RSは何のために生み出された?
テイスティさを愉しむ空冷4気筒エンジンのCB1100が生まれ変わり「RS」が登場となった。
味わいを重視して生まれたはずの空冷CBが、ここにきて「走り」を主張するってどういうことだ?
新しいCB1100のスタイルを目にしたとき、率直な意見として心の中に「?」が生まれた。
2010年にデビューを果たした新設計の空冷直4エンジンを搭載したCB1100は、クラシカルな装いにテイスティな走りを備えた、まさしくニッポンのネオクラシック。ところが、新しく発表されたのはRS。なんと、走りを重視したキャラクターだと言うのだ。しかも、ネイキッドスタイルのオートバイの「顔」でもあるガソリンタンクのデザインが、それ単体で見ると純然たるロードスポーツ感すら漂うデザインに変更されている。おいおい、味わいの世界とか、空冷4気筒エンジン独特の美学はどこいった!?
その疑問をそのままボクは新しいCB1100シリーズの開発責任者の今田さん、そしてプロジェクトにGOサインを出す立場の後藤さんにぶつけてみた。失礼な話かもしれないけれど、排ガス規制や音量の規制も厳しい現代に、ホンダにしかできないような高い技術力で、味わいの空冷4気筒エンジンを復活させてくれたことを、ボクは嬉しく思っていた。だからこそ、その味わいが薄れてしまうかもしれない方向に、現代の空冷4気筒が路線変更してしまうことを極度に恐れたのだ。
それに「走り」ならば、ホンダにはCB1300スーパーフォアやスーパーボルドールっていうフラッグシップモデルがあるじゃないか。どこに、RSを作る必要があったのだ? と。
でも、答えは即座に、そして明確に帰ってきた。両氏曰く
「我々はCB1100の在り方に、まだ満足していなかったんです」
さすがにちょっと驚いた。2014年にアップデートを受けた時点で、CB1100にはEXが追加され、味わいもさらに深まり、個人的にはもう完璧だな……なんて思っていたのに、ホンダはそれでも「まだ足りていない」と考えていたのだ。
その足りないものとは何か? それはオートバイを走らせることで人が感じる官能性能と、現代のホンダCBがどうあるべきか? という、かなり根源的な問いかけだった。
そこで新しいCB1100の開発スタッフのほぼ全員が、栃木県のツインリンクもてぎにある、日本最大級のオートバイ博物館ホンダコレクションホールを訪れ、CBだけではない、歴代の色んなオートバイを見て、往年の名車たちが何を想って作られたのか? を考えたという。
その行為が意味するもの。それはCB1100というオートバイそのものを、もう一度、ゼロから見つめ直す、ということに他ならない。そして、そんな過程を経て生み出された新しいCB1100を象徴するのが「RS」というカタチなのだ。
現代に求められるCBとは何か?その想いはRSのデザインにも見て取れる。美しい空冷フィンの際立つエンジンや前後フェンダー、そしてシートというクラシカルなパッケージに、スポーティさと有機的な曲線美を同時に内包するガソリンタンク、そこに高性能を感じさせる前後サスペンションをセット。ヘッドライトも現代的にアレンジされている。
原点的なオートバイのパッケージに、今あるべき「CB」の魂を上乗せする。クラシックでもあり、時代を反映したロードスポーツでもある。それが「RS」誕生の理由なのだ。
撮影/柴田直行 ※記事はゴーグル2017年3月号より