素直で優しい等身大の「円熟クオーター」!
1982年にデビューしたVT 250 Fをルーツとする貴重なVツインユニットを搭載するロードスポーツ、VTRに特別仕様が登場した。モーターサイクルショーで話題となったカスタムコンセプトを再現した、精悍なチタンカラーのスペシャルエディションに早速、試乗してみた。
VTRのルーツは1982年6月に発売されたVT250F。当時の250㏄ロードスポーツクラスは2ストエンジンを搭載したヤマハRZ250が人気を博していたが、ホンダはワークスレーサーNR500のイメージを受け継いだ、シリンダー挟み角90度のV型2気筒・水冷DOHC4バルブエンジンを新開発してRZ人気の独走阻止に成功。初代は35PS/1万1000回転というスペックだったが、モデルチェンジごとにパワーを上げ、3型では43PS/1万2500回転にまで達してホンダの4スト技術を世に知らしめた。
VTシリーズとしては89年発売のVTZが最後になるが、Vツインエンジンは88年発売のスパーダ、91年発売のゼルビスに受け継がれ、98年に初代VTRがデビュー。09年にはキャブレターに代えてえてFI採用し、さらに細かな改良を加えながら現在に至っている。
このSEはスタンダードのVTRをベースに、タンクや前後ホイールをマット塗装仕上げとし、ブラックのフレーム、ブラウンのシートを組み合わせたスペシャルカラーが特徴。メカニズムの変更はないので、乗り味はスタンダードのVTRと同じだ。
エンジンは80年代VTの高出力型ではなく、ストリートライディングに適した低中回転域トルクが太い特性で、無造作なクラッチ操作でもスルスルと走り出し、スロットル操作に忠実に反応して力強く加速する。かつてのVTを知る者には高回転の伸びが物足りないが、それでも1万1000回転までストレスなく回り、エンジンブレーキの効きも自然。市街地での乗りやすさは文句なしで、バイク便ライダーに人気なのも納得できる。
この圧倒的に扱いやすいエンジン特性とマッチしているのがハンドリング。エンジンを強度部材としたトラスフレームは剛性を抑えて適度にしならせることで穏やかに反応し、市街地走行に合わせたセッティングで余分な姿勢変化を起こさない前後サスペンションと併せて乗り心地もいい。高い荷重が掛かるスポーツライディングでは比較的早めにストロークを使い切ってしまうが、ここでもフレームのしなりが効いて一気に挙動を乱すことがない。ジムカーナ競技でVTRが活躍しているのは、このハンドリングとエンジンレスポンスの素直さによるものだ。
VTRは耐久性にも定評がある。特にオーバーホールは行なわずに消耗部品や油脂類の交換だけで
20万キロ以上走っているバイク便ライダーがざらにいるし、シンプルなデザインだけに転倒時に車体が受けるダメージが少ないことも、オートバイの扱いに不慣れなエントリーユーザーには大きな安心材料になる。
CBR250RRが登場しても、VTRの魅力はまったく色褪せていないが、基本設計が古いので、今後も厳しさを増す排ガス・騒音規制への対応は難しいはず。ホンダ渾身のVツインを堪能したいなら、早めに手に入れたほうが良さそうだ。(太田安治)
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