OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]

空前の盛り上がりを見せたレーサーレプリカブームは今から四半世紀ほど前の出来事になる。ブームの黎明期から全盛期までは雑誌でも取り上げることが多いが、その終焉期のようすは露出の機会も少なく、記憶の中からもフェードアウトしようとしている。ブームという得体の知れない空気の中で、キラリと光ってたちまち消えたオートバイ。それがヤマハのYZF‐R7[OW‐02]だ。

画像1: OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]

FZR750R [OW‐01]の後継機であるR7はスーパーバイクレース参戦を前提に開発され、99年にヨーロッパ向けとして約400万円以上で500台が限定販売された。全日本選手権では開発ライダーも務めた吉川和多留選手がホンダのRVF/RC45やカワサキZX‐7RR、スズキGSX‐R750を抑えてデビューイヤーにチャンピオンに輝き、00年の世界選手権では芳賀紀行選手がランキング2位を獲得して戦闘力の高さを実証。

日本には三十数台が存在したようだが、多くが納車と同時にレーシングマシンに仕立てられたため、現在公道走行可能なR7はおそらく10台に満たないだろう。まさにレア中のレアモデルだ。
試乗車両はドイツ仕様で、現オーナーは1年ほど前に手に入れたとのこと。オーナーが普段から乗っているうえ、メンテナンスも行き届いているため状態はすこぶる良好で、20年前のオートバイとは思えない。ノーマルからの変更点はスモークのスクリーン、ブレンボのフロントブレーキシステムと油圧クラッチマスターシリンダー、CFRP製リアインナーフェンダー、リアウインカーの小型化。動力系はアクラボビッチのエキゾーストシステムのほか、スプロケットの変更でファイナルをショート(加速型)にしてある程度だ。

画像2: OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]

跨ってみると現在の600㏄クラスのスーパースポーツモデルと似た感触で、取り回しは楽々。操作系も軽いし、前後サスペンションの初期作動もスムーズなので公道走行も充分に許容範囲内……と思ったのだが、走ってみると印象が変わった。

まずエンジン特性が公道走行に合わない。3500回転以下ではトルクが薄く、しかも1速ギアが通常のオートバイの2速と同等以上にロング。スロットル開け始めの反応も鋭すぎて、発進には慎重な半クラッチ操作、もしくは4000回転以上を使ったダッシュが要求される。

いったんスタートして4000回転以上を使っていれば普通に走れるが、エンジンが「回転をキープするな! もっとブン回せ!」と求めてくるフィーリングで、高速道路以外ではストレスが溜まる。まあ、レーシングユース前提のホモロゲーションモデルなのだから、公道での快適さを要求するのは筋違いなのだが。

エンジンのシビアさに対して市街地での乗り心地は良好だが、おそらく過去のオーナーがハードな乗り心地に閉口して前後サスペンションをソフトに設定したのだろう。特にフロントのイニシャルと減衰を抜いてあるようで、フロントタイヤに荷重を乗せたままバンクさせた際にサスの反力が弱く、スロットルを開けての二次旋回にスムーズにつながらない。しかし上りのコーナー立ち上がり加速では、リアに荷重が移ったときにリアから自然に旋回するヤマハらしいハンドリングを見せる。
本来のセッティングならコーナーアプローチから鋭く旋回するに違いないし、メインフレーム/スイングアーム剛性の高さで高速コーナーも得意のはず。サーキットで走らせても最新スーパースポーツモデルに引けを取らないだろう。

レース用キットパーツを組んでECUセッティングを変更すれば160馬力以上を発揮するエンジンだが、ノーマル状態では約106馬力。これはフランスの出力規制に合わせてあるためで、ホモロゲモデルらしい割り切りだ。

試乗車両はマフラーの変更など若干の手が加えられていたが、体感的には120馬力程度。それでも600㏄の最新スーパースポーツモデルと同等だから、動力性能に不満はない。5000〜1万3000回転あたりまでスムーズにパワーが出てくるし、クロスレシオのミッションも小気味よく決まるので峠道でもギアが合わないということはない。

ただ、どの回転域でもスロットルの開け始めの、いわゆる「ドン付き」があり、6000回転近辺と1万回転を超えたあたりにはトルクの谷がある。慣れれば苦にならないが、レース用キットを組めばきれいに解消するのだろう。市販状態はあくまでも素材だということを実感させられる。

希少車なのでバンク角もエンジン回転も抑えて走ったが、バンキングのダイレクトな反応や、いかにもフリクションロスの少なそうなエンジンフィールにレーシングマシンの片鱗を感じ取ることができた。

R7が登場した99年当時、全日本選手権の最高峰レースはスーパーバイククラス。4気筒が750㏄以下、2気筒は1000㏄以下というレギュレーションだったが、03年から現在のJSB(ジャパンスーパーバイク)クラスに移行。4気筒は1000㏄以下までとなったことから、ヤマハの主力機はR7からR1へと代わった。

レプリカブームの終焉と、レースレギュレーションの変更。ふたつの大きな渦に飲み込まれ、1代限りで姿を消した悲運の名車。レプリカブームの終焉を語るとき、R7を忘れてはいけない。

画像3: OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]
画像4: OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]
画像5: OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]
画像6: OW-02 [1999 YZF-R7 RM01]

1999 YZF-R7[OW-02] SPECIFICATIONS
エンジン型式 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 749㏄
内径╳工程 72╳46㎜
圧縮比 11.4
最高出力 106HP/11000rpm
最大トルク 7.4㎏-m/9000rpm
燃料供給方式 EFI Dual injection
変速機型式 常時噛み合い式6速リターン
全長 2060㎜
全幅 720㎜
全高 1125㎜
軸間距離 1400㎜
シート高 840㎜
乾燥重量 176㎏
燃料タンク容量 23L
タイヤサイズ(前)120/70ZR17
タイヤサイズ(後)180/55ZR17
当時価格 400万円以上

DETAIL

画像: 向かって右側がロービームで、ハイビーム時には両眼が点灯するプロジェクターヘッドライト。カウル類はレースの現場で素早く着脱できるようにクイックファスナーを多用している。スモークのスクリーンは社外品。

向かって右側がロービームで、ハイビーム時には両眼が点灯するプロジェクターヘッドライト。カウル類はレースの現場で素早く着脱できるようにクイックファスナーを多用している。スモークのスクリーンは社外品。

画像: 軽量なアルミ製燃料タンクは耐久レース出場を見据えて23Lという大容量。タンク上面にはクイックチャージャーの受け口用スペースまで確保されている。タンク幅は広めだが、ヒジでホールドしやすいというメリットもある。

軽量なアルミ製燃料タンクは耐久レース出場を見据えて23Lという大容量。タンク上面にはクイックチャージャーの受け口用スペースまで確保されている。タンク幅は広めだが、ヒジでホールドしやすいというメリットもある。

画像: クランク、カウンター、ドライブの3軸を三角形に配置。これによってクランクケースの前後長が詰められるため、同じホイールベースでもスイングアームを長くできる。ハンドリングとトラクションを向上させる技術だ。

クランク、カウンター、ドライブの3軸を三角形に配置。これによってクランクケースの前後長が詰められるため、同じホイールベースでもスイングアームを長くできる。ハンドリングとトラクションを向上させる技術だ。

画像: ノーマルはステンレス製の円筒形サイレンサーからアクラポビッチのエキゾーストに換装。サイレンサーとの干渉を避けるためにウインカーも小型のものに交換されているが、これが純正と言われてもまったく違和感がない。

ノーマルはステンレス製の円筒形サイレンサーからアクラポビッチのエキゾーストに換装。サイレンサーとの干渉を避けるためにウインカーも小型のものに交換されているが、これが純正と言われてもまったく違和感がない。

画像: 当然のようにオーリンズ製φ43㎜フルアジャスタブル倒立フォークを採用。ノーマルはヤマハ純正キャリパーを装着しているが、この車両はマスターシリンダーを含めてブレンボのブレーキシステムに換装済み。

当然のようにオーリンズ製φ43㎜フルアジャスタブル倒立フォークを採用。ノーマルはヤマハ純正キャリパーを装着しているが、この車両はマスターシリンダーを含めてブレンボのブレーキシステムに換装済み。

画像: フレームはプレス成型のスイングアームも含めて『デルタボックスⅡ』と呼ばれた。純正としては軽量なホイールに180/55ZR17のタイヤを組み合わせている。肉抜きされたチェーンアジャスターもレース前提装備のひとつ。

フレームはプレス成型のスイングアームも含めて『デルタボックスⅡ』と呼ばれた。純正としては軽量なホイールに180/55ZR17のタイヤを組み合わせている。肉抜きされたチェーンアジャスターもレース前提装備のひとつ。

画像: ブレーキとミッションのペダルをステップペグと同軸にして確実な作動性を確保。ステップ位置はライダーの体格や好みに応じて高さや前後位置を変えられる。もちろん1アップ5ダウンの「逆チェンジ」パターンにすることも可能。

ブレーキとミッションのペダルをステップペグと同軸にして確実な作動性を確保。ステップ位置はライダーの体格や好みに応じて高さや前後位置を変えられる。もちろん1アップ5ダウンの「逆チェンジ」パターンにすることも可能。

画像: リアサスペンションユニットもオーリンズのフルアジャスタブルタイプで、ホイールトラベルは138㎜。カーボンファイバー製のリア・インナーフェンダーは純正ではなく、ごく少数が製造されたリプレイスパーツ。

リアサスペンションユニットもオーリンズのフルアジャスタブルタイプで、ホイールトラベルは138㎜。カーボンファイバー製のリア・インナーフェンダーは純正ではなく、ごく少数が製造されたリプレイスパーツ。

画像: デジタル表示の速度計とアナログ表示のタコの組み合わせは、最新モデルでも多用されてるデザインパターン。シンプルな構成だけに、エンジン回転と水温を瞬時に読み取れる。レースではそれだけで充分だ。

デジタル表示の速度計とアナログ表示のタコの組み合わせは、最新モデルでも多用されてるデザインパターン。シンプルな構成だけに、エンジン回転と水温を瞬時に読み取れる。レースではそれだけで充分だ。

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