軽くて速くて曲がって… 操作の面白さはピカイチ
エンジンのパワーバンドを使った走り方。スロットル、クラッチ、シフトの連携。意図的な逆操舵によるコーナリングなど、オートバイを「操る」という面白さ、難しさを16歳の僕に教えてくれたのが73 年型のRD350。
逆に「オートバイとはこういうものだ」と刷り込まれたのかもしれない。いまだにライダーの意志に素早く反応するハンドリングや、回転によって表情を変えるエンジン特性が好みなのはRDから受けた影響が大きいのだろう。
僕がRD350を選んだのは、たまたま程度が良くて安く買える車両があったからで、ヤマハ党だったわけでも、2ストファンだったわけでもない。そもそも当時の僕は2ストと4ストのメカニズム的な違いさえロクに判らず、「2ストはエンジンオイルを消費して煙を吐くけれど、同じ排気量なら4ストより車体が軽くて馬力もある」という程度の認識しかなかった。
ただ、少し年上のオートバイ乗りからYDS-1やDS6、DXといったヤマハの2スト250㏄車が、ホンダの4スト車より優れているという話はよく聞かされていた。なにしろ軽くて速くて、鋭く曲がって止まる。ヤマハの2ストは世界一なのだ、と。
当時のバイク仲間に人気があったのは、2ストならGT380や350SS、4ストならCB500、750とZ2(750RS)。シンプルゆえに地味なデザインの車体に、性能優先の2気筒エンジンを積んだRDはさほど注目されなかった。一年落ちが半額以下で買えたのも、人気がなかったからだろう。でも僕は、RDに乗り込むほどに「見た目は地味だけど走りの性能はピカイチ」というところが大いに気に入った。
現代のレベルから見てもシャープな操縦性に驚愕
今回試乗させていただいたRD350は深緑色の73 年型で、僕が乗っていたものと同じ。低めのコンチネンタルハンドルに換装されている点も同じで、自分のRDがタイムスリップして現われたような気がした。
燃料コックをONにしてからキャブレター横のスターターレバーを引き、スロットルを僅かに開いてキックペダルを踏み下ろす、という一連の始動操作は体が覚えていた。バランッ!という始動時の排気音も、回転を上げるとビンビンと響く冷却フィンの共振音も変わらない。40 年ぶりに旧友の声を聞いたようで、同行のカメラマンと編集長に気味悪がられながらもしばらくニヤつきが止まらなかった。
普段ほとんど乗っていないという車両なので、走り出してしばらくはプラグがカブリ気味。排気音も湿っていたが、徐々に回転を上げて走っているうちに乾いた音へと変わり、6000回転からの強力なダッシュ力も取り戻した。高回転の伸びはないが、充分に速い。多くの人がスポーツモデルの2ストエンジンに対して持っているイメージとは異なり、低回転域のトルクもある。この粘り強い特性があるからこそ、6速発進が可能だったのだ。
前後サスペンションのダンパーが抜け気味で、本来のコーナリング性能は発揮させられなかったが、今のレベルで見てもハンドリングは軽くてシャープだし、フロントブレーキの効きも充分。40 年前のオートバイという古臭さや危うさはなく、いまどきのバイアスタイヤに交換してサスペンションをオーバーホールすれば普通に乗れる。
写真:松川 忍
車両協力: ウエマツ
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