2025年10月にリリースされたトライアンフの子供向け電動オフロードバイク、TXP-12とTXP-16。OSETを買収して4年、満を持して投入されたプレミアム電動を、小田原にあるリッジパークで子供たちと一緒に確かめてきた。電動オフロードの世界はもう、思っていたよりずっと先に進んでいた
トライアンフが本気で子供を育てにきた
トライアンフが2022年6月にイギリスのOSETを買収した、というニュースは僕の記憶にも残っている。OSETは2004年創業の電動トライアル車専門メーカーで、創業者イアン・スミスが3歳の息子のために作った電動バイクが起源、というオフロード好きにはちょっと感動的なエピソードを持つブランドだ。

左TXP-12、右TXP-16
その買収から4年。トライアンフはTXPシリーズとして、トライアンフブランド初の子供向け電動オフロードバイクを2025年10月にローンチした。海外ではTXP-12(3〜5歳)、TXP-16(5〜7歳)、TXP-20(7〜10歳)、TXP-24(10歳以上〜大人90kgまで)の4モデル展開だが、日本では当面、最小の2モデル=TXP-12とTXP-16のみが導入される。
子供向けバイクを真剣に作る、というのは、メーカーとしては短期的なリターンの薄い投資である。子供は早ければ数年でサイズアウトするから、1台あたりの使用期間は大人向けより圧倒的に短い。それでもトライアンフがここに本気を出すのは、次世代のトライアンフライダーを今から育てるという長期戦略以外の何ものでもない。今TXPに乗った3歳の子供が、20年後にトライアンフのフラッグシップを買う、という未来を想像しているわけだ。
OSETは買収後もブランドとして併売されている。TXPはOSETベースで作られているが、トライアンフらしさを加味した別ラインとして展開されている、というポジションだ。
TXP-12 ¥229,900 ── 初めての一台に何が必要か

TXP-12は3〜5歳の初心者向け。サイズ感としてはYAMAHA PW50クラス、と言えばオフロード関係者には伝わるはずだ。エンジン式の初心者用ミニバイクと並べて違和感のないサイズである。
ブラシレスモーター、高容量リチウムバッテリー、IP67規格の防水。サスペンションも子供サイズに合わせて専用設計されている。子供のための安全機能が手厚い。マグネット式のランヤード(ライダーが転倒してバイクから離れると電源が自動でカットされる)に加えて、速度・加速度・トルクをPINでロックすることができる。これは子供のスキルレベルに合わせて段階的に解放していけるので、レベルアップに応じてバイクが「育つ」感覚で使える。

加えて、シートは取り外し可能で、トライアル仕様(シートなし、立ち姿勢中心)とトレイル仕様(シートあり、座って走る)に切り替えできる。OSETのトライアル車のDNAを引き継ぐ、モジュラー設計の象徴だ。
価格は¥229,900。子供のためのバイクとしては安くないが、4〜5年は使える耐久性と、しっかりした作り込みを考えればこの価格帯は妥当だろう。
TXP-16 ¥299,900 ── ステップアップ機としての完成度

TXP-16はTXP-12の上位機。5〜7歳が対象、シャーシも一回り大きい。
12との違いは、まずモーターのトルクが増えていること。シャーシが大型化され、サスペンションのストロークも長くなり、ブレーキのストッピングパワーも強化されている。子供のスキルが上がるにつれて要求されるパフォーマンスを、ハードウェアでしっかり受け止める設計だ。

価格は¥299,900でTXP-12と¥70,000の差。なおTXP-16は、子供用としては十分すぎるサイズと出力を持っているが、大人がガチで遊ぶには物足りない。が、子供のために買って、時々裏庭で大人も乗って遊ぶくらいのことはできてしまうサイズと出力だ。子供のためのバイクを買うつもりが、結果として親子で楽しめるおもちゃが家にやってくる。子供を中心に据えながら、親もこっそり楽しめる装備というのは、ファミリーの中での合意形成がスムーズに進むハズ。
神経質さは皆無
ここからが本題である。
筆者が両方のモデルにまたがって低速で動かしてみたところ、180cmの大人がTXP-12にまたがる絵は、控えめに言って絵にならず、実用にはまるで耐えないが、低速で前後に動かしてみる程度のことはできる。TXP-16にもまたがってみた。これは膝の干渉こそあるものの、ゆっくり走るくらいなら成立する。先述の「裏庭で大人も乗って遊べる」というのはこのレベル感だ。
そして、まずいちばん驚いたのは、スロットルを開けた時の出方に唐突さがないこと。電動バイクは昔めちゃくちゃ怖い乗り物だった。僕も2000年代(?)に当時の電動バイクに乗ったことがあるが、トルクが立ちすぎていて、スロットルをほんの少し開けただけでビュンとトルクが立ち上がり、そのタイムラグの無さはICEとはまるで異なる。電動ゆえのレスポンスの速さが完全にデメリットに振れていて、子供用と言いながら子供では制御困難な代物だった、という記憶がある。

それが、TXPでは別物に進化していた。
出力モードが4段階に切り替えられる設計になっていて、モード1はもうほぼ「しっとり」と表現したくなるくらい穏やかな出方。これならどんな初心者の子供にも安心して渡せる。モード2〜3はエンジン車の感覚から移行してきた子供でも違和感のない自然な出方。そしてモード4にすると、ようやく電動らしい鋭いトルクの立ち上がりが現れる。
つまり、「子供のスキルレベルに合わせて、バイクの性格を4段階に作り替えられる」という設計思想だ。これがTXPの最大のキモだろう。OSETの過去の弱点だった「電動の過剰なトルク立ち上がり」を、出力モード制御で完全に飼い慣らしている。

ブレーキもこのモードと無関係に、子供の握力で扱える絶妙な調整がされている。さらに地味なポイントとして、グリップが子供用に細く作られている。これは握ってみないと気づかないディテールだが、ブレーキレバーの操作性は握り径に大きく左右されるので、これがちゃんと子供サイズになっているのは好印象。

実際に子供たちが乗ってる姿を見ても、加速の出方がいい。乗り慣れた子供たちはスイスイ乗りこなしていく。怖がる素振りも、突然の挙動に驚いて固まる動きも見られない。乗り慣れていない子供から「いちばん遅いモードは遅すぎる」というコメントも出ていたので、自転車に乗れる頃から(あるいはもっと早くから)TXP-12は使い始められそうな印象だ。
サスペンションは、子供の体重に合わせて専用設計されていて、しっとりした動きで小さなギャップを受け止めていた。子供の体格にバイクが合っている、というのはこういうことかと納得する動きだった。

OSETベースで何が深化したか
ここで一つ、業界読み解きとしての話をしたい。
電動オフロードバイクは、近年いろんなメーカーから出てきているが、大別すると2つの路線がある。ICEに代わるものとしてモトクロッサー(エンデューロバイク)を模して開発されたもの、電動の特性を活かしてスリム・軽量・俊敏に振り新たなカテゴリーを目指したものだ。前者の代表はSTARK VARG。後者は多くの新興電動メーカーがここに該当する。
電動はモーターと電池の搭載自由度が高いので、車体をスリムに作ることが容易だ。だから多くの電動オフロードは、車体の細さと軽さを武器に「スパスパ曲がる」特性を持つことになる。これはMTB(マウンテンバイク)とエンジンバイクの中間のような走り味になりがちで、エンジン車に慣れたライダーから見ると、独特の軽快さがある一方で、エンジン車のような重量感に欠ける、という性格になる。

TXPもまさに、この電動ならではの車体作りの流れに乗っている。エンジン車を電動で再現しようとはしておらず、電動の特性を活かしたスリムな車体と俊敏な動きを基本に、それを子供用にスケールダウンした作り込みだ。MTBとバイクの中間という性格は、子供にとっても受け入れやすい乗り味になる。
技術的なところでは、FOC(Field-Oriented Control)とAPS(Active Performance Stabilization)といった電動制御技術が投入されている。モーターの出力を路面状況や車体姿勢に応じて精密にコントロールする技術で、これが「唐突さのない加速」を生み出している正体だろう。OSETの過去の弱点だった電動の過剰反応を、制御技術で根本から作り替えた、というのが買収後4年で出した答えだ。
TXP-12とTXP-16は、子供のためのバイクという枠に収まらない、興味深い製品である。子供のスキルレベルに合わせて性格を変えられる4段階モード、子供の握力に合わせて細く作られたグリップとブレーキ、しっとり動くサスペンション、IP67の防水――子供向けという理由で手を抜いた箇所が、見当たらない。

なお、リッジパークのウッズはとても楽しい。だいたい初心者コースで僕が2分くらいで回れて、コンディションがよければ上級コースも幅広いライダーが楽しめるくらいの難易度になっている。僕が乗って辛いと思うことがなかったくらいなので、だいぶ優しいんじゃないだろうか。試乗会の会場としても本当によくできていて、ここでTXPに乗った子供たちが将来のオフロードライダーに育っていくのだと思うと、その光景自体が良い記事の素材だった。
ちなみに、うちの子は小6で、TXP-12にまたがった時は明らかに不満げな顔をしていた。サイズが合わない、というのが彼の主張だった。TXP-12は3〜5歳、TXP-16は5〜7歳という対象年齢が明確に分かれているので、その判断は正しい。日本で次のステップとなるTXP-20(7〜10歳)が導入される日を、僕は割と本気で待っている。


