昨年トライアンフが初めてモトクロス450クラスに送り込んだ「TF 450-RC(リッキー・カーマイケルシグネチャーモデル)」は、特別仕様の“レーシングコンプリート”として位置づけられたモデルでした。量産車というよりも、デビューイヤーを彩る先行投入機の性格が強く、いわば「2025年型」としての役割を果たした存在です。実際、RCはモトクロス世界選手権やAMAスーパークロスといった最前線での開発とレース投入を前提に企画され、性能を優先した仕様にまとめられていました。トライアンフにとってRCは、450クラスへの参入に必要な最初の実験であり、シーズンを通して改良を重ねるための“プロトタイプ的量産機”だったといっても過言ではありません。
そのRCをベースに、2026年モデルとして正式に量産化されたのが今回欧州で発表された「TF 450-X」です。RCで培われた技術と実績を土台にしながら、細部の熟成を図り、より幅広いライダーが扱えるように設計されたことが大きな特徴です。エンジンはRC同様に62.4PSを発揮する450cc単気筒で、軽量な108.3kgの車体と組み合わされることでクラス最高レベルのパワーウエイトレシオを実現しています。そのうえで、2026年仕様ではエンジンマウントのチューニングやギアセレクター機構の刷新が行われており、シャシー全体のバランスやシフトフィールの改善といった“熟成の領域”にまで手が入れられています。

TRIUMPH
TF 450-X
装備面もRCの思想をしっかりと継承しています。ブレンボ製ブレーキ、KYB製サスペンション、D.I.Dホイールといった競技仕様のコンポーネントはそのまま標準採用され、電子制御もローンチコントロール、トラクションコントロール、クイックシフター、デュアルマップと、トップレベルの競技にも十分対応できるパッケージを備えています。RCがプロフェッショナルなレーシングユースに特化していたのに対し、Xではこれらの機能を量産車として安定的に供給可能な形に落とし込んだと言えるでしょう。
TF 450-X 主要諸元(2026年モデル)
項目 | 内容 |
エンジン形式 | 水冷4ストローク単気筒SOHC |
総排気量 | 449.5cc |
ボア×ストローク | 95mm × 63.4mm |
圧縮比 | 13.1:1 |
最高出力 | 62.4PS / 9,500rpm |
最大トルク | 49.9Nm / 7,000rpm |
燃料供給 | デロルト製スロットルボディ+アテナEMS |
クラッチ | エクセディ製ハブ+ベルビルクラッチスプリング、油圧式 |
トランスミッション | 5速、クイックシフター搭載 |
フレーム | アルミ製スパイン+ダブルクレードル |
スイングアーム | アルミ製 |
フロントサスペンション | KYB 48mm AOSコイルスプリングフォーク、310mmトラベル |
リアサスペンション | KYB ピギーバックショック、305mmトラベル |
ブレーキ(前) | ブレンボ製キャリパー+260mmディスク |
ブレーキ(後) | ブレンボ製キャリパー+220mmディスク |
ホイールサイズ | F: 21×1.6、R: 19×2.15 |
タイヤサイズ | F: 80/100-21、R: 110/90-19 |
シート高 | 960mm |
ホイールベース | 1,492mm |
キャスター角 | 27.4° |
トレール | 116mm |
車両重量(湿潤) | 108.3kg |
燃料タンク容量 | 7L |