ビニャーレス、テストの好調を持続!
それにしても最高峰クラス3年目、それも新チームに移籍しての初レースとは思えない走りでした。マーベリック・ビニャーレス。スズキからヤマハへ移籍しての初レース、2017年プレシーズンテストでは、各セッションで総合トップタイムを獲り続けたビニャーレスの、終わってみればポールtoウィンの激勝劇! シーズンオフの好調は知りつつも、レース本番はそううまくいかない――そう思っていた世界中のファン、関係者の思いを打ち砕く開幕戦優勝でした。
公式予選は雨のためにキャンセル。金曜夜から降り続いた雨が、カタール・ロサイルサーキットの路面をびしょ濡れにし、そもそも雨が降らない前提のサーキットのため、排水設備もなく、創立15年を数えようとするコースだけに、路面の老朽化も考えての予選キャンセルでした。
スターティンググリッドは、フリー走行の総合結果順。2010年のポルトガルGP以来の、予選キャンセル→フリー走行の結果によるグリッド決めで、ポールポジションを獲得したのはビニャーレスでした。ビニャーレスは、これがMotoGPクラス初ポールポジション!
決勝レース、開始予定時刻に雨がパラついたことで、スタートは45分遅れ。ライダーはコースに出てはボックスに入り、再びコースインしてからグリッドにいる時間も長く、集中力を保つのも大変だったでしょう。それをおくびにも出さないところがスゴいんだけどね。
レース序盤、ニューフェース躍動!
ようやくのスタート、真っ先に1コーナーに飛び込んだのはアンドレア・イアンノーネ(スズキ)。イアンノーネもビニャーレスと同じく、新チームでの初戦。そのイアンノーネをかわしてオープニングラップを制したのは、昨年のmoto2世界チャンピオン、ヨハン・ザルコ(ヤマハ/テック3)でした。すごい、すごい、ニューフェイスたちのリーディングラップ! 今シーズンはちょっと違う風が吹いていますね。
ひとつめの展開は、7周目。ザルコ-アンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティ)-マルク・マルケス(ホンダ)-イアンノーネ-ビニャーレス-バレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)というトップ集団の中から、2番手以降を引き離し始めていたザルコが転倒!
「トップに立って6周、もっとリラックスしてが走ろう、と思い直した時の転倒だった。少しだけラインを外して転んでしまったんだ。残念だったけれど、レースをリードできたのは嬉しいことだね。自信にもなったし、これもMotoGPルーキーの勉強のひとつだね」(ザルコ)
かわってトップに立ったのはドビツィオーゾ。ドビツィオーゾとドゥカティは、ここカタールと相性がよく、15年16年と決勝2位に入っています。それでも2番手以降を引き離すまでには至らず、イアンノーネとマルケスがバチバチの2番手争い。その間に4番手ビニャーレスと5番手ロッシがひたひたとトップ争いに迫ってきます。
ふたつめの展開は、11周目。今度はイアンノーネが転倒し、これでオーダーはドビツィオーゾ-マルケス-ビニャーレス-ロッシの順。ここから4秒後方に5番手ダニ・ペドロサ(ホンダ)。
「いい感じで走れていただけに、残念だった。シーズンオフ、チームは本当に一生懸命マシンを作ってくれたから、なんとかしてお返ししたかった。他のライダーと接触しての転倒だったけれど、もう少し抜き時を考えなきゃいけなかったね」(イアンノーネ)
レースは後半へ差し掛かり、12周目にはビニャーレスとロッシが、次々とマルケスをパス。マルケスは、決勝レーススタートの延期で、タイヤをハードからミディアムに替えていたようで、そのせいか、ブレーキングにもいつものキレがなく、ヤマハデュオの先行を許してしまいます。それでも、ここで無理をせずにがむしゃらに抜き返しに行って転倒してしまわないのが、2016年以降のマルケスです。これが16年のチャンピオン獲得の秘訣でしたからね。
そして14周目には、満を持してビニャーレスがドビツィオーゾをパス。それでも、ドビツィオーゾのドゥカティ・デスモセディチもヤマハYZR-M1より速い区間があるので、特に最終コーナーからの立ち上がりからスタート/フィニッシュラインの間で何度も抜き返します。たとえば最終ラップで先行されていても、最終コーナーでスリップにつけていれば、フィニッシュラインまでに抜き返せるかもしれない――それをシミュレーションしていたのかもしれません。
それでも、そこはビニャーレスも心得たもので、なんとか最終ラップまでにセーフティリードを作りたい、そんな攻防が最終ラップまで続き、最終ラップでベストラップをマークしたビニャーレスが移籍即優勝を決めました! ちなみに移籍してすぐに優勝を決めたのは、2004年のロッシ(ホンダ→ヤマハ)、07年のケーシー・ストーナー(ホンダ→ドゥカティ)、11年のストーナー(ドゥカティ→ホンダ)に続く3人目。同時にビニャーレスは、マイク・ヘイルウッド(ノートン→MVアグスタ)に続いて、2番目に若い2メーカーで優勝したライダーになりました。
MotoGPクラス3年目なのに、王者のレース運び
それにしてもビニャーレス、そのレースぶりが見事でした。金曜、土曜と雨に見舞われ、決勝日にもレース直前まで小雨がぱらついたコースコンディションで、ポールポジションスタートながら、あわてず騒がず序盤の位置取りをしっかり決めて、なんと序盤は5~6番手。そっから徐々にポジションを上げ、7周目に4番手、11周目に3番手、12周目に2番手にあがり、そこからドビツィオーゾを一騎打ちで下して勝ち切りました。レース序盤、5番手あたりにつけて、そのまま上位に離されてしまって……なんて展開さえ十分に可能性があったのに、セカンドグループの先頭ではなく、トップグループの後方にきちんとつけてのポジション取りを忘れませんでした。
「この結果は信じられないね。ウィンターテストからいいテストを重ねて、このレースウィークにもきっちり正しい段階を踏めたよ。木曜のフリー走行1回目からいいフィーリングで走れていたよ。レースは雨が降り始めて、ちょっとバタついてしまった。オープニングラップもすごくスリッピーで大変だったよ。でも、ペースがいいのはわかっていたし、最後にアタックするくらいのつもりでいたんだ。転んだライダーも多かったから、抜きどころもきちんと考えて、勝つことができたね。フィニッシュラインを通過した瞬間は、本当に信じられなかった。去年、初優勝したときよりプレッシャーがスゴかったよ」(ビニャーレス)
敗れたドビツィオーゾは、リアにソフトタイヤを履いていた(ビニャーレス、ロッシはミディアム)からか、終盤はグリップに苦しんでいたよう。3位ロッシは、10番手スタートからアッという間にトップグループに加わったが、これも予選がキャンセルされずに前の方のポジションを確保できていたら、もっと違う展開でレースができたかもしれない。
ルーキーたちの煌めき、ベテランのしぶとさ、移籍組の走りが新しい展開を生んだ2017年開幕戦。表彰台の3人のほか、マルケスの反撃も、一時はペドロサをパスしてみせたアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)のスピードも、序盤のコースアウトが引きずって上位に顔を出せなかったホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ)の浮上も、第2戦アルゼンチンへ持ち越しです!
いやぁ、波乱含みの、面白いレースでした!