いや、スゴいレースでした! 先週のオーストリアGPに続く、2週連続のMotoGPチェコGP。土曜までの公式予選とうって変わって、日曜は朝から激しい雨。Moto3、Moto2、そしてMotoGPとも、ウェットコンディションでのレースとなりました。チェコで雨なんて珍しいなぁ、と思っていたら、G+の放送でチェコ・ブルノでのウェットは初めてなんだ、って言っていましたね。こりゃ荒れるかな、と思ったら、荒れましたねぇ。
ドライで行なわれた公式予選では、ポールがマルク・マルケス(ホンダ)、2番手にホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)、3番手にアンドレア・イアンノーネ(ドゥカティ)。マルケスはこのコースが苦手だ、ヤマハの方が強い、って言っておきながら、きっちりポールポジションを獲得。ロレンソは好不調の波が激しいけど、巻き返すぞぉってヤル気だし、イアンノーネはオーストリアで勝ったばっかり。
ただし、これが雨となると……。朝のウォームアップでは、スコット・レディング(ドゥカティ)がトップタイムで、2番手にイアンノーネ、3番手にロリス・バズ(ドゥカティ)。ドカが1-2-3ですよ! 今やドカは、直線番長なだけじゃなくて、ドライバビリティもいい、現代MotoGP最強のエンジンじゃないか、って言われ始めてますからね。ウォームアップで17番手になったロレンソは、もう雨のレースでは外した方がいいでしょうね。
決勝レースも雨。けれど、もう降りやんでいて、空は徐々に明るくなっている状態。さすがに、このウェット路面で、インターミディやスリックを履いた「タイヤギャンブル」は成立しないだろうけれど、やはりタイヤチョイスに、少しの戦略はあったのだ。つまり、レインタイヤの中でも、硬めなのか、柔らかめなのか--。
レースがスタートすると、ホールショットはイアンノーネ。すぐにマルケスがトップに立つと、その後方にイアンノーネ、ロレンソ、そしてアンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティ)。お!ロレンソが雨でも頑張ってる!と思ったのもつかの間、やっぱりロレンソはズルズルと順位を下げ、どうも「雨のアッセンのトラウマ」(わからない人は「ロレンソ アッセン 鎖骨」で検索w)は解消していなさそう。
マルケスがトップ、後方にWアンドレア、スズキ勢をはさんでレディング、さらにエクトル・バルベラ(ドゥカティ)と、マルケス以外はみんなドゥカティ!って展開の中、7周目にはなんと、イアンノーネ-レディング-ドビツィオーゾ-バルベラ-マルケスの順。新旧型マシン織りまぜて、なんとドカが1-2-3-4を占めてしまいました!
ところで、ポジションを落としていくロレンソはさておき、バレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)の姿もサッパリ上がって来ません! こんなコンディションになったら、ロッシはいつも、いつの間にかするする上がってくるのに……と思ったら、やっぱりそこにはカラクリがあったんです。それがタイヤチョイス!
マルケスやドゥカティ勢のように、前後ソフトレインタイヤを装着せず、ロッシはフロントにソフト、リアにハードのレインタイヤを装着していたんですね。ロレンソも同じチョイスで、他にはカル・クラッチロー(ホンダ)とバズ、ティト・ラバト(ホンダ)も前後ハードのレインタイヤ。この3ライダー、この7周目の時点で12位13位14位でしたから、これはタイヤのミスチョイスかぁ、路面も乾いてこないしなぁ…というレース前半だったのです。
しかし、異変が起こり始めたのが10周目あたり。TV画面では、特にコーナーエントリーのラインが乾き始めてきたところがいくつかあって、それでもソフトタイヤ勢が濡れているところを選んで走っている(消耗が激しく、タイヤ温度を下げたい時、こういうシーンが見られます)ような局面もないのに、がぜんペースを上げてきたライダーがいたのです。それが、前後にハードレインを履いたクラッチロー!
9番手にいた9周目くらいから、トップグループより速いタイムを連発しはじめ、トップとの差は9周目に7秒、10周目に5秒5、11周目に4秒1、12周目に2秒4、13周目には1秒1まで縮め、とうとう16周目にトップに立ってしまったんです! その頃はもう、ソフトのレイン勢はタイヤがぼろぼろ。メインストレートからのハードブレーキングがある1コーナーで、イアンノーネのマシンのセンターブロックがぼろぼろぼろっと削れ落ちているのが見えましたからね。
そして! この時ペースが上がっていたのは、クラッチローだけじゃなく、ついにロッシも上がって来たのです。10周目には9番手だったのに、徐々にペースを上げ、14周目にはマルケスの後ろ、6番手へ! そのままスパッとマルケスをも抜き去って、とうとう2番手まで上がっていくのです。
でも、ここで凄みを見せたのが、ロッシに成す術なく抜かれたマルケス! マルケスも前後ソフトタイヤで、ドゥカティ勢が前にいる分にはポジションをキープしていればOK、というレースだったはずですが、10番手あたりに低迷していたはずのロッシが、猛烈に追い上げてきて、アッという間に自分のポジションまで来たと見るや、ふたたびペースアップ。ロッシと自分との間にいたイアンノーネ、バルベラをラスト3周でパス! チャンピオンを獲るためには、もはやレース順位ではなく、ロッシとロレンソとのポジション取りだ、という思いがはっきりわかるレースぶりをみせました。
結果、MotoGP98戦目にして、クラッチローがMotoGP初優勝! 2位にロッシ、3位にマルケスで、マルケスはロッシに対して4ポイントしかロストせず、17位のノーポイントに終わったロレンソに対しては、さらに16ポイント、差を広げました。ロレンソはかろうじてポイント圏内を走っていた序盤から10番手まで追い上げていた16周目、ピットインしてスリックを履いたマシンに交換するのですが、ポジションを上げるには至らず、再びピットに入り、レインタイヤで再スタート。そのピットインの様子、マシンチェンジの様子は、どう見ても「もうダメ」「まだ走るの?」「なんだよー」って態度で、すっかりこのレースを捨てているようにしか見えませんでした。うーむ、残念。10番手を走っていた時点で、タイヤがキツかったのかな……。同じタイヤチョイスのロッシが2位まで上がったことを考えたらねぇ……。
ちょっとだけタイミングが遅かったとはいえ、ソフト/ハードのレインタイヤを選んだヤマハの戦略の正しさ、前後ソフトでも3位に入ってみせたマルケスの強さ、ソフトを履いていたドゥカティのタイヤへの攻撃性、ロレンソの雨でのひ弱さ、マシントラブルに見舞われたドビツィオーゾのツキのなさ、そしてペドロサはどこ走ってた??--そんなのが垣間見えたチェコGPとなりました。
これで、MotoGPは1週のインターバルをおいて、クラッチローの母国、イギリスへ向かいます。MotoGP、イギリス入れてあと7戦です!