ペドロサ、ロレンソ、ザルコがQ1行きへ
それにしてもすさまじいレースでした。手に汗握る、そしてエキサイティングでドラマチックで、なんだか寂しい――いろいろなストーリーが詰まったフランスGPでした。
始まりは雨。金曜のFP1はジャック・ミラー(ホンダ)が首位、FP2はダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ)が3番手、雨が上がり、路面が乾き始めた土曜のFP3はスコット・レディング(ドゥカティ)が首位と、意外なメンツが上位に来る中、FP4はマーベリック・ビニャーレス(ヤマハ)、ダニ・ペドロサ(ホンダ)、バレンティーノ・ロッシ(ホンダ)がトップ3へ。
ただし、FP3もそんな路面コンディションだったからか、アンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティ)、ヨハン・ザルコ(ヤマハ)、アンドレア・イアンノーネ(スズキ)、それにホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ)にペドロサがQ1行きです! ご存じのように、FP3のトップ10に入れないと「予備予選」的なQ1(予選グリッド13番手以降を決めるセッション)に回ることになるのです。土曜のここが、第一の事件でした。
Q1からQ2に上がるのは上位2人のみ。ここでQ2に上がったのはドビツィオーゾとザルコ。順当なメンツですが、Q2進出へは上位ふたワクしかありませんから、前戦・スペインGPの勝者ペドロサも、昨年のここフランスGP勝者のロレンソも上がれず、ペドロサ13番、ロレンソ16番グリッドとなったのでした。ロレンソは「ここル・マンで最も成功しているライダー」って紹介されていたのにね。
そこから行なわれたQ2では、なんとQ1から進出のザルコが最後の最後にフロントロー3番手を獲得! ポールポジションはFP4で首位を獲ったビニャーレス、2番手に0秒1差で今季最高グリッドのロッシ、つまりヤマハYZR-M1がフロントローを独占したんです。
そして決勝レースの日曜は晴れ。レースは、ビニャーレスのホールショットからスタートしますが、すぐにザルコがトップへ! MotoGPルーキー、しかもサテライトチームのライダーがトップを走っています! ザルコ、開幕戦カタールの再現です。あの時はすぐに転んで戦列を去りましたが、このレースでのザルコは力強くぐいぐいとトップを走り続けます。ザルコにとっては地元ですからね、ホームGPでの母国ライダーの力走に、予選からル・マンの観客は大騒ぎでした!
2番手にビニャーレス、3番手にロッシ、4番手にマルク・マルケス(ホンダ)がつけ、この4人が5番手以下を引き離しつつトップ集団を形成。レースが1/3を終えた頃、満を持してビニャーレスがトップに浮上。2番手ザルコ、3番手ロッシ、4番手マルケスのオーダーでレース中盤を迎えますが、ここでマルケスが単独転倒! マルケスは、アルゼンチン以来2度目の転倒ですね。ちょっと多いような……。前戦ヘレスで、無理せず2番手にまとめるレースを見せたのに、猛プッシュしていた周、ってわけでもないところで転んじゃいましたね。
これでレースは動き始めます。ビニャーレスは逃げられず、ビニャーレス-ザルコ-ロッシの上位3人は接近。終盤、ついにザルコをとらえたロッシが2番手に上がると、残り5周、トップのビニャーレスとの差は約1秒! これまでジリジリとも差が詰まらなかったビニャーレスvsロッシの戦いを見ると、届かないかな、ともったものの、ロッシは猛然とスパート! ラスト3周、ついにビニャーレスをかわしてロッシがトップに浮上するのです!
逃げるロッシ、追うビニャーレス。ビニャーレスはロッシとの差を詰められず、思わずオーバーランする局面もあり、これはロッシが逃げ切ったか!と思った最終ラップにドラマがありました。
逃げるロッシは、コース中盤の右コーナーで、止まり切れず、ややラインを外してしまいます。ひゃー、もうタイヤが持たないか、と思ったとき、それを突いたビニャーレスが再逆転してトップに浮上すると、ロッシはもう1回ハードアタック! この時のロッシは、もう全身全霊をかけてビニャーレスを追ったんじゃないでしょうか。
終盤、ついにロッシがトップに浮上! しかし!
ここまではシナリオ通りに走ってきた、予定どおりトップに立って、逃げ切ろうとしたところでのミス! これは何が何でも再び抜かないと! というのも、ここまでの4戦、ロッシはビニャーレスに先着したことはあっても、ふたりとも転倒せず、ドライのレース、って条件では、ことごとくビニャーレスに負けているんです。競り合いになったこともないかな、このままではチームの序列も、自分のキングとしての立場も、このヤマハルーキーに奪われてしまう! このレースは、1回2回の勝ち負けではない。決定的な差になる――そう考えたとしても不思議じゃないと思うんです。
古い話ですが、かつて江川卓は小早川毅彦にホームランを打たれ、千代の富士は貴花田に敗れて(一説には貴闘力とも言われます)重大な決意をします。もちろん、ロッシがそうだとは言いませんが、それくらい大事な順位だったはずなのです。
その想いが噴出したかのように、炎の追い上げを見せるロッシ。そして最終コーナーのひとつ前、ビニャーレスの後ろでロッシは転倒! もう、これっぽっちも余力のない、ギリギリ、100%の追い上げだったのでしょう。すぐにマシンに駆け寄って再スタートを試みますが、エンジンがかからないと見るや、ロッシはがっくりとうなだれます。精魂尽き果てて、がっくり――。あのシーンは、しばらく頭から離れそうにありません。バックグラウンドに気を配らなければ、ただの勝ち負けの瞬間ですが、逆転、逃げ切り、ミスで逆転され、という一連のシーンに、思い切り感情移入してしまっていたのでしょう、僕は涙が出てきちゃいました。なんだその感情!w
レースはビニャーレスが優勝! これで今シーズン3勝目を挙げ、ランキングもトップに浮上しました! 2位にはザルコが最高峰クラス初の表彰台、3位には13番グリッドからの着実な追い上げを見せたペドロサが入りました。ペドロサは優勝1回3位2回目で、ランキング2位に浮上、ランキング3位にロッシ、4位にマルケスです。
「チームが最高の状態にあったから、最高の結果を残せると思っていた。終盤はフィーリングが良くてアタックを仕掛けたんだけど、最終ラップにミスをして、マーベリックに抜き返されてしまった。コース後半は得意な場所だから、もう1回チャンスがあると思ったんだけど、突然あんなことになってしまった。どんな状況だったのかわからないけど、とにかく僕のミス。ポイントを持ち帰れなかったのは残念だし、目の前にあった優勝を逃したことが口惜しい。これからは次のレースのことを考えます。今日と同じように走ることができたら、必ずまたいいレースができるから」とロッシ。
このレースは、ひとつの大きなターニングポイントになりそうです。