2027年型のヤマハ YZ250Fは、8年ぶりの新作エンジンでレブリミットを700r/min引き上げてきた。試乗した和泉拓いわく「まるでロードバイクのように高回転までまわるし、コントローラブル。開け始めもスムーズ」。北米での評価・成績も高い名機は、いかにしてアップデートされたのだろうか
開け始めから、勝手に出なくなった
試乗会場の宮城県スポーツランドSUGOに近いという理由からだけでなく、和泉拓には毎年このヤマハ試乗会のテスターをお願いしている。自他共に認めるオフロードバイクフリークで、バイクショップを経営しつつ様々なバイクを自分仕様にカスタムし、極限まで何かを追い詰める姿勢は他に類を見ない。ただし本人は、乗る前に必ず同じ前置きをする。モトクロスコースは普段走らないので、モトクロスバイクのインプレッションはあまり適当なことが言えません、というものだ。和泉はBetaのユーザーで、昨今の主戦場はハードエンデューロ。一昨年にYZ250Fで1年ハードエンデューロを走り、その後もう1台の250Fに乗り換えている。

そんな和泉が新型YZ250Fに乗ってまず挙げたのは、スロットルの開け始めの変化だった。「昔のYZはスロットルの開け始めに、勝手に吹けたがる性格でした。新型にはそういったフィーリングがなくなっていましたね。ごく微開なのに、勝手に回転数が立ち上がってバンって出てしまう、そういう嫌な感触がなかったです。モトクロスで言うと、コーナーで寝かせている最中に開け足しやすいし、そもそも普通に走り出すときのスタートもしやすい。僕好みです」
話はそのまま、中〜高回転域へ進んだ。
「個人的に気になったのは、中間域から7000〜8000回転あたりまでのトルクが薄いことですね。ただ、これは23年モデルのときにも感じていたので、新型に限った話ではないと思います。そこから先、9000〜10000回転あたりからは怒涛のパワーで、吹け切るまできっちり回るし、超速い。回すと超楽しいバイクです。逆に3速で走ろうとすると、開けても中間のトルクがないので進んでくれない。そこで半クラッチを使ってやると、めっちゃ速い。だから速く走ろうとすると、125みたいな乗り方がいいのかなという感じですね。低いギアに入れて回し切ってしまうか、ハンドクラッチで回転を合わせにいくか。クラッチで合わせるバイクだな、と思いました」
さらにヤマハが数年前からタグラインとして掲げる”プーリングパワー”についても言及。
「ずーっと伸びていく。明確にレブリミットに当たったという手応えは、あまりないんですよ。開け始めのギクシャクがなくなったぶん全域がスムーズで、ゆっくり出てから、そのままレブリミットまで行ってしまう。そういう回り方になっていました」
レブリミットが700rpm上がったことは、頭打ちの位置が変わったというより、伸びの長さとして感じるらしい。
最強のマシンを、さらなる高みへ目指すためのレブリミット
そもそもYZ250Fは、米誌のシュートアウトで8年連続1位を取り続けているモデルである。そこへヤマハは「All we make for your FASTER」を掲げ、オールニューエンジンを積んできた。技術説明資料の言葉を借りれば、ライバルをさらに引き離す、という一手だ。

本丸はシリンダーヘッドである。吸気側のバルブ駆動が、これまでのカム直打式からYZ初のフィンガーフォロワー構造になった。従来はバルブの上にリフターを乗せ、そこをカムが押していた。今回はそのリフターが消え、指のような形のロッカーアームが直接バルブを押す。このロッカーアームはYZF-R1用を流用しているという。結果として動弁系の等価重量は16%低減し、高回転までバルブスプリングがサージングを起こさなくなった。あわせて吸気バルブのリフト量を9.6mmから10.2mmへ増やし、吸気側のバルブスプリングはYZシリーズ初のダブルスプリングとしている。圧縮比も13.8から14.1へ上がった。正直な話、フィンガーフォロワー自体は目新しい技術ではなく、ヤマハもYZF-R1の2015年モデルから投入している。
エンジン実験を担当した北原直哲さんによれば、フィンガーフォロワーを付けること自体に大きな構造変更は要らなかったという。ロッカーアームのシャフトが付くように少し肉が増えた程度で、基本構造は従来と同じだ。また、軽量化のためにカムシャフトのベアリングは廃止され、シリンダーヘッドが直接カムシャフトを受ける形に変わっている。

「スムーズさは大きく変わらないんですけど、はるかに軽いんです」(北原さん)
クランクの大端軸受けも、ニードルベアリングからプレーンベアリングへ変わった。プレーンベアリングは高回転に強い一方で油膜が切れると焼き付くため、潤滑をドライサンプ式に改め、オイルの供給を安定させている。
カムチェーンのテンショナーは、シリンダー側からヘッド側へ移された。
「チェーンが高速回転しながら排気側のギヤに入るタイミングですごく暴れるんです。それを直接押さえる。カットモデルを作って実際に回して、動画で撮って初めて分かったことでした」(北原さん)
カムチェーン自体は1つ前のモデルで強化され、今回カムスプロケットの歯数が変更された。
重くなった部分もある。クランクケースはドライサンプ化のためのオイルタンクを内蔵したぶん大きくなり、ミッションのギヤも太くなった。軸間距離を51.97mmから56mmへ広げ、ギア配列を組み替えて歯幅を稼いでいる。軽くできるところは軽くし、パワーが上がった分強くするために重くなるところは重くする、というバランスの取り方だ。
軽量化のほうも、細かい積み上げだ。クランクアッシーは錨形状として必要な慣性モーメントとアンバランス量を確保しながら軽量化。バランサー周りは部品点数を10点から5点へ減らし、シャフトの軸部を3mmから2mmへ薄肉化。先述のカムシャフトベアリング廃止も効いて、合計で約270gを削っている。
こうした積み上げの結果が、全域でトルク面積12.6%拡大という資料の数字に繋がっている。プラス700rpmは、どこか一箇所から生み出された魔法ではない。あらゆる箇所でフリクションを減らし、軽くした総和が、そのまま回転数として出てきている。ヤマハ自身がこの狙いを "Long pulling feeling" と呼んでいるのも、和泉の「ずーっと伸びていく」という感想と正確に重なる。
本当は1000回転上げたかった
北原さんに、そもそも何回転上げたかったのかを聞いてみた。返ってきたのは、最初の目標は1000回転アップという答えだった。設計も評価も開発もその線で進めたものの、昨今の騒音規制に阻まれて、最終的に700回転で落ち着いたという。

「まだポテンシャルはありますし、耐久性にも余裕があるエンジンです。これまで以上に長く乗れますし、レーシングシーンならもっと攻めたエンジンチューニングができる。伸びしろがあります」(北原さん)
その苦労は、排気側を見ると形になっている。展示車のエキゾーストパイプは明らかに細い。触りながら聞いてみると、パイプにはレゾネーターが追加されており、要は騒音規制への対応だという。サイレンサーの内部構造も変わっている。去年までは一応、無理やり騒音規制に対応した…ような感は否めなかったが、今年はガッツリ対応して再設計しなおした。ストレート構造をとり、消音効率を高め、ツキやパワーを犠牲にしない。音を聞いても、そもそも旧モデルとは音質が違うなと感じた。

つまりYZ250Fのレブリミットは、エンジンの限界ではなく、外側の規制で決められている段階にある。

地味な主役は、始動性だった
出力向上と並ぶ改良点として説明されたのが、始動性である。始動系のギア比を最適化したうえで、いちばん効いているのが始動デコンプの圧変更だった。その量は2026年モデル比で2.1倍。始動時に圧縮を大きく抜いて最初の爆発の勢いを変え、その後の爆発をしやすくしている。ここにスターターモーターのトルクアップが加わった。圧縮比を14.1まで上げているぶん、本来なら始動性は悪化する方向だが、この二段構えで上回った。従来のF/FXには、ギアが入っているとかからない、バッテリーが上がる、というクレームが多かったという。

この話を聞いた和泉は、この日いちばん大きな反応を見せた。
「それは超嬉しいですね。本当にかからないので。僕、昔YZに乗っていた頃は長丁場のレースにはリチウムバッテリーを1個、予備で持っていっていました。転んで何度も再始動を繰り返していると、バッテリーが上がってしまうんですよ。しかもFはFXに比べて発電容量が少ないので、余計に良くなかったですね」
これは筆者も経験したことがある。今乗っているYZ250FXの2025モデルは、白井のハードエンデューロでセルしかまわってないんじゃないか、と思うほどセルを使ってもバッテリーはビンビンだった。だが、過去に乗っていたモデルではコースの谷底でバッテリーがあがりその場で座り込んだ思い出がある。しかし今回のYZ250Fは2ストロークかと思うほどで、インギヤでも一発でかかるのだ。この点はカタログではたった1行で終わる項目で、話題としても700rpmの方が注目が高いのだが、それでも山で一日走るライダーにとっては、かなり効き目を感じる改良かもしれない。今回のエンジンはFX系のベース車両としても相当いいものになったはずだ、というのが和泉の見立てだった。
買える技術の、いちばん先端で起きていること
この日の取材でずっと引っかかっているのが、モトクロッサーは今、普通の人が買える技術のいちばん先端にある、という点だ。市販の公道モデルはコストと耐久性と排出ガス規制を全部背負っているので、ここまで攻められない。かつてはTZのような市販レーサーがその位置にいたが、今はもうモトクロッサーくらいしか残っていない。
その先端で、騒音規制が上限を決めるようになった。YZ250Fはレブリミットという天井に張り付くところまでフリクションを削り、目標だった1000回転には300回転届いていない。エンジン側にはまだ余裕があると開発が明言している以上、この伸びしろをどこで使うのかは、レースの現場が決めることになる。
編集部稲垣の補足
以下は、同じ日に乗った編集部稲垣が感じたことである。評価としては和泉の言葉のほうが精度が高いので、脇に置いて読んでほしい。
この日はYZ250FとYZ450FXの2台に乗ったが、僕にとっては完全にYZ450FXのほうが乗りやすかった。YZ250Fのほうがよっぽど怖かった、というのが正直なところである。2速でレブリミットに当てようと頑張ってみたが、僕の腕では恐怖心が勝って閉じてしまう。ビビリミッターである。やっぱり僕にはYZ250FXがいいや、と思いながら帰途についた。
だが、3日後にこの筆をとりながら思うのは、YZ250Fが欲しい、その一点だ。YZ450FXもいいなとは思ったが、この求心力はもはやあらがえないかもしれない。レブリミットにあたるかどうか、そんなことは思い返してみるとどうでもよかったのだ。恐怖心と戦いながら、2速でガンガン回すときのアドレナリンは、2スト125を上回るなと思った。
騒音規制でおとなしくなったはずの音もいい。モトクロッサーは、走るためにあるのではなく、気持ちのいい音を出す楽器なのかもしれない、と思うほど最高に気持ちいい。とにかくパワーが出ているので、慣れないスポーツランドSUGOを走るのが怖かっただけなんだろう。ホームコースのモトクロスヴィレッジで思い通りに走ったら、さぞかし気持ちいいだろうなと思った。

エンジンのパーツが無造作に置かれている試乗会場で、開発の北原さんに気になって聞いてみたことがある。YZ250FにもYZ250FXにもバランサーが入っているのに、なんで明らかにYZ250FXのほうが振動が少ないのか、と。バランサーの重さが違う、というのが正解だろうと思っていたら意外な答えが返ってきた。「モトクロッサーは、わざとバランスを位相で少しずらしてあって、振動を”味”として残しています。そのほうがライダーたちもパワーが出ているように感じるし、トルク“感”がある」と。ああ、そうか僕はこの人たちの策略にまんまとはまって、エンジンの気持ちよさに酔っていたのか、と思った。思い返せば、25年前に乗っていたSR500もそうだった。ヤマハめ。
前述したとおり、僕レベルならYZ250FXのほうが合っているし、モトクロッサーなんてなくたっていい、と思う日々が続いていたのだが、モトクロッサーの純粋な楽しさを思い起こさせてくれたのがこのYZ250Fだと言えるかもしれない。もう、うらやましさが止まらない。

YAMAHA
YZ250F MY27
2027年型 モトクロス競技用YZ 価格・発売日
| モデル | メーカー希望小売価格(税込) | 発売日 |
| YZ450F | 1,182,500円 | 2026年9月25日 |
| YZ250F | 979,000円 | 2026年9月25日 |
| YZ250F Monster Energy Edition | 1,001,000円 | 2026年10月23日 |
| YZ250 | 808,500円 | 2026年9月25日 |
| YZ125 | 759,000円 | 2026年9月25日 |
| YZ125 Monster Energy Edition | 781,000円 | 2026年10月23日 |
| YZ85LW | 599,500円 | 2026年9月25日 |
| YZ85 | 588,500円 | 2026年9月25日 |
| YZ65 | 511,500円 | 2026年9月25日 |
