文: 石川順一
▶▶▶写真はこちら|ハセガワ「機甲創世記モスピーダ VR-052F モスピーダ “スティック”」(画像5枚)
走り出す前に、バイク乗りは装備を着る
ヘルメットのあごひもを締め、プロテクター入りのジャケットに袖を通し、最後にグローブをはめる。エンジンをかける前のこの支度が、儀式のように好きだという人も少なくないだろう。身に着けるものがひとつ増えるごとに、走るための体ができあがっていく。
それなら、バイクそのものを着られたらどうだろう。さっきまで走らせていた愛車が、降りたとたんに鎧へ姿を変えて体を包む。そんな乗り物を主役にしたテレビアニメが、40年以上前に放送されていた。
バイク好きの少年と、火星から来た士官の旅
その作品が『機甲創世記モスピーダ』だ。制作はタツノコプロ。1983年10月から翌年3月までフジテレビ系列で放映された、全25話のSFアニメである。

『機甲創世記モスピーダ』のビジュアル。奥で銃を構えているのが、バイクを身にまとった姿のライドアーマー。
物語は、インビットと呼ばれる異星生命体に地球を奪われ、人類の半数が火星へ逃れて30年あまりが過ぎたところから動き出す。地球を取り戻すための降下作戦はまたも失敗し、火星で生まれ育った20歳の士官スティックは、部隊でただ一人生き残って南米に不時着する。敵の本拠地があるのは北米。スティックはそこを目指して走り始める。
道中の連れとなるのは、占領下の地球で育った若者たちだ。17歳のレイは自作のバイクを乗り回していたバイク好きで、墜落した輸送機の残骸に眠っていたモスピーダを手に入れて旅に加わる。16歳のフーケは、暴走族でサブリーダーを張っていた過去を持つ。南米から北米へ、行く先々で人と出会い、別れながら進んでいく筋立ては、ロードムービーそのものである。バイク乗りの目には、果てしなく長いツーリングの物語に映るだろう。
作り手の顔ぶれも目を引く。音楽には久石譲が名を連ね、キャラクターデザインは天野嘉孝、オープニングのアニメーションは金田伊功。「襲撃のプレリュード」「突ッ張リ少女ブルース」といった具合に、全25話のサブタイトルには音楽用語が織り込まれた。放送は当初の予定より短い半年で終わったが、国外では『ロボテック』というシリーズの一編として放送され、日本での放送時を上回る人気を集めている。
相棒は、身にまとえるバイク
その旅の足が、作品名にもなったモスピーダだ。モスピーダという名は、Military Operation Soldier Protect Emergency Aviation Dive Auto の頭文字をつないだものだ。ふだんは2輪のバイクとして走り、戦うときには変形して、乗り手の体を包むパワードスーツに変わる。この作品では、バイクの姿をアーマーサイクル、身にまとった姿をライドアーマーと呼んだ。
身にまとう仕組みには、ライディングウェアが組み込まれている。乗り手はあらかじめ専用のスーツを着ていて、変形したバイクはその膝から上にかぶさる。膝から下はスーツがそのまま脚の装甲を務める。長い距離はバイクの姿で走り、いざというときだけ着る。バイクとウェアをひと続きの装備として考えた乗り物といえる。
メカニックデザインを担当したのは、荒牧伸志と柿沼秀樹の2人。スズキのGSX1100Sカタナをモチーフにしたと目されるそのバイクには、乗り物としての設定が細かく与えられた。燃料はHBTと呼ばれる複合水素燃料で、缶をタンクの後ろに丸ごと差し込んで使う。HBTという名前は、GASの3文字をアルファベット順にひとつずつ後ろへずらしたものだ。
諸元まで用意されている。設定上の全長は2,050mm、乾燥重量は132kgで、最大巡航速度は220km/h。エンジンはHBTを燃料にするタービンで、最高出力は98馬力/16,000rpm。前輪にもドライブシャフトが伸びるという、実車ではまず見ない作りも備える。自分のバイクの諸元表と見比べながら読めば、架空の乗り物がぐっと身近になってくる。
1台のバイクとして、カウルの内側まで
そんなモスピーダの立体化にはこれまでも各社が取り組んできたが、多くは変形の再現を特長としてきた。放送当時のプラモデルにも、近年の完成品やプラモデルにも、バイクが鎧に変わる仕掛けを備えたものが並ぶ。
しかし、ハセガワが2026年12月に発売する1/12スケールのプラモデル「VR-052F モスピーダ “スティック”」は異なる。題材はスティックが乗る指揮官用の機体だが、ライドアーマーへ変形する仕掛けは再現せず、バイクの姿ひとつに絞って、本物の車両を縮尺どおりに再現した模型を組んでいるような手応えを狙った。旅の相棒を、1台のバイクとして眺めるためのキットなのだ。

外装を外した状態。この製品のために新しく設定された内部の機構まで再現される。
その狙いを支えるのが、荒牧伸志の全面監修で新しく起こされた設定だ。外装の内側に収まる機構が部品として用意されているので、組み立ての途中で、カウルに隠れる部分まで自分の手で形にしていくことになる。前輪のドライブシャフトは、設定どおりの部品と新しく設定された部品の2種類が入り、後者に差し替えればハンドルが切れる。ライトのカバーも、設定画の形と、アニメの画面で描かれた形から選べる。
劇中の設定を指先でなぞれるのも、バイクの姿に絞ったからこそだ。タンクは上面が開き、燃料のHBTの缶は抜き差しできる。タイヤはゴム、サスペンションのスプリングは金属、ヘッドライトの奥にはメッキの反射面。プラスチックの色分けでは出せない質感が、組んだだけで手に入る。

右後ろから見たところ。シートはブラウンの部品で色分けされる。
完成すると全長171mm、全高102mmと設定からすると1/12サイズ。ハセガワが実車のバイクの模型に使っているのと同じ縮尺だから、愛車の模型を持っていれば隣に並べて楽しむこともできる。
接着剤いらずで、机の上にもう1台
組み立てに接着剤は要らないので、模型に慣れていない人でも手を伸ばしやすい。ハセガワの1/12の実車バイクは基本接着剤が必要なので、同社のこの縮尺のバイクとしては敷居の低い1台となっている。
部品はブルーグリーンやブラウンなど8色に分けて成形される。カウルが白1色の部品で入っている実車の模型もあるなかで、こちらは組んだだけで車体とシートの色の違いが出せる。ヘルメットと簡易スタンド、スティックの搭乗車を示す「21」のマーキング用デカールが付属するというのも、ファンにはたまらない。
価格は税込4,950円。発売は2026年12月18日頃で、全国の小売店とECサイトではすでに予約が始まっている。組み上げたら、ヘルメットを置いている棚の近くに飾っておこう。出かける前に装備をひとつずつ身に着けながら、着られるバイクで大陸を走った若者たちの旅を思い浮かべる。その日のツーリングが、少しだけ物語の続きのように感じられるはずだ。

ハセガワ 「機甲創世記モスピーダ」 VR-052F モスピーダ “スティック” 主な仕様
・種類:プラモデル(クリエイターワークス シリーズ、完全新金型)
・縮尺:1/12
・寸法:全長171mm、全高102mm
・組み立て:接着剤不要
・部品の色:8種(ブルーグリーン、グレー3種、ブラウン、ブラック、ホワイト、クリアー)
・素材:ヘッドライト鏡面はメッキ、タイヤはゴム、サスペンション用スプリングは金属
・付属品:ヘルメット、簡易スタンド、デカール(スティック搭乗車「21」)
・価格:4,950円(税込)
・発売時期:2026年12月18日頃
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