MotoGPの激闘はもちろんですが、moto2とmoto3のワールドチャンピオン、もう決定しています。
moto3は、第16戦オーストラリアGPでホアン・ミル(レオパードレーシングHONDA)がチャンピオンを獲得。2位はロマノ・フェナティ(マリネッリ・リバコールドスナイパーズHONDA)、3位はアーロン・カネット(エストレージャ・ガリシアHONDA)またはホルヘ・マルティン(Del ConcaグレシーニHONDA)の可能性が残っています。みんなホンダNSF250Rユーザーですね。
moto2は、このマレーシアGPをランキング2位のトーマス・ルティ(CarXpertインターヴェッテン)が負傷欠場したことで、ランキングトップにいたフランコ・モルビデリ(MarcVDS)が初タイトルを獲得。ランキング2位にそのルティ、3位にミゲール・オリベイラ(レッドブルKTM-AJO)が入っています。そう、このオリベイラがスゴいの!
オリベイラは15年にmoto3クラスのランキング2位となり、16年にはmoto2クラスにステップアップ。けれど、デビューイヤーは最高位8位、ベスト10入り3回という、ちょっと期待外れの成績で終わったのです。
そこに目をつけたのがKTMでした。KTMは2012年からスタートしたmoto3クラスのマシンコンストラクターとして12年にサンドロ・コルテセ、13年にマーベリック・ビニャーレスとチャンピオンを輩出。ビニャーレスなんか、12年にFTRフレームのホンダに乗ってランキング3位になりながら「これじゃ勝てない」つってKTMに移籍しましたからね。ジャック・ミラーも16年のチャンピオン、ブラッド・ビンダーも、そしてオリベイラもmoto3時代はKTM育ちのライダーです。
しかし、MotoGPクラスへの進出を狙っていたKTMは、ライダー育成のためにmoto2クラスへの進出にも乗り出します。ライダー育成というか、確保ですね。せっかくmoto3でライダーを育てても、moto2クラスをホンダやヤマハとかかわりの深いチームで走ることで、芽が出たらホンダやヤマハのMotoGPチームに昇格してしまうことがほとんどだったから、KTMにしてみれば、せっかく育てたライダーを、moto2チームを持たないゆえに「取られちゃう」となるんですね。
そこで、2017年からKTMのワークスチームが始動します。厳密にいえば、moto2のエンジンはCBR600RRをベースとしたワンメイクですから、KTMの本社、レーシング部門が車体設計に乗り出して、カレックスやスッター、スピードアップや、2018年から参戦を開始する日本のNTSのように、シャシーコンストラクターとして登録した、ということです。自分とこでフレームを作って、そこにホンダCBRエンジンを載せるんですから、発想の懐が広い! 「え~、よそのエンジン載せるのか」って二の足を踏んでいたメーカー、あると思いますよ。ちなみにドゥカティも同じ発想でmoto2、moto3に進出するかも、なんてずっと言われていますね。
17年からmoto2用シャシーコンストラクトを開始したKTMは、moto3のKTMワークスチーム運営でも実績のある、AJOモータースポーツとジョイント。ライダーは、moto2クラス2年目のオリベイラと、moto2デビューのブラッド・ビンダーでした。ビンダーは16年moto3チャンピオン、しかもAJOモータースポーツ所属のライダーでしたから、ビンダーが近い将来のエース格で、オリベリラがそのセカンドと見られていました。ちなみにAJOは、2015~16年のmoto2選手権での、カレックスユーザーのチャンピオンチーム。つまりザルコが所属していたチームです! チームがmoto3に続いてmoto2でもKTMシャシーにスイッチした、ってわけですね。さぁてKTMが作るマシン、初年度はどこまで行くかな、なんて見ていた関係者がほとんどだと思います。
それが、なんと開幕戦カタールGPで、オリベイラが予選5番手から決勝レースでも惜しくも表彰台を逃す4位入賞! 3位には日本の中上貴晶が入ったんですが、開幕戦で最後までなかなか振り切れなかったのが、そのオリベイラだったんですね。
いつか中上と話した時に
――開幕戦、オリベイラ速かったね。KTMすごい?って聞いてみたら
「あれは僕もびっくりしました。KTM、今までのシャシーと速いところ、遅いところが全然違ってて、なかなか手強いです」と言ってたくらいです。
オリベイラは第2戦アルゼンチンでは、なんとポールポジションを獲得。決勝レースでも2位に入り、その後もヘレス、カタルニア、ドイツ、チェコ、アラゴンでも表彰台を獲得し、あとは初優勝がいつになるか、って立派なタイトルコンテンダーとなったのでした。ビンダーは、開幕からずっとトップ10あたりを走っていたんですが、夏休み明けくらいから徐々に成績が上向き、ミザノで4位、アラゴンで5位入賞。これは、オリベイラが速いんじゃなくて、KTMのマシンが良くなってきたんだな、ってのがよくわかる上向き状態だったんです。2回目ですが、ビンダーはこれmoto2のデビューシーズンですからね。
そして、このパンパシフィック3連戦。雨のもてぎでは、残念ながら光る成績こそ残せませんでしたが、オリベイラは7位フィニッシュとまずまず。そして、オーストラリアGPを迎えます。
PIでは、予選でオリベイラがフロントロー3番手、ビンダーが2列目4番手につけると、決勝レーススタートでオリベイラがホールショット、2番手にビンダーがつけて、レース開始早々、KTMの1-2フォーメーションを見せつけることになります。レッドブルカラーのKTMマシンが2台でレースをリードする――この光景、予想よりはるかに早く実現しましたね。
ビンダーは1周目に、のちにチャンピオンを確定するモルビデリにかわされますが、再び抜き返し、モルビデリとバチバチのポジション争いを展開。コーナーで、ブレーキングで、ストレートでチャンピオンとバトルします。その間にオリベイラは逃げ、ラスト6周あたりで中上がこのバトルに加わって単独2位となりますが、その中上もラスト3周で転倒。結局、ビンダーはモルビデリとの2位争いを制し、オリベイラ→ビンダーの順でKTMが1-2フィニッシュを飾るのです。
続くマレーシアGPでも、オリベイラが予選2番手、ビンダーは予選8番手スタートから、オリベイラがまたもホールショットを獲得して序盤からスパート。ビンダーも、1周目のドサクサをうまく潜り抜けて4番手あたりにつけると、レース中盤に3番手に浮上。オリベイラが順調に逃げるなか、ビンダーはラスト4周でモルビデリをパス! 一度は抜き返されたものの、このポジションを守り切って、2レース連続でオリベイラ→ビンダーの1-2フィニッシュとなりました。
新クラス創世記ならまだしも、8年目となるmoto2クラスで、もはやシャシーメーカー間の優劣さえつき始めているのに、新興メーカーがここまでの成績を収めるなんて、ちょっと予想外でした。さすがワークスチーム、って感じなのかな。現在、MotoGPクラスを走っているポル・エスパルガロとブラッドリ・スミス、そしてテストライダーのミカ・カリオにかわって、または加えて、オリベイラとビンダーがMotoGPクラスを走り出す日も、そう遠くないんじゃなかろうか、と思わせてくれるに十分な活躍、というわけですね。
「KTMはMotoGPを5年計画で考えている。つまり、100レース。そのうち、まだ15戦目だよ。KTMは今やmoto3、moto2、そしてMotoGPと全クラスでマシンを出場させている。ラリーもエンデューロもモトクロスもやっているしね。いま70人のスタッフで動いているレース部門は、本社から2kmしか離れていないところに新設した専門部署で、そのぶん意思決定も早い。moto2はデビューイヤーで、2レース目のアルゼンチンでポールポジションを獲って、表彰台に上がっている。これは、メーカーとしてすごくハッピーなことなんだ」とは、KTMのスポークスマン、トビー・モーディさん。
優勝候補は多い方が面白い、とはいつもRacingAUTOBYで言っていることです。moto2の活躍と同じように、KTMがホンダとヤマハ、ドゥカティにスズキに割って入ってタイトル争いをする日が来るような気がします。KTM、しばらく注目しといてください!