トライアルIAスーパークラスライダー藤原慎也のダカール・ラリー挑戦。ステージ2で「10メートルの崖落ち」という九死に一生を得る体験をした翌日、ステージ3(ヤンブー〜アル・ウラ/SS 438km)でも彼は極限の状況に立たされていた。見えない岩盤による激しいクラッシュ、腹部への打撃、そしてトイレで直面した「赤い尿」の衝撃。さらにビバークでは謎の体調不良が蔓延し始めていた

藤原慎也ダカール速報 ステージ3 ぶっとんで血尿、過酷なダカールがいよいよ牙をむき始めた
open.spotify.com167km地点、砂の下に潜む「岩盤」の罠
早朝のリエゾンは凍えるような寒さだった。ステージ3は標高1000mほど、内陸のアル・ウラ周辺をループするコース設定で、総走行距離は733kmにも及ぶ長丁場だ。
前半は「ハイスピードなツーリング」のような感覚で順調にペースを刻んでいた藤原だが、167km地点付近で突如としてダカールが牙を剥いた。
「一見するとただの砂地なんですが、そのすぐ下に硬い岩盤が隠れていたんです。そこにリアタイヤを弾かれました。予期せぬ入力でサスペンションが限界を超え、そのまま横に吹き飛ばされてクラッシュしました」

激しく地面に叩きつけられた際、ハンドルバーかナビゲーションタワーの角で腹部を強打した。
「一瞬、息ができなくなってうずくまりました。しばらく動けなかった。後続のライダーにも声をかけられましたよ」
さらにこの転倒で、マシンのアクセルホルダーとフロントブレーキレバーが下向きに大きく曲がってしまった。工具を取り出し、応急処置を施すのに約10分。タイムロスも痛手だが、それ以上に深刻だったのは身体へのダメージだ。再スタート後も腹部の鈍痛は消えず、呼吸をするのも苦しい状態が続いた。このクラッシュで、藤原はステージ順位を40位から60位付近まで落としてしまうことになった。

なんとか痛みをこらえて走り続け、200km地点付近の給油ポイントに到達した。そこでトイレに立った藤原は、自身の身体の異変を目の当たりにする。
「オシッコが赤かったんです。血尿ですね。さっきお腹を打った影響だと思います。これはマズイなと思いました」
内臓へのダメージを示唆するサイン。しかし、ここで止まるわけにはいかない。痛み止めを飲むわけにもいかず、ただ水分を摂り、再びアクセルを開けることを選んだ。
その後、さらに距離を進めた先で再び用を足した際には、尿の色は「濃い黄色というか、黒っぽい色」に変化していたという。身体の内部で何かが起きていることは明白だったが、思考を停止させて走り続けるしかなかった。ダカールでは精神的・肉体的な負荷から血尿が出ることは決して珍しくなく、いわば洗礼を浴びたことになる。とはいうものの、外傷由来の可能性が高いこともあって、藤原のメンタルに不安がきつくのしかかる。

魔の「ウェイポイント49」
この日のステージは、ナビゲーションの難易度も極めて高かった。特に多くのライダーを苦しめたのが「ウェイポイント49(WP49)」周辺のワジ(枯れ沢)セクションだ。
「230km地点あたりでしょうか。砂の枯れ沢が何本も分岐していて、どれが正解か全くわからないんです。僕もグルグルと探し回ってしまいました。一度、ある方向に行きかけたんですが、『いや、これは違う』と直感して戻り、別のルートを選んだら、そこでようやくWP49の反応音が鳴りました」
藤原はこの判断により最小限のロスで切り抜けたが、周囲のライダーはパニックに陥っていた。
「ダカール常連のトニー・マレックですら、『あそこで20分ロスした』と言っていました。正しいルートを見つけるのが本当に難しかった」
後半の100km区間も、一見砂地に見えてその実、下は岩盤という路面が続き、何度も突き上げを食らいながらの苦しい走行となった。マシンのサスペンション設定はかなり硬めにしているはずだが、それでも底付きするほどの衝撃が何度も襲ってくる。
後半のセクションでは、後方からスタートした4輪部門のトップ勢がバイクに追いついてくる「混走」状態となった。これはバイクライダーにとって、最も危険なシチュエーションの一つだ。
「『ピーッ! ピーッ!』ってセンチネル(接近警報アラーム)が鳴り止まないんです。振り返ると、トヨタのハイラックスが猛スピードで迫ってくる」

四輪が迫る恐怖…
巨大な4輪車に煽られ、抜かれた瞬間に強烈な砂煙(ダスト)で視界を奪われる。前が見えない中、岩に乗り上げれば命取りになる。
「でも今日は、抜いていった4輪がその先の難所で詰まっている場面に何度も遭遇しました。それを僕がまた抜き返す、みたいな展開でしたよ。リアルタイムでマップを追ってくれていた人には、何が起きてるのかわからなかったんじゃないかな(笑)」
ビバークに蔓延する「謎の咳」
満身創痍でゴールし、ビバークに戻った藤原を待っていたのは、安息の地ではなかった。
「ビバーク全体で、謎の風邪というか、咳が流行っているんです。食堂に行くと、みんな『ゴホゴホ』言ってる。僕も喉が痛くて、ちょっと熱っぽい」
免疫力が低下した極限状態の身体に、ウイルスが容赦なく襲いかかる。藤原は感染リスクを避けるため、豪華なビュッフェ形式の食堂での食事を諦めた。
「日本から持ってきた日本食をテントで一人で食べましたよ」淡々と話す藤原にも、ある種の精神的ストレスが蓄積されていくのがわかる。

メディカルに2日連続でお世話になる藤原

これはステージ2の夕飯だそう
トップ争いでは、ホンダのトシャ・シャレィナがステージ優勝し、総合首位のダニエル・サンダース(KTM)を猛追。リッキー・ブラベック(ホンダ)も含めた上位3名が数分差でひしめくバトルが展開されている。昨年はサンダースが追随を許さなかったが、今年は例年通りホンダ VS KTMの様相になってきた。また、インドのHeroもロス・ブランチ、イグナシオ・コルネオがトップとの差20分圏内にいて、十分に巻き返しを狙える位置にいる。
一方、中団以降はサバイバルの様相を呈しており、藤原もステージ58位(暫定)と大きく順位を落としたものの、ウェイポイントを逃すなど大幅に順位を下げるライダーが続出する中でしぶとく生き残り、総合順位は41位(ラリー2クラス29位)をキープした。
次はいよいよ「マラソンステージ」。2日間、メカニックのサポートを受けられず、ライダー自身でマシン整備を行わなければならない正念場だ。
「今日は本当にタフでした。腹部の痛みもありますし、体調も万全とは言えません。明日はとにかく淡々と、リスクを避けて走ります」
血尿、腹痛、そして忍び寄る病魔。
華やかな冒険の裏側にある、生々しいサバイバル。藤原慎也のダカール・ラリーは、ここから本当の地獄を見るのかもしれない。
■ダカール・ラリー2026 リザルト(ステージ3終了時点)
Overall Ranking(総合順位)
1.D. SANDERS (KTM)
2.T. SCHAREINA (HONDA) +1:13
3.R. BRABEC (HONDA) +3:07
...
41. S. FUJIWARA (HONDA)

