<J-GP3>前に出したい小室、出たくない伊達
雨が降り続いた日曜日。土曜に走行がキャンセルされたJ-GP2、ST600、そしてJSB1000クラスは、通常は朝のフリー走行に充てられるセッションが公式予選です。ウィークで初の雨、マシンのセットを決めなきゃならないし、タイヤも決めなきゃならない。1秒でも走行時間を多くとりたいのに、GP2とSTは走行20分、JSBは走行30分です。
雨が降り続く中、決勝レースは、GP3クラスからスタート。序盤から宇井陽一(41Planning)、小室旭(あきら・TeamP.MU 7C)、伊達悠太(バトルファクトリー)が飛び出し、その後方に栗原佳祐(モリワキクラブ)がつけます。昨年、惜しくもチャンピオンを取り逃がした栗原は、チームをハルクプロからモリワキクラブ移籍しての初レースですね。
決勝レースは序盤に逃げていた宇井が、レース中盤以降のペースが上がらず、小室がトップに浮上。この後ろに伊達がピリとつけてレースが進んでいきます。小室は開幕戦・筑波でもこうやって伊達にずっとマークされて、最後の最後にかわされて勝ちを持っていかれたばかりですから、レース終盤、伊達を前に出そうとしたようですが、伊達も頑として前に出ないまま(笑)最終ラップへ。傍から見ていただけでは、なかなか伊達が抜けない、苦しいレースに見えていたでしょう。実は小室が前に出したい、伊達は出たくない、って攻防だったのです。
最終ラップ、満を持して伊達がヘアピンでトップに浮上。しかし、今度は小室も馬の背で抜き返し、SPアウトで伊達はシフトミス。そのまま小室が逃げ切って、初優勝を決めました! ヘアピンと高速コーナーでの雨の抜き合い…考えただけでもゾッとします。前を走るライダーをマークして、最後の最後にひょいと優勝をさらっていくなんて、老獪なレース運びを見せる17歳の伊達と、それを許さなかった40歳の小室。ホンモノの老獪さが勝った、そんなレースになりました。
<J-GP2>このまま水野の連勝を許しては…
お昼前に行なわれたGP2クラスのレースでは、岩戸亮介(Team高武RSC)、生形秀之(エスパルスドリームレーシング)、関口太郎(SOX Team TARO プラスワン)が予選トップ3。開幕2連勝を挙げた水野涼(MuSASHi RT ハルクプロ)は予選4番手、2016年ST600チャンピオンの榎戸育寛(MOTO-BUMホンダ)は6番手です。決勝レースでは、このなかから関口がホールショットを奪って好ダッシュ。すぐに生形がかわして、岩戸、水野が続く展開。やっぱり雨はベテランが上手いね。関口41歳、生形40歳が水野18歳、岩戸19歳を抑え込みます。この中から岩戸がずるずると後退し、生形-水野-関口-岩戸の順ですね。このまま上位3人が逃げはじめ、岩戸が単独の4番手となります。
レース中盤に、水野が生形をかわし、それでもトップ3は僅差のバトル。終盤には関口が生形をかわして水野を追うと、そのまま水野との差をジリジリと詰めますが、水野が逃げ切って開幕3連勝。実は水野は、鈴鹿のテストでJSB1000マシンに乗って転倒。背中を圧迫骨折して出場が危ぶまれていたんですが、見事に勝ち切りました。開幕3戦、上位陣のメンバーは固定し始めていますが、水野は逃げるほどのアドバンテージはなくても、競り合いに強いですね。「このまま連勝させちゃったら逃げられる」っていう関口のコメントは偽らざる本心でしょうね。
<ST600>レインマスター星野 オニの追い上げ
お昼休みをはさんで行なわれたJSB1000クラスは後述するとして、この日のラストレースとなったのはST600。最終レースの時点でも雨は降り続いて、雨となるとSTクラスには注目のライダーがいます。それがチームプラスワンの星野知也44歳。星野は16年の岡山大会、そして開幕戦・筑波大会に優勝。これ、どちらも雨のレース。星野は、誰もが一目置くレインマスターなのです。
「雨ならもらったね、ってよく言われますけど、晴れでも勝ちたいのに。もちろん、チャンスがあったら全部勝ちたいし、僕がそうは思ってなくても、雨ならみんな遅くなるなら、残りレース全部が雨でもいいです」と笑う星野。ただ、星野は予選で転倒、しかも2回も転び、なんと予選は8列目22番手! 雨の後方グリッドっていうのは、前に7列分のライダーがいるわけで、視界が悪いことこの上ないんですが、星野はなんと、オープニングラップで20人くらいをパスしてコントロールラインに戻ってきてしまうんです! レースは岡本裕生がホールショットを獲得し、久々のレース出場となった2015年チャピオンの横江竜司(ショップユニオン東北)、奥田教介(チームMF&カワサキ)、前田恵助(伊藤レーシングGMDスズカ)がレースをリードすると、あれ? 3番手にゼッケン46? え?ホッシー?ってかんじで、星野が3番手で2周目に突入します!
レースは他ライダーと次元の違う速さで岡本が独走し、3周目には星野に2番手を明け渡した前田が踏ん張り、星野は3番手で周回。このクラスは、このオーダーが崩れることなくフィニッシュ。
いやぁ、開幕戦・筑波を7位で終わった岡本の全日本初優勝はもちろん、それを吹き飛ばすほどの星野のオニ追い上げが心に残ったレースでした。
<JSB1000>絶対王者、またも敗れる…
さてメインレースはJSB1000クラス。もう5年目になるセミ耐久レースは、距離120マイル(=約195km)で行なわれ、スポーツランド菅生を52周! 最低一度のピットインが義務付けられ、ライダーは1人でも2人でも可、というルールです。公式予選では、高橋巧(MuSASHi RT ハルクプロHONDA)が予選セッション終盤に中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)を逆転してポールポジション。3番手には津田拓也(ヨシムラスズキMOTUL)、4番手が野左根航汰(ヤマハファクトリーレーシング)、5番手になんとJ-GP2チャンピオンから昇格の浦本修充(チームカガヤマ)!
ル・マン式スタートで始まった120マイルのレースは、ポールシッターの高橋がホールショットを奪って好スタート。2番手に津田、3番手にミスター・ロケットスタート加賀山就臣(チームカガヤマ)、後方に中須賀といったオーダー。高橋は1周目からペースを上げ、アッという間に2番手以下を引き離します。珍しいですね、高橋のこんなスーパースタート、あまり見た記憶がありません。
しかし、3周目の1コーナーで早くも大波乱! 2番手、中須賀の後方で、津田と3番手を争っていた加賀山が、津田をかわしながら1コーナーへ進入、そのまま止まり切れずにオーバーランし、転倒してしまいました。鈴鹿2&4でも、サイティングラップ不履行でストップ&ゴーペナルティを受けて17位に終わっていた加賀山、2戦連続で不完全燃焼のレースとなってしまいました。チームカガヤマ勢では、予選5番手スタートの浦本が、序盤3番手につけていただけにもったいない……。
次の波乱は11周目。トップを行く高橋が、2番手以下との差をぐんぐん広げているなか、中須賀が転倒! マシンは再始動、そのままピットまで帰り着きますが、マシンのダメージが大きく、リタイヤ。その数周前には、山口辰也(ホンダドリームレーシング)も中須賀と同じ場所でつかまっていますし、清成龍一(モリワキMOTULレーシング)も転倒→再スタートしていますから、52周のレースの1/5で、加賀山、山口、中須賀、清成というビッグネームが消えてしまいます。
さらに17周目には、津田が早々とピットイン。これは予定されたピットというより、津田がシールドの曇りを訴えての緊急ピットだったようです! 54周のレースで17周目はちょっと早いもんね。残りが37周(=約138km)ならば、燃費が最低6km/Lと言われるJSBの耐久仕様なら無給油でOKのはずです。ヨシムラはすでに耐久用タンクを使用していたし、雨で燃費も伸びるはずですから、予定外のピットインとはいえ、十分に対応できる残り距離でしょう。
しかし、ここで予想外の事件! 2コーナーを立ち上がっての短いストレートで転倒車が発生し、セーフティカーが介入してしまったのです。セーフティカーのコースイン中は、ピットロードが閉鎖され、つまり津田はピット作業を終えてもピットロード出口で足止めを喰らい、大きくタイムロスしてしまうのです! 思い出しますね、14年のこの大会で、中須賀がトップのままピットインして、同じようにセーフティカーが介入したことでピットアウトできず、その間に加賀山がトップに浮上して優勝をかっさらって行ってしまったあのレースを!
これで17周目に6番手でピットに入った津田が、ピットアウト時には21番手! これでほぼ上位争いは絶望となりました。レース中盤に、各チームが次々とピット作業を終え、レースが後半に差し掛かると、レース距離半分・26周目の時点で順位は高橋-野左根-渡辺一馬(カワサキチームグリーン)がトップ3。高橋はほぼ独走、野左根が3番手に約10秒の差をつけますが、3番手争いが渡辺と濱原颯道(ヨシムラスズキMOTUL)、さらに浦本という3人による争いで、一時は濱原が3番手に安定していたかと思いきや、ラスト5周で渡辺が逆転! 結局、レース52周を走り切って、高橋-野左根-渡辺-濱原-浦本-藤田拓哉(ヤマルーブレーシング)がトップ6フィニッシュ! 高橋は鈴鹿2&4に続いて開幕2連勝! 世界耐久のレギュラー、いま日本で一番レース距離を走っている野左根が2番手に入り、3番手に今シーズンからカワサキに乗る渡辺がJSBクラス初表彰台を獲得しました。
しかし、中須賀が開幕戦に続く転倒リタイヤで、絶対王者が2戦連続ノーポイントです! これを番狂わせと言わずしてなんと言う……。
「気持ちと体のバランスが少し崩れてしまっている。チームがマシンをしっかり用意してくれて、準備は整っていたんですが、ペースを上げようとしたら転んでしまいました」と中須賀。V5チャンピオンの慢心ではもちろんないでしょうが、これは今シーズンから使用する17インチタイヤに少しだけ遠因があるかもしれませんね。
というのも中須賀は、自他ともに認める、ブリヂストンタイヤのことを誰よりも知り尽くしたライダーです。その中須賀ですから、いくら新しいJSB用17インチをテストしても、なかなか昨年までの16.5インチの特性の記憶が消えないんじゃないでしょうか。中須賀は、自ら「かなり不器用。マシンに乗り込む時間が自信になる」と常々言っていますから、開幕戦はスタート直後にセーフティカー後方を走行してのタイヤ温度低下、この菅生では雨の決勝と、もっとも経験値の少ないシチュエーションで転倒したのかもしれません。そうでなきゃ、あれだけ転倒の少なかったライダーの2戦連続転倒の理由を説明することはできませんからね。
「ニューCBRということで、まだまだマシンの煮詰めも足りないし、思う通りの状態にも仕上がっていませんが、このレースは初めての雨ということで、たまたまマシンとタイヤがマッチングしてくれたんだと思います。中須賀さんの転倒はびっくりしましたが、開幕戦も今回もチャンピオン不在で勝って、なんだか素直には喜べないというか……。それでも開幕戦よりうれしいです」と高橋。
これで、8戦9レースで行なわれる全日本ロードレースで、絶対王者が2戦連続ノーポイントレースを演じてしまいました。気の早いメディアは「これで自力V消滅」と書き立てていますが、あと6戦7レース、まだまだ逆転の可能性はあると思います。
最高のスタートを切った高橋巧、ニューマシンをセットアップしながらのレースが続く津田拓也、そして絶対王者・中須賀の三つ巴に注目していきたいと思います。次戦もてぎ大会からのスプリントでは、中須賀と津田の逆襲が始まりそうな予感がしますね!
長いレポート、お付き合いいただきありがとうございました^^