正常進化と共に洗練されたZZR
ストック状態で300㎞/hオーバーを達成するスズキGSX1300Rハヤブサの登場により、長らく堅持して来た「世界最速」の座を追われてしまったZZR1100。とはいえすでに次期主力モデルの開発を進めていたカワサキは、そのハヤブサ登場の興奮冷めやらぬ99年秋のパリサロンにZX‐12Rをデビューさせる。エンジン真上から背面にかけて、エアクリーナーケースとバッテリーケースを兼ねたボックス状のフレームを通し、当時量産市販車最高の178PSを発揮する専用設計の1199㏄エンジンを搭載したZX‐12Rは、海外の二輪専門誌のテストで308・53㎞/hという最高速度をマークした。
しかし、ZX‐12Rは開発陣もそう公言するようにZZR1100の後継モデルではなく、ZX‐9Rの上位に位置するスーパースポーツの血統。ツアラーとしてはライディングポジションの前傾がきつく、スーパースポーツとしては大きくて重いと、性格のブレがあったのも否めないところ。また、当時のヨーロッパでは大型バイクに最高速度規制をかけるか否か、というナーバスな問題が持ち上がっていたこともあり、極めて意欲的なモデルでありながらマーケットの主流を掴むまでには至らなかった。
02年。改めてZZR1100の後継モデルとなるZZR1200がデビュー。エンジンはZX‐12
Rのものではなく、01年に登場したビッグネイキッドZRX1200Rの1164㏄ユニットがベースで、新設計に近いほどのモディファイを加えることで、ZRXの100PSから一気に155PS、フルブーストで163PSまでパワーアップ。当時のリッターマシンは徐々にインジェクション化が進んでいたが、ZRXの36φから口径を広げたCVKD40φキャブを採用していた。
ZZR1200[C1]
しかし、ZX‐12Rの存在、ヨーロッパでの速度規制の問題もあって、ZZR1200は世界最強最速を目指すバイクではなくなった。もちろん充分にパワーは出ているのだが、レスポンスが穏やかになり、カワサキらしからぬシルキーなエンジンフィーリングに変貌。シャシーも大幅に進化し、サスペンションもスポーツ性を意識した硬めのセッティングになった。このように、オートバイとして正常進化を遂げ、格段に洗練されたZZR1200だったが、多くのユーザーがZZRに求めているものは少し違っていた。
オートバイ&RIDE 2016年8月号