オートバイによる北極点・南極点到達、パリ・ダカールラリー二輪部門への挑戦など数々の偉業を達成してきた風間深志氏が、モンゴルへツーリングの旅に出る。現地の自然や景色に感動した初日を終えて迎えた2日目は、朝からトラブルに見舞われる……
爆音イビキと星空、そして再びのパンク……。

9月8日、夜の冷気が漂う草原のキャンプ地での真夜中のトイレ。上空を見上げれば、満天の星がこれでもかと瞬いている。光の一つひとつが輪郭までくっきり見える夜空など、日本ではそうそう出会えるものではない。そんな素晴らしい夜に僕の眠りを妨げたのは隣人の発する、まるで轟音のような大イビキだった。つくづく“耳栓”を持ってくればよかったと後悔をしつつ、それから明け方までは何度も寝返りを打った。


コーヒーとパン、爽やかな朝の食事の後、バイクに跨ろうとした矢先にトラブルが発覚。昨晩、せっかく修理したと言うのに、フロントタイヤが再びパンクしていたのだった。出発前からのアクシデントに「何だか今日は長い一日になりそうだな……」と覚悟を決める。仲間の協力で何とか修理を終え、再び大草原へと走り出した。

この日の全行程は約260km。
走り出して間もなく現れたのは、まるでロックガーデンを思わせる岩稜地帯だった。モンゴルといえば草原のイメージが強いが、ここでは荒々しい岩肌がむき出しになり、ルートは一気にテクニカルになる。ゴツゴツした石にハンドルを取られながらも、慎重にアクセルを開けて進む。荒涼とした風景に「これもまたモンゴルなのか」と驚かされた。


さらに進むと、広々とした一面の穀倉地帯に出た。モンゴルでは初めて目にした光景だった。広大な畑ではコンバインが忙しなく動き回り、収穫の埃が大地を覆っている。走っているだけで全身が砂ぼこりに包まれ、ゴーグル越しの視界が霞むほどだったが、畑に働く人々の力強い姿に何だかとても感動を覚えて、この地での暮らし振りを肌で感じさせてくれる光景だった。

この日の午後、思わぬトラブルも発生! それまで快調に同行していた2人乗りのオフロード・バギーが遂にオイルを吹き出して故障、ストップ。その後の修理の甲斐もなくサポートトラックに積み込んで運ぶことに……。
大自然の中、一台のマシントラブルがチーム全体の行程と行動に大きく反映して、改めて“荒野を走ること自体が、大きな挑戦”であることを痛感した。

陽が傾き、空が茜色に染まる頃、目的地、かつてのモンゴル帝国の首都「カラコルム」に到着した。時刻はすでに夜の19時半。トラブルを抱え、長距離を走り抜けた体には疲労感が漂い、埃だらけの仲間たちは“疲れ”と一日を走り終えた“充実感”?が入り混った複雑な表情をしていた。宿泊はツーリスト用の「ゲル」。敷地内にトイレやシャワーも整備され、レストランも併設されている。キャンプの夜とは違い、ひと息つける環境に少なからず安堵した。
振り返れば、パンク修理から始まり、岩山越え、埃にまみれた畑道、バギーの故障、そして夕暮れのカラコルム到着まで、まさに試練と発見の連続だったが、それこそがこのツーリングの醍醐味である。順調なだけでは味わえない達成感が、今も胸の奥に残っている。
モンゴル大草原を駆け抜ける冒険は、まだ折り返しにも達していない。次回は巨大イトウを釣る「釣り」と歴史の探訪記、そして少しの休息が待っている。
