運動性能をも考慮した豪華仕様!
NS‐1の大きな特徴は、御存知の通り、通常燃料タンクになっている部分がヘルメットも入る大きなトランクスペースになっているということ。開発初期段階の頃からこのアイデアは出ていたという。スクーターのようにシート下ではだめ。積んだ荷物によって重さが変動しやすいものが、エンジンやヘッドパイプより遠いところにあると、マスの集中化とは真逆になり、運動性能にネガティブな影響が出てしまう。そこでオートバイの重心にいちばん近い、この位置が選ばれた。
行き場の変更をよぎなくされた燃料タンクはシート下に移った。想像すると容量の低下は避けられないと思うけれど、なんと8Lもある。なるべく操安性能のことを考慮して、シングルシート内に収まる部分を小さくし、エンジンに近いところを深くして容量を稼いだ。それによって、前モデルのNS50FやNSR50と共通する部分がありながら、50㏄クラスとは思えないほど豪華で凝った作り込みにより、新しいフルカウル原付スポーツとして発売された。
同時期にNSR50も存在していて、そちらはコアなスポーツライディング好きユーザー向け。このNS‐1は、スクーターのように気軽に荷物を入れられる利便性と、スポーツモデルらしい立派なスタイルと性能をミックスさせることで、ユーザー層を広げ、オートバイに乗ることの根源的楽しさを知ってもらうために誕生。オートバイ人気に陰りが見えた時代に、なんとかして若者に乗ってもらいたいというホンダの気持ちがこもっていた。
先々代のMBX50までさかのぼることができる水冷2ストローク単気筒エンジンの最高出力は、自主規制上限いっぱいの7・2PS。最大トルクも含め、スポーツ性能にこだわったNS50Fと同じ数値だが、初めて乗る若者のことを考慮して下からトルクが出るように味付けされている。
角断面スチールフレームやエンジンマウントなど基本はNSR50と同じながら、シート下燃料タンクを成立させるために、シートフレーム部分は新たに設計。フルサイズにするためスイングアームも伸ばしたもの。
NS‐1は1991年に発売した単眼横長ヘッドライトの前期型と、1995年にマイナーチェンジでデュアルヘッドライトを採用した後期型がある。どちらも安定した人気があって、若者の手軽な移動手段として活躍し、オートバイで走ることの楽しさを知ってもらう役割を担ってきた。
ライダーのお腹の前に大きなトランクスペースを装備したのは時代に迎合しお手軽に作ったギミックではない。初めてのオートバイとして、その楽しさを広めるための便利装備であり、一人前のルックスと運動性能にこだわった走りも共有。その志は高い。
DETAIL
注目ポイント
トランクは車体左のキーでロックが外れ、後ろヒンジで上に大きく開く。容量は24L。中が空洞であり、フタの樹脂も厚くはできず、ビビリが出るので、フタの裏に防振剤を貼っている。
主要諸元
●エンジン形式:水冷2スト・ピストンリードバルブ単気筒
●排気量:49㏄
●ボア╳ストローク:39.0╳41.4㎜
●圧縮比:7.2:1
●最高出力:7.2PS/10000rpm
●最大トルク:0.65㎏-m/7500rpm
●燃料タンク容量:8ℓ
●変速機形式:6速リターン
●全長╳全幅╳全高:1905╳670╳1080㎜
●ホイールベース:1295㎜
●シート高:752㎜
●乾燥重量:92㎏
●タイヤサイズ(前・後):90/80-17・100/80-17
●当時価格:29万9000円
メットインバイク! スクーターの利便性にいち早く着目した先輩!
NS-1より若干デビューが早かったスズキのアクロス。アクロスをなぜ紹介しているかというと、一応はスクーターではないスポーツタイプで、本来ガソリンタンクがある所にユーティリティスペースを設けたバイクとしての先輩だからです。リアシートカウル上の給油孔やシート下の燃料タンク等の部品構成も良く似ております。また、フルカウルモデルというポイントに於いても、かな。実はこのアクロス、大きなモデルチェンジこそなかったものの、90年から98年まで長きに渡り生産されロングセラーを誇った名車だったのです。GSX‐R250譲りのメカニズムも、信頼性が高く高評価を得る一端を担ったのだった。