トライアルIAスーパークラスのライダーにして、大阪の街中が舞台となったシティトライアル創設者、ビジネスとライダー人生を両立する「ぶっ刺し先生」こと藤原慎也が3カ年計画の末、ダカールラリーのスタートに立った。現地からの生々しい声をほぼ毎日お届け

出発直前の高熱、そして「快適すぎる」ビバーク

「いやー、来ちゃいましたね、ここまで」

画像1: 出発直前の高熱、そして「快適すぎる」ビバーク

プロローグ(予選)前日、サウジアラビア・ヤンブーのビバークから繋いだ電話の向こうで、藤原慎也は笑っていた。だが、ここに至る道は決して平坦ではなかった。日本出発の数日前、12月26日から突如高熱にうなされ、28日の夜まで寝込んでいたという。藤原は、ご存じトライアルIAスーパークラスのライダーながら、その傍らで大阪の街中でトライアル競技をおこなう「シティトライアル」のオーガナイザーにして創設者である。今回ついに、子供の頃からの夢であったダカールラリーに挑戦する。およそ3カ年をかけて、国内外のレースに参戦しながらダカールに挑戦するには不足していたスピードを補いながら、ここまでやってきた。本人に言わせれば「それでもラリースト達から比べたら、僕はビギナーですから」とのことだが、トライアル人生で培った地力はすでにダカールラリー“完走”という目標を遙か遠くに置き去りにしており、注目すべきはスピードを身につけた藤原がどこまで戦えるのかという点だ。

「28日までは『明日出発とか信じられへん』、と思ってたんですけど、29日の朝起きたらケロッと治ってて。そこから全開でパッキングしました(笑)」

画像2: 出発直前の高熱、そして「快適すぎる」ビバーク

病み上がりで飛び込んだサウジアラビア。藤原はこれまでの過酷な経験から、今回は23kgのスーツケース1個分まるまる食料を詰め込んで現地入りした。しかし、そこで待っていたのは予想外の光景だった。

「ホスピタリティが高さが凄くて、ご飯が美味しすぎるんです。冷えたペプシはあるし、ビュッフェ形式でビーフもチキンも食べ放題。持ってきた日本食、まだ一食も手をつけてません」

藤原が参戦してきたモロッコラリーなどの「ただただ過酷」なイメージとは裏腹に、サウジ開催のダカールはインフラが整備されている。藤原はチームが用意したテントで快適に過ごし(ファクトリーライダーや、資金に余裕があるライダーはキャンピングカーのサービスを買う。複数名でキャンピングカーをシェアするプランでだいたい80万円ほど)、日野チームスガワラの日本人スタッフたちとも交流。これまでのラリーとはレベルが違う環境で、リラックスしてスタートを迎えることができた。

画像3: 出発直前の高熱、そして「快適すぎる」ビバーク

マシンは念願かなってホンダ肝いりの普及型ラリーマシンCRF450RX RALLYを用意することが出来た。CRF450RXをベースとしているマシンだが、HRCファクトリーの経験を取り入れた車輌で世界限定50台しか作られない、そのプレミアムチケットを手に入れた。HRCも使用する野口装美のシートと、高めのハンドルポジションでセッティング。シェイクダウンしたところ「モロッコラリーの時よりも、CRFが身体に馴染んだ気がしますね」とのことでマシンの印象も上々だ。プロローグは42位で本人の自己評価もまずまずの結果だった。

画像: プロローグを走る藤原

プロローグを走る藤原

ステージ1、砂の下の爆弾

1月1日、41kmのリエゾンと22kmのプロローグを経て、翌日のステージ1(SS 305km)から本当のダカールが牙を剥いた。
この日のルートは、最近の雨の影響で地形が変わり、岩が露出した危険なセクションが続く。HRCのスカイラー・ハウズが岩にヒットしてハンドルを曲げ、エイドリアン・ヴァン・ベバレンがフロントブレーキを失うなど、ファクトリー勢ですら苦戦する荒れた展開となった。トップはHeroのロス・ブランチだったが、ペナルティで後退。プロローグから続けてKTMの若手エドガー・カネットが首位に立っている。

画像1: ステージ1、砂の下の爆弾

ゴール後に電話を繋ぐと、藤原の声には疲労と、ある種の恐怖が混じっていた。

「今日、走ってる途中で心臓マッサージを受けているライダーを見ました。両手で胸を押されて、人工呼吸されてて……。

砂の中に、拳サイズとかそれよりデカイ石が1万個くらい埋まってるんです。見えないんですよ。それを『石なんじゃないか?』と予測しながら、時速110kmとか140kmで突っ込んでいく。横1〜2センチをかすめて避けた瞬間に『うわ、やっぱりデカイ石やった、危なっ』ってなる。その連続です」

見えない石にリアタイヤが弾かれれば、重量満載のラリーマシンはリアサスが悲鳴をあげて限界に達してしまう。
「大丈夫だと思って進入しても、入力が強すぎてリアがパコーンと跳ねて、バイクが真横を向く。着地したら次は反対に飛ぶ。今日も何度か『終わった』と思うシーンがありました」

画像2: ステージ1、砂の下の爆弾

この日、藤原を苦しめたのはナビゲーションだった。

「ロードブック通りに行くと道がない。集団5〜6台で迷いました。合ってるはずの方向に行ってもタイヤ痕がなくて不安になる。でも信じて岩場を進んだら、タイヤ痕が出てきて『ピ』っとウェイポイントが反応した」

ここで約5分以上のロス。さらに、ロードブックに記載のない危険なギャップ(雨でできた川の跡)が突如現れ、多くのライダーが転倒やコースアウトを喫していたという。

「トップ連中は頭おかしいですよ(笑)。あのスピードで、あのナビゲーションをこなして、何もミスしないなんて」

画像3: ステージ1、砂の下の爆弾

それでも藤原は、ステージ1を総合40位、ラリー2クラス総合26位でフィニッシュ。
「今のペースから10%落とせば安全に走れます。でも、あと10%上げたら、途端にヤバイ世界に入って生きて帰れないかもしれない。そのギリギリのラインで走ってます」

次なる戦いへ

明日のステージ2は、ヤンブーからアル・ウラへの移動を含む500km超の行程。山岳地帯へ入るため気温はがくっと下がる。
「ガレ場(岩場)は得意なんで、そこで前のライダーを抜けるはずですよ」と語る藤原。トライアル出身のテクニックと、オフロードレースで培ったスピード感覚。そして何より、初参戦とは思えない冷静な分析力が、この危険な砂漠で彼を支えている。

日本のプライベーター・藤原慎也の長い2週間は、まだ始まったばかりだ。

画像: 次なる戦いへ

■ダカール・ラリー2026 リザルト(ステージ1終了時点)

Overall Ranking(総合順位)

1.E. CANET (KTM)
2.D. SANDERS (KTM) +1:02
3.R. BRABEC (HONDA) +1:32
40. S. FUJIWARA (HONDA)

This article is a sponsored article by
''.