『慣らし運転って、本当に必要なの?』
新車を買うと「まだ慣らし中?」と聞かれることが多い。でもこの「慣らし」という話題は面倒な展開になりがち。「今のオートバイには必要ない!」という人も「間違いなく違いが出る」という人もいて、必要派と不要派で喧々諤々の議論に……。そこで僕の経験と、新車販売経験の豊富なショップが行っている慣らしについてレポートしましょう。
「慣らし運転」の意味は?
エンジンの中ではピストンやバルブがどえらい勢いで上下し、クランクやカム、ミッションなどのシャフト類は1分間に何千回転という速度でグルグル回り、ミッションの歯車はシフト操作のたびにガッチャンコと噛み合いを変える。
車体関係でも前後サスペンションのインナーとアウター、ブレーキのディスクとパッドなど、アッチでもコッチでも部品同士が休みなく擦れ合ってる。
こうした擦れから生じるのが『摺動抵抗』で、よく「新車はエンジンレスポンスが鈍い」とか
「ミッションの入りが渋い」、「サスの動きが悪い」というのは、部品同士のクリアランス(間隔)が設計値にごく近いから。
しばらく動かせば摺動部が微妙に消耗してクリアランスが広がり、抵抗が減って動きがスムーズになるというわけ。機械も人間関係も適度な距離を置かないとスムーズにいかないもんね。
まだ工作精度が低かった80年代まで、慣らしはかなり慎重に行なうものだった。製造技術や素材の問題で部品の精度と強度のバラつきが今より大きく、熱膨張によるクリアランスの変化も厳密に
解明されていなかったからだ。さらに組み立て過程で起きる締め付けトルクの管理も不十分だった。
だからいきなり高回転まで回すと摺動部が強く擦れて傷付いたり、最悪の場合は焼き付いたりする。僕自身もカムシャフトの焼き付きや、ミッションの歯車が欠けてギアが入らなくなったことは何度か経験している。
現在は部品の精度、強度のレベルが揃い、組み立て精度も高くなり、エンジンオイルの質も良くなっているから以前ほど慎重な慣らしは必要ないが、昔も今も金属部品同士が猛烈な勢いで擦れ合う、
という物理的な運動には変わりがない。「神経質にならなくていいけど、いきなり全開にはしない」
というのが僕のスタンスです。
「慣らし」の具体的な方法は?
新車には「取扱説明書」とか「オーナーズマニュアル」といった小さな冊子が付いてきて、ここに「最初の何kmまでは○○回転以下で」といったことが書いてある。
この数値は車種によって違うけど、ニンジャ1000の場合は「0~800kmまでは4000回転以下」、「800~1600kmまでは6000回転以下」という指示。800kmとか1600kmとか半端なのは、輸出車なのでマイル表示がベースになっているからだ。
大排気量車の場合は回転が高くなくてもそれなりの速度が出せるから、普通の乗り方なら速度的には不自由ない。ニンジャ1000だと6速・4000回転でも95km/h程度は出るからね。
ここで大事なのは回転数の上限を守ればいい、というものではないこと。回転を抑えるなら発進してすぐにポンポンとシフトアップして高いギアに入れればいいけど、エンジンには「スムーズに回る回転域」というものがある。
ニンジャの場合、6速・2000回転なら50km/h弱。だけど、ここからアクセルを開けると微妙に振動が増えてカリカリという音が出る。これが低速ノッキングという症状。この症状が出なくても、ドライブチェーンが躍ってガシャガシャと音が出るような加速はエンジンにとって大きな負担になるから、スムーズな回転域をキープできるギアを選ぶことが重要だ。繰り返すが「低回転を使えばいい」ってもんじゃないんだよ。
サスペンションやミッションも慣らしが重要!
以上がエンジンの慣らしに関する基礎知識。でも慣らしは「摺動部の抵抗を適度にすること」が目的だから、エンジン内部だけじゃ済まない。
ということで、次回はサスペンション、ミッションについて解説します。
【納車から3か月経っているのに走行距離は2000km未満。いろいろなカスタム企画に使われているので乗るに乗れず、6月初旬のGTCS(爺・ツーリング・クラブ・新橋)にもVTR1000Fで行った太田安治】
(写真/南孝幸)