文: 石川順一
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おなじみの旅を異なる車輪と曲がり方で
二人分の荷物をトップケースとサイドケースに詰め込み、高速道路で遠くの温泉地を目指す週末。大排気量のグランドツアラーを愛するライダーにとっては、おなじみの旅のかたちだろう。電動スクリーンで風当たりを整え、クルーズコントロールで長い直線の距離を重ね、グリップヒーターの温もりとともに山あいの道へ入っていく。快適さと、風を受けて走る爽快さを両立できるところに、こうしたツーリングの醍醐味はある。
その旅を、装備はそのままに、まったく違う走り方で味わえる乗り物がある。前に2輪、後ろに1輪を置いたリバーストライクだ。なかでも、カナダのBRPが手がけるカンナム「スパイダー RT」は、グランドツアラーの旅支度を丸ごと3つの車輪の上に載せることができる一台となっている。

左から2台目が、二人乗りで走るスパイダー RTだ。
旅のペースのまま、ハンドルひとつで向きを変える楽しさ
リバーストライクの操縦は、バイクとはまるで別物だ。カーブの手前で寝かせ込み、出口で引き起こすという、バイクなら体ごとこなすその動きが、スパイダーではハンドルを切って戻す操作に置き換わる。しかもハンドルへの反応は機敏で、小さな操作ひとつで464kgの車体が向きを変えていく。大きな車体を手元の操作で思いどおりに動かす手応えは、バイクとはまた違う操る楽しさだ。
ただし、車体が傾かないぶん、カーブでは遠心力を体でじかに受け止めることになる。ペースを上げるほど、ニーグリップで上体を支える場面も増えていく。だからこの乗り物が本領を発揮するのは、旅のペースだ。流れに乗って山あいのカーブをつないでいけば、ハンドル操作で向きを変える軽快さを、二人で気負わずに味わえる。
こうした走りを下支えしているのが、2輪を前に置いた配置だ。カーブの手前でブレーキをかけると、車体の重みは前へ移る。スパイダーは、その重みを左右に張り出した2つの前輪で受け止める。2輪を後ろに置く従来のトライクでは、減速しながらハンドルを切ると内側の後輪が浮き上がりやすいが、前2輪のリバーストライクではそうした動きが出にくい。
車体が片側へ持ち上がる心配が少ないから、二人と荷物を載せた旅でも、山あいのカーブを身構えずに迎えられる。左右に広く構えた前輪と1714mmの長いホイールベースは、高速道路の巡航でも車体をふらつかせずに進路を保ち、長い移動の疲れを和らげてくれる。
止まったときの気楽さも、3輪ならではだ。3つの車輪で自立するから、信号待ちで足を着いて車体を支える必要はなく、乾燥重量464kgの車体を坂道の途中で踏ん張って支え続けることもない。電動のパーキングブレーキと、坂道発進を助けるヒルホールドコントロールも備わる。後進ギアがあるので、頭から入れた駐車場で車体を押し戻す手間もかからない。

Spyder RT Limited。カラーはカーボンブラックのみだ。
1330ccの3気筒と、177Lの旅支度
そんなリバーストライクのなかでも、スパイダーはロングツーリングの相棒として群を抜いている。エンジンは1330ccの水冷直列3気筒で、最高出力は115hp、最大トルクは130.1Nmを5000rpmで生む。乗員二人とたくさんの荷物を載せて遠くを目指す旅に見合った、ゆとりのある排気量とパワーだ。
変速は、後進付きの6速セミオートマチック。人差し指と親指で操作するパドルシフトでギアを選び、クラッチのつなぎは油圧式の機構が担う。クラッチレバーそのものがないから、渋滞の中で発進と停止を繰り返しても左手が疲れることはない。
そして、長距離を走る乗り物として気になるのはやはり燃費だ。その実力は1Lあたりおよそ16km。26.5Lのタンクを満たせば420kmほど走れる計算で、給油の間隔にゆとりを持って距離を重ねていける。
荷物の収納は、トップケースを含めて合わせて177L。泊まりがけの旅の荷物も、二人分を無理なく振り分けられる。後輪のショックはエア式で、荷物や同乗者の重さに合わせて車高を自動で整えるので、荷物を積み込んでも後ろだけが沈み、車体が後ろに傾いたまま走る、ということが起きにくい。
さらに、メモリー機能付きの電動スクリーン、クルーズコントロール、6スピーカーのオーディオ、Apple CarPlayに対応した10.25インチのタッチスクリーンまで装備。専用アプリ「BRP GO!」を使えば、インカムなしでルートを設定したり、仲間の現在地を確かめたりもできる。グランドツアラーに求められる装備が、これでもかと3輪の上に揃っているのだ。
後ろの席も、旅の主役になる
二人旅を楽しむライダーにとって、スパイダーは同乗者の旅のしかたも変える。車体が傾かないので、後ろに座る人はコーナーのたびにライダーと呼吸を合わせて体を倒さなくていい。背中はトップケースと一体になった背もたれが受け止め、足を置くフットボードは位置を調整できる。
シートとグリップのヒーターも、運転席だけでなく同乗者の席に備わっている。総積載重量は224kgで、ライダーと同乗者、荷物をまとめてこの重さまで受け止められる余裕があるのだ。

最上位モデルとなるSpyder RT Limited Sea-To-Sky。カラーはドロマイトグレー一色の展開だ。
クルマの免許で乗る”グランドツアラー”
最後に、バイク乗りには意外な事実をひとつ。スパイダーは車体を傾けずに曲がる3輪車なので、道路交通法では二輪車に当たらず、運転に必要なのは二輪免許ではなく普通自動車免許だ。クラッチ操作のないセミオートマチックだから、AT限定でも運転できる。安全を考えればヘルメットはかぶっておきたいものの、法令上の着用義務はなく、その気軽さもまた3輪らしい。
日本に導入されるスパイダー RT は、リミテッドとシー・トゥ・スカイの2グレード。ここまでに挙げた装備はどちらにも備わっており、上級のシー・トゥ・スカイには、運転席の調整式背もたれやバックカメラ、走行中にタイヤの空気圧を画面で確かめられるTPMSセンサーも加わる。専用のトラベルバッグも標準で付くから、二人分の荷物の整理にも困らない。
最新となる2027年モデルの価格は、いずれも税込で、スパイダー RT リミテッドが455万5000円、シー・トゥ・スカイが488万5000円。よりスポーティーなスパイダー F3系も、314万5000円から選べる。
二人分の荷物を積んで遠くを目指す旅はそのままに、コーナーではハンドルを切って前2輪で踏ん張って風を切り、信号では足を着かずに待つ。慣れ親しんだ旅の道のりにも、こんな味わい方があったのかと気づかせてくれる一台だ。

サーキットイエローメタリックを纏うSpyder F3-S。Spyderシリーズの中ではエントリーモデルとなるが、収納をオミットした分、よりスポーティな走りが楽しめる。サイドパニアケースや、背もたれ付きのSpyder F3 Limited Special Seriesもあり。そちらはSpyder F3 Limited Special Series同様にドロマイドグレーで展開されている。
BRP カンナム スパイダー RT 主要諸元
・必要な運転免許:普通自動車免許(AT限定可)
・全長×全幅×全高:2833×1554×1464mm
・シート高:755mm
・乾燥重量:464kg
・乗車定員:2名
・エンジン:ROTAX 1330 ACE 水冷直列3気筒 1330cc
・最高出力:115hp/7250rpm
・最大トルク:130.1Nm/5000rpm
・変速機:後進付き6速セミオートマチック(パドルシフト)
・燃料タンク容量:26.5L
・燃費:6.3L/100km
・収納容量:177L
・総積載重量:224kg(乗員・荷物を含む)
・ブレーキ:足踏み式3輪連動油圧ブレーキ、フロントはブレンボ製4ピストンキャリパー
・安全装備:ABS、トラクションコントロール、スタビリティコントロール、ダイナミックパワーステアリング、ヒルホールドコントロール
・価格(日本導入予定モデル):スパイダー RT リミテッド シー・トゥ・スカイ=488万5000円/スパイダー RT リミテッド=455万5000円(いずれも税込)
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