この週末は全日本ロードレース最終戦「MFJグランプリ」が行なわれました。このところ日本中が週末のたびに雨降りで、MotoGP日本グランプリも雨だったから、本当に久しぶり、好天のなかでのレースでした。鈴鹿の最終戦は雨になることが少なくないので、それだけでもう、うれしくて^^
全日本ロードレースは、前戦・岡山大会で水野涼(MuSASHi RT ハルクプロHONDA)がチャンピオンを決めたJ-GP2クラス以外、J-GP3、ST600、そしてJSB1000クラスがチャンピオン決定戦。JSBは、メインイベントらしく2レース制でのレースです。
ここでは、そのメインクラスのお話を。ここまで7戦、シリーズは主役なき戦いとなって進んできました。絶対王者・中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)が開幕から2戦連続転倒リタイヤ!
その2レースを勝って幸先いいスタートダッシュを決めたのが高橋巧(MuSASHi RT ハルクプロHONDA)だったんですが、その高橋も安定した成績とは言い難く、第3戦もてぎ大会では、中須賀が勝利寸前で接触転倒し、そのレースを制したのは、中須賀のチームメイト・野左根航汰(ヤマハファクトリーレーシング)、高橋は2着でした。
結局、高橋はシーズン始まりの2戦に勝っただけで、ここまでの残り5戦は野左根が2勝、中須賀が3勝。ランキングトップは津田拓也(ヨシムラスズキMOTUL)、2位に高橋、ランキング3位は渡辺一馬(カワサキTeamグリーン)で迎えた最終戦だったのです。
最終戦を迎えた時点でのランキングは
①津田:155Point ②高橋巧:149P(-6P) ③渡辺:144P(-11P)
最終戦はMFJグランプリボーナスとして、全員に通常より3ポイント多く与えられますから、優勝すると28P、2位25P、3位23Pを獲得でき、2レース制でダブルウィンすると56Pを獲得できるというわけです。転倒や着外などのミスを犯すと終了。このトップ3人はお互いの位置を見ながらのレースになると思われてきました。
決勝日朝のウォームアップ走行までは、前回アップした分を参照いただくとして、いよいよ決勝レース1。これは、ほぼ予想通りのレースが見られることとなります。
スタートで飛び出したのは中須賀。高橋、野左根、渡辺、加賀山就臣(Teamカガヤマ)、その後ろに津田がつける展開です。高橋、津田、渡辺にしてみれば、絶好調男・中須賀が前に出るのは関係ない、お互いの出方をウォッチしているだけ、というポジション取りだったのかもしれません。
8周のスプリントレースは、サイティングラップで1台トラブルを起こしたマシンがコース上に残ったため、スタートディレイ。周回数はさらに1周減算されて7周で行なわれることになりました。中須賀はスタートからお構いなしに飛ばして、高橋と渡辺の2番手争いから高橋が前に出て、野左根が渡辺をかわして3番手に浮上、というポジショニング。野左根はすぐに2番手に浮上して、中須賀を追います…というより、2番手争いの先頭に立ちます。
とにかく渡辺と津田より前でフィニッシュしたい高橋は、野左根を抜き返して2番手に再浮上。この時、おそらく津田が下位に沈んでいたのは知っていたでしょうし、渡辺の位置を意識していればいいだけ。その渡辺も、なんとしても高橋の前でレース1を終えたいでしょうから、トップグループに食らいついて周回を重ねます。
結局、レースは中須賀がぶっちぎり、2位以下に高橋巧、野左根、渡辺、藤田までが集団でフィニッシュ。津田はなんと8位に終わってしまいました。
これでレース1を終えてのポイントランキングは
①高橋巧:174P ②津田:171P(-3P) ③渡辺:165P(-9P)
ランキングトップが津田から高橋に入れ替わり、ランキング上位3人がギュッと詰まっての最終レースを迎えることになりました。
「スタートディレイで1周減算、タイヤも冷えちゃって、スタートすぐがなかなかペースが上げられなかったんですけど、(高橋)巧君が1コーナーで抜きに来ても、これは抜かしちゃいけないな、と行きました」と中須賀。
「ポイント差とか、いろんなプレッシャーとかポジション取りとか考えて、転ばないように転ばないように、って考えての怖いレースでした。最低限の仕事ができたかなと思います。レース1の方が大事だと思っていたので、レース2はもう少し余裕を持って走れると思います。一馬選手もすごく調子よさそうで前に来ていたけど、レース2は気持ち的には少しだけ楽になると思います」と高橋。
レース2も、ポイントランキングを考えると、重要さ、シビアさはなにひとつ変わらない一戦。ランキングトップ高橋と2位津田は3ポイント差、これは津田が優勝/高橋3位とか、津田2位/高橋4位と、間にひとり入れると逆転するポイント差。渡辺は、トップ高橋まで9ポイント差ですが、過去それくらいのポイント差をひっくり返した例は少なくありません。実現性は低いでしょうが、渡辺3位、高橋11位でひっくり返ります。ミスやトラブルはゼッタイだめ! しかし、津田がなかなか浮上してきませんね……。
そしてレース2は、今までに見たこともない展開で始まります。
「自分でもびっくりするくらい決まった」(高橋)というスタートダッシュで、なんと高橋がホールショット! 常々スタートが下手だ、と自分で言っている(笑)高橋にしてみれば珍しいシーン。中須賀、野左根、渡辺、藤田が続いてトップグループを形成。こうなれば、高橋が逃げれば面白いパターンですが、逃げるほどの差はなく、トップグループは終始この5台。高橋は中須賀を前に出して、その後ろで走りたい、と思ったようですが、そこは中須賀も、タイミングが来るまでは抜きません。これがレース巧者たるゆえんですね。とにかく中須賀は、この5年くらいは、速いだけじゃない、レース全体を見通してペースを見て、スパートのタイミングが上手いです。
先頭を走る、または走らされている高橋、その背後につける中須賀。3番手は渡辺と野左根がポジションを入れ替えながら争っています。その後方に、離されることなくつける藤田。藤田、いいですね。開幕戦の鈴鹿もいい位置を走っていましたが、地力がついてきた。
ラスト5周、中須賀が前に出ます。ここから引き離す力、開けていくタイヤが残っているのが中須賀の底力。高橋も、本当ならば中須賀を前に出して、ラスト数周で前に出て引き離す、をやりたかったんでしょう。結局、数周でアッという間に3秒ほどの差をつけて中須賀がトップでゴール。中須賀が逃げにかかった時に2番手にいたのは渡辺と野左根でしたが、野左根はスリップダウンを喫して後退、やや後方にいた高橋も、最終ラップでなんとか追いついて高橋、渡辺の順でフィニッシュ。もちろん、3位でもチャンピオン決定だった高橋ですが、ここはマケラレヌ、と燃えたそうです。
高橋巧、JSBクラス9年目にして初のJSBチャンピオン。2008年にGP250クラスのチャンピオンになってからだから、長かったですね。08年、20歳だったGP250チャンピオンは、JSBクラスでは…
1年目にランキング8位
2年目に初優勝して同3位
3年目も1勝で同2位
4年目にも1勝同7位
5年目は未勝利のまま同3位
6年目は2勝を挙げるも同2位
7年目は未勝利で同2位
8年目も未勝利で同3位
そして今年、2勝を挙げてチャンピオン、28歳になりました。思えば、10~11年に秋吉耕佑、09年と12~15年に中須賀に敗れましたが、この2人がいたからチャンピオンにはなれなかったんですね。
「9年目、やっとチャンピオンにはなれましたが、中須賀さんの転倒もあって獲れたとしか思っていません。今はとにかくホッとしています。チャンピオンになったとはいえ、2回しか勝ってないし、それ以外は悔しいことばっかり。特にオートポリスのマシントラブルとリタイヤは、自分が調子よくて中須賀さんと勝負できる、と思っていただけに、今でもというか、ずっと悔しさは忘れません」と高橋。ポーカーフェイスの中でもポーカーフェイスで、喜びや悔しさを爆発させることはありませんが、この日ばかりは…あんまり変わんなかったな(笑)。いつだったか高橋に、勝ったらもっと喜べよぉ、って伝えたら「チャンピオンになるまで取っておきます」って……約束が違うじゃん(笑)。
レース2終わりの表彰台上では、レースアナウンサーに来年はどうしますか?と聞かれ
「常々いっていることですが、世界に行きたいです」と答えた高橋。もう少し突っ込むと
「いつも言ってますけど、世界に行きたいという思いは持ち続けています。でも、チャンピオンにもなってないのに、とも思っているので、これでしっかりアピールできるかな、と思います。今から言っても、もう来年の体制は決まっているので、簡単に行けるとは思いませんが、せっかくチャンピオンになったんだから、言いたいことは言って、与えられた環境でしっかり頑張りたいです」
すでに2018年の世界中のレース体制はほぼ決まっています。
いや待てよ? 今年高橋が代役参戦したワールドスーパーバイクは、レオン・キャミアのパートナーがまだ決まってないんじゃなかったっけ?
そしてレースが明けてこの7日火曜日には、ホンダが2018年の主要レース体制計画を発表しています。そこには!
うーむ、残念! まだ発表じゃなかったか!
もうすぐ29歳と、ちょっとベテランの域に入ってはいますが、ホンダヨーロッパとレッドブルホンダWSBKチームの皆さん、高橋巧の2018年予定、空いてますよー!