日本のモトクロスシーンが大混乱に
10月21日、宮城のスポーツランドSUGOでおこなわれた全日本モトクロス選手権に、1名のレコードブレイカーが来日参戦。なんとウィメンズモトクロス世界チャンピオンであるキアラ・フォンタネージが、やってきたのである。
「こんなマディは見たことないし、難しいわね」とSUGOでキアラは言った。激しい雨中でもレースをおこなう全日本モトクロスでも、数年ぶりと思われるほどの極悪なコンディション。キアラは、IA2(4スト250ccメインの排気量限定最上級クラス)序盤でしっかり見せ場を作っておきながら後退、ヒート1では24位、ヒート2では29位の結果。
おそらく、多くの日本のモトクロス関係者はほっと胸をなでおろしたことだろう。なぜなら、キアラは事前練習において、IA2でチャンピオンを獲った渡辺祐介に迫るタイムで走っていたというのだ。日本では、女性のためのレディースクラスがあるが、IAライセンスを持つ女性ライダーはごく稀であって、実力はさらに男性と開きがある。だから、チャンピオン同等の走りができるという事実に、いったいどこまで走れるのか、と戦々恐々だったのだ。
「私は昔から男性と一緒に走っているので、慣れています。逆に男性と一緒に走る方がプレッシャーを感じません。こういうトレーニングでは、どんなリザルトでもい、失うものもないと思っています」と事前にキアラは言った。
いや、そもそも今年すでにモトクロスの世界選手権であるMXGPのMX2クラスで、キアラはスポット参戦までしている。コンディションのいいレースだったらと思うと、身震いがするものだ。
兄と共にモトクロスの世界へ
キアラの一家は、モトクロスの世界では少し珍しいタイプだ。親は特にモトクロスをやっていたわけではなく、きっかけは兄がモトクロスをやっていたことにあったのだと言う。
「お父さんがたまたまプレゼントにモトクロスバイクをくれたことで、モトクロスをはじめました。PW50ですね。
最初モトクロスを始めた時はジャンプが少し怖かった。難しいと思っていました。歳を重ねるごとに、慣れてきました。子供の時からずっとやっているので、だんだんそれに慣れてきたというのが正しいかもしれません」
イタリアの北部、それこそドカティ本社のすぐ近くで生まれ育ったキアラは、ぐんぐんと頭角を現し、モトクロス世界選手権のウィメンズクラスに挑戦するようになる。
「最初の1、2年目には学校辞めました。辞めると決めた時、母親はずいぶん怒っていました。今思えば正解だったと思います」とキアラは言う。
堂々とした立ち振る舞い、恵まれた体格は自由奔放に育ってきたことを想像させる。
今は「スタイル目的ではない」ダイエットに夢中
がっしりした体つきは、モトクロスでは有利だ。特に、この数年は体幹や大腿が、ギャップで暴れるマシンを押さえるのに、不可欠だと言われているが、キアラのそれは男性のモトクロス選手と変わらないほど発達している。
「子供の頃から体操をしていて、同じメニューを繰り返しやってきました。主にジムでの筋トレです。でも、私の体は筋肉が付きやすくて、今年からトレーニング自体を落とす方向へ変えています。1年で7キロくらいあっという間についてしまう。今は、3キロくらい落とすように、ランニングとサイクリングをメインにしていますね」とのこと。
今年、最終戦の大逆転で5回目のウィメンズ世界チャンピオンを獲ったキアラ。まだまだ、この先走り続けるつもりで筋力を調整し続けている根っからのアスリートだ。「バイクレースがすごく好きで、モトクロスが好き。だから、この先もモトクロスをやっていきたいと思っています」とのこと。キアラは、十分にプロフェッショナルなライダーとして活躍しているが、それと同時にとても根本的にモトクロスが好きなのだ。インタビューを通じて、その熱が存分に伝わってきた。
きっと、今後もファンの心をぐっとつかんで離さない走りをしてくれるに違いない。
(写真・文 稲垣正倫)
Kiara Fontanasi キアラ・フォンタネージ
1994年3月10日 イタリア生まれ
WMXの主な戦績
2017年:WMX チャンピオン
2016年:WMX ランキング4位
2015年:WMX チャンピオン
2014年:WMX チャンピオン
2013年:WMX チャンピオン
2012年:WMX チャンピオン
2011年:WMX ランキング2位
2010年:WMX ランキング4位
2009年:WMX ランキング9位