休息日を終えたダカール・ラリー2026。ステージ7はサウジアラビアの首都リヤドから南下し、ワディ・アド・ダワシールへ至る総距離877km(SS 459km)の行程だ。第5ステージでの鎖骨骨折に加え、ステージ2の顔面へ受けた衝撃による「複視(視覚障害)」が再発。路面の距離感すら掴めない極限状態の中、藤原慎也は文字通り満身創痍で後半戦のスタートラインに立った

盤石のサンダースと、追走するホンダ勢
休息日明け、トップカテゴリーではKTM勢とホンダ勢が熾烈なデッドヒートを続ける。ステージ優勝はルチアーノ・ベナビデス(KTM)が4時間0分56秒のタイムで飾り、2位にもエドガー・カネ(KTM)が続いてKTMが1-2フィニッシュを達成。3位にはアドリアン・ファン・ベバレン(ホンダ)が食い込んだ。

総合順位では、ダニエル・サンダース(KTM)が依然として首位を堅持している。サンダースは序盤のミスでタイムを失ったものの、後半のハイペースで総合2位のリッキー・ブラベック(ホンダ)との差を4分25秒まで拡大した。トップスタートの重責を担ったブラベックは厳しいナビゲーションによりステージ9位に留まり、KTM勢が若干の優勢。総合3位にはL.ベナビデスが浮上し、首位との差は4分40秒。
スタート地点の激励と、リエゾンでの72kmオーバーラン
藤原の朝は、リヤド市内のキャンプ地を出発する際の短い交流から始まった。
「朝、スタートの時にリヤド在住の日本人の人が来てくれて。パソコンの画面に日本の国旗を表示して掲げながら待っててくれたんです。少しだけ喋って、そこからリエゾンに向かいました」
しかし、激励を受けて走り出した直後のリエゾン(移動区間)で、市街地特有の構造に阻まれる。片側4車線もある幹線道路で分岐を間違えただけなのだが、巨大な中央分離帯が、物理的な壁として藤原の行く手を阻んだのだ。

「反対車線に移れず、Uターンできる場所がない。結局、次のポイントまで36km先まで行かされて、戻るのにもさらに36km。SS(スペシャルステージ)のスタート地点に着くまでに、計72kmも余計に走行しました。SSのスタート時間に間に合わない可能性すらあって、本当に焦りました」
中央分離帯に阻まれ逆走不能な市街地を抜け、藤原はSSの開始直前に滑り込みでスタート地点へと辿り着いた。
4輪が掘り返した轍の恩恵
SS前半の約100kmに及ぶ広大な砂丘地帯では、リアタイヤが砂の中に完全に見えなくなるまで埋まる深刻なスタックに見舞われた。骨折した左肩をかばい、振動を避けるためほぼ全区間をスタンディングでこなす藤原の体力を、砂が容赦なく削り取っていく。

なにげに満身創痍で走っているようにはとても見えない藤原。カメラに向かってフロントを上げる余裕があるほどです
「座ると肩に響くからずっとスタンディングで走っていましたが、砂丘はフロントが刺さり気味になることが多く、その際に身体が前に来て肩にめちゃくちゃ負荷がかかるんです。それに、今日はリアタイヤが全部見えなくなるくらいのスタックをしました。片手でバイクを左右に揺らしても全然ダメで抜け出せなかったんですが、トップライダーがやっていたフローティングターンをYoutubeか何かで見たのを思い出し、アクセル全開にしてバイクを左に振ったら一気に抜けられました。おお、こうやるんや、と」
砂丘を抜けた後は、地表に人間の頭から胸ほどのサイズがある岩が露出するセクションを、時速100kmオーバーのハイスピードで駆け抜けた。この極限状態で藤原を助けたのは、彼を抜いていった4輪マシンが刻んだ深い轍(わだち)だった。

「4輪が掘ってくれると、柔らかいんだけどグッとサスが入る、最高に気持ちいいバンク(壁)コーナーができるんです。バイクと違ってタイヤが太いから、跡がめちゃくちゃ鮮明に見える。ナビがいらないほどはっきりした跡がついていて、身体的には非常に助かりました。路面状況としては、これまでのステージの中で一番楽やったかもしれないです」
4輪が砂を掘り返して作ったその轍を、トライアル仕込みのトラクションコントロールで捉える。ナビゲーションの負荷を減らし、怪我を抱える身体への衝撃を最小限に抑えながら、藤原は距離を稼いだ。

片目で走る150kmと、公式が称えた「サムライ」
しかし、SSの残り150km地点で、痛み以上の危機が訪れる。疲労と衝撃が重なり、以前から抱えていた複視(二重に見える視覚障害)が再発したのだ。
「残り150km地点で、完全に目がダメになりました。両目を開けていると二重に見えて走れない。だから、そこからは片目で残りの150kmを走り切りました。片目だと距離感が掴めなくて怖いけれど、そうするしかなかった。目が正常ならあと1時間は早く帰れていましたね」
時速100kmを超える速度で岩場を回避しながら、片目のみで距離感を測る死闘。ビバークに辿り着いた藤原は、肩の激痛から自力でウェアを脱ぐことすらできず、周囲のライダーに助けられる状態だった。
その満身創痍の姿をダカール公式カメラマン5人が取り囲んだ。ダカール公式メディアは彼を「THE SAMURAI」として特集動画を公開。リール動画には「Never Give Up」の言葉と共に、世界へその不屈の執念が発信された。藤原は自身の身体が限界にあることを認めつつも、公式の評価をどこか他人事のように受け止めている。
「公式が特集してくれて、怪我しててもあいつ普通に走ってるぞと見てくれているのは嬉しいですね。動画には『ネバーギブアップ』って書いてありました。明日も朝が早いですが、やるしかないです」
■ダカール・ラリー2026 リザルト(ステージ7終了時点)
Overall Ranking(総合順位)
1.D. SANDERS (KTM) 28:47:31
2.R. BRABEC (HONDA) +4:25
3.L. BENAVIDES (KTM) +4:40
4.T. SCHAREINA (HONDA) +15:06
5.S. HOWES (HONDA) +33:14
51. S. FUJIWARA (HONDA)

