「レアケース」アルゼンチンGPのもう一つの記憶
この世に5メーカー/10人しかいないMotoGPファクトリーチーム/ライダーのうち、8人がノーポイントに終わった、なんともレアケースとなったアルゼンチンGP。
しかし、もうひとつ心に残ったことがありました。それが、2017年からMotoGPに新規参入した6つ目のメーカー「KTM」の、ふたりのライダーが、そろって初ポイントを獲得したこと。
ちなみに、GP参戦が6メーカーってことは、12人のファクトリーライダーがいる計算になるんですが、DORNAの規定では、アプリリアのチーム運営がグレシーニレーシングのため、アプリリアはサテライトチーム(DORNAは「インディペンデントチーム」と呼んでいます)扱いとなるようです。
KTMは2006~2007年にチームロバーツとジョイント、V型5気筒エンジンを開発して「エンジンメーカー」としてMotoGPに参加していた時期がありますが、今回は車両メーカーとしての参戦。RC16と呼ばれるレーシングマシンは、V型4気筒エンジンをパイプトレリスフレームに搭載し、サスペンションもWPブランド(WPはKTMの一部門)と、オールKTM製。ホンダ、ヤマハ、スズキ、ドゥカティ、アプリリアと同じ土俵に乗っていることになります。
いやそれどころか、今やKTMはmoto3、moto2クラスにもマシンを製作(moto2はフレームですね)してレースに参加していますから、この時点でMotoGPへの関与で言えば、世界ナンバー1メーカーといっても差し支えないくらいなのです。
そのKTM製MotoGPマシンのデビューは、16年最終戦・バレンシアGP。ワイルドカードとして、テストライダーであるミカ・カリオが参戦しましたが、フリー走行1~3、決勝日朝のウォームアップと、ずっと最後尾で、Q1でかろうじて12台中10番手。そして、決勝レースは転倒ではなく、マシントラブルでのリタイヤでした。
17年シーズンからのレギュラーライダーの座に収まったのはポル・エスパルガロとブラッドリ・スミス。この2人のライダーで、ウィンターテストからレギュラーチームとして参加していたKTMは、セパンテストで28台中21/22位、フィリップアイランドで22台中17/19位、そして3人目のカリオも参加したカタールテストでは23台中21/22/23位。決して良い成績とは言い難いけれど、まずは無難な発進。17年の開幕を迎えることになります。
そして、初レースとなったカタールGPでは、3周目に大きくタイムロスした、このレースがデビューのサム・ロウズを最後尾に置いての、完走18台中16/17位。ポイントは取り逃しましたが、20周を走り切った開幕戦となりました。
迎えた第2戦アルゼンチンGP。KTMのふたりは、ジャンプスタート裁定からライドスルーペナルティを受けたアンドレア・イアンノーネ(スズキ)を後方においての14/15位フィニッシュ。最後尾ながら、デビュー2戦目にして2人そろっての初めてのGPポイント獲得となりました。
ちなみにMotoGP参戦開始という意味では、15年にスズキとアプリリアが復帰していますが、スズキは開幕戦でライダーふたりがポイントを獲得、アプリリアは2戦目にポイントを獲得しています。ただし、この2メーカーが復帰したことでMotoGP出場マシンが単純計算で4台増えているわけですから、その分ポイント獲得は難しくなっています。
さらに、スズキは3年のブランク、アプリリアは04年まで参戦しての復活ですから、完全に新規参戦のKTMとの直接的な比較はできないでしょう。ともあれ、生まれたてのMotoGPマシンメーカーが、ようやく第一歩を踏み出したと言っていいと思います。
「まだまだやるべきことはある」(エスパルガロ)
「KTMが歴史上初めてのポイントを獲得したことは、チームにとってもっとも重要なこと。しかし、まだやるべきことはある。まだ弱点はあるけれど、僕たちは前進している」とはエスパルガロ。
「今日はライダーふたりともポイントを獲得した素晴らしい一日となった。前のグループと戦えなかった前戦カタールGPからいい一歩を踏み出せた。次戦のアメリカズGPは厳しいものになるだろうが、レースごとに改善し続けていけばいい」とはスミス。
同じく今シーズンから参戦をスタートしたmoto2クラスでは、ミゲル・オリベイラが2レース目にして表彰台を獲得。MotoGPも、いつ同じ成功を遂げるか分かりません。
初年度はベスト10入り、2年目にトップグループを走って表彰台を獲得し、3年目にはチャンピオンを狙う――これがニューフェイスメーカーの現実的な目標かもしれませんが、ホンダ、ヤマハ、ドゥカティ、スズキに続き、またひとつチャンピオンメーカー候補が増えたことを、MotoGPファンとしては素直に喜びたいですね。