決勝レース、まずはウェット路面でのスタートとなりました。ホールショットは中須賀、巧、一樹の順で1コーナーへ。申し訳ない、高橋ふたり、渡辺もふたりいますんで、高橋巧、高橋裕紀、渡辺一樹、渡辺一馬に関しては、ファーストネームで表記させてもらいます、ややこしいから。
しかし、オープニングラップのうちに、すぐに巧がトップへ。しかし負けじと、中須賀もまた前に出て、中須賀、巧、一樹、後方にヨシムラの2台、加賀山、秋吉、といったオーダーでオープニングラップをスタートします。

画像: 3~4周目くらいでしょうか、ここから#26一樹がトップに躍り出ます

3~4周目くらいでしょうか、ここから#26一樹がトップに躍り出ます

3~4周目あたりには、ややトップグループがバラけて中須賀、巧、一樹、秋吉の4台がレースをコントロール。そこから秋吉が遅れはじめ、中須賀、巧、一樹の3台。一樹も一度トップに立って、一樹→巧→中須賀の順でレース中盤を消化していきます。レース中盤あたりでは、今度は巧がトップに立って、2番手に中須賀、一樹。巧が、中須賀以下を引き離し始めます。つまりこの3人、レインタイヤですね。いつもなら、ここでこの3台が4番手以下を引き離し始めて……となるんですが、今回のレースはここから大きく動きます。

画像: レース中盤、トップに立った巧が引き離しにかかるんですが、巧もこれが限界!だったそうです

レース中盤、トップに立った巧が引き離しにかかるんですが、巧もこれが限界!だったそうです

この時、後方からものすごい勢いで追い上げていたのが一馬でした。一馬はスタート直後には、中団グループに沈んでいた感じだったんですが、まず裕紀が順位を上げ始め、次いで一馬、その後方から松崎もポジションを上げてきます。そう、主にこの3人がスリックタイヤだったんです! レインタイヤ勢は、レインのソフト目/ハード目と分かれていて、巧はハード目のレインタイヤだったよう。おそらくそれで、レース中盤から2番手以下を引き離しかけたのでしょう。

画像: おそらくソフト目のレインタイヤを履いていた中須賀がペースを落とす中、#11一馬が来ます!

おそらくソフト目のレインタイヤを履いていた中須賀がペースを落とす中、#11一馬が来ます!

予定では20周で行われる予定だった決勝レースはスケジュール変更で周回数短縮となり、15周の予定でスタート。その残り5周あたりで、裕紀をかわした一馬が、一樹を、中須賀を、そして巧までも抜き去り、とうとうトップに躍り出たのです!

画像: とうとう巧までパスした一馬 このまま逃げ切ってJSB初優勝を決めます!

とうとう巧までパスした一馬 このまま逃げ切ってJSB初優勝を決めます!

画像: 「スタート後は後ろから数えた方が早い順位を走ってました」という松崎

「スタート後は後ろから数えた方が早い順位を走ってました」という松崎 

一馬のペースに比べ、徐々に勢いを失っていく巧、中須賀、一樹、そして津田。ついに松崎が2番手に躍り出たころには大番狂わせと言ったら失礼ですが、07年に柳川明が筑波サーキットで飾った以来の優勝をカワサキが、しかも1-2で飾るという結果になったのです。JSBクラスでは、一馬、全日本初優勝、松崎は全日本初表彰台で、3位裕紀は、開幕戦・もてぎ大会のレース1で清成龍一が獲得したのに続く、モリワキ勢の表彰台を成し遂げました。
「初優勝、思うことがありすぎて、とても言い足りないのですが、いまこの場所で走るチャンスを与えてくださったカワサキのみなさん、チームのみんなにお礼をいいたいです。やっと勝ちました。今回はこういうコンディションでしたけど、次はドライのレースでこういうレースをして、勝ちたいです」と一馬。
松崎は、土曜の予選でもトップ10に残ってQ2に進出する走りを見せていたんですが、それをうまくつなげての全日本初表彰台となりましたね。実は偶然にも、レース前に松崎に話を聞くことができていて、特にカワサキのホームコースという利が大きいわけじゃないけれど、地元(松崎は福岡の人です)コースなので頑張りたいです、と言っていたのが印象的でした。
「去年からチームグリーンで走らせてもらうようになって、少しずつJSB1000のバイクの作り方がわかってきた感じです。ホントにレベルの高いクラスなんで、勉強しながらなんて言ってる場合じゃないんですが、課題もまだまだたくさんあるけど、とにかくバイクの作り方をうまくなって、タイムを出す走りをするのはそれから、って感じです」(松崎)

画像: チームメイトの清成はレインタイヤチョイスで16位フィニッシュ 状況によってはこれが正反対になった可能性もあったんです

チームメイトの清成はレインタイヤチョイスで16位フィニッシュ 状況によってはこれが正反対になった可能性もあったんです

3位に入った裕紀は、レース直前のスリック決断が奏功しました。レース序盤、スリックでこの路面はどうなの、と不安になりながら走っていたそうですが、周回が進むにつれてペースが落ちず、それが3位表彰台につながったレースとなりました。
表彰台の3人がスリックタイヤを選択して成功したとはいえ、一歩間違えばまるで正反対の結果になったかもしれないレースでした。今回のスタートで、実は予報はずっと「もうすぐ雨です」的なサインになっていたみたいで、事実レース中も一度、雨粒が落ちてきたのだといいます。そのまま雨になっちゃえば、表彰台の3人はあえなく下位に沈んだだろうし、もっと早く乾いていたら、グリッドでみんなスリックに替えていたでしょう。そう、まるでMotoGPのアルゼンチンの時のように、ね。
さらには、レース中にまた雨が降り出すことも考えられたから、赤旗でレース成立の周回の時点でトップにいられるように、やわらかめのレインタイヤを履いて、スタートから逃げまくる、ってテもあったと思います。
ちなみにオートポリス、JSB1000のレース終了後の表彰式を行なっている最中に雨が降り出し、その後に予定されていたスーパーフォミュラは中止となってしまいました。やれやれ。

画像: 表彰式のころ、また雨がザーッ 写真でも雨粒うつってますね

表彰式のころ、また雨がザーッ 写真でも雨粒うつってますね

■全日本ロードレース第3戦 オートポリス2&4正式結果
優勝 渡辺一馬 カワサキTeamグリーン
2位 松崎克哉 カワサキTeamグリーン +4.581s
3位 高橋裕紀 モリワキMOTULレーシング +15.547s
4位 高橋 巧 TeamHRC        +20.953s
5位 星野知也 TONE RT SYNCEDGE   +22.614s
6位 渡辺一樹 ヨシムラスズキMOTUL   +30.578s
7位 津田一磨 Team BabyFace     +32.552s
8位 岡村光矩 KRP三陽工業&RS-ITOH +40.343s
9位 中須賀克行 ヤマハファクトリー +40.678s
10位 児玉勇太 TEAM KODAMA     +41.288s

写真・文/中村浩史

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