関東の草モトクロス「ヒーローズ アダルト」は、おじさんパラダイス。事前練習まで行きエンジョイしまくったおはなし
ヒーローズ軽井沢に出るよ
昨年の今頃、ヤマハYZシリーズの25年モデルをインプレし、その後ありがたいことに新型YZ250FXを長期インプレさせていただいている。すでに26年モデルも発売済みだが、継続して25年モデルをお借りすることができた。というわけで、まだまだ続く新型YZ250FX珍道中である。
かつて、かの鈴木健二さん(注:ヤマハYZ、Xシリーズの開発にも深く関わるトップライダー。誰が呼んだかミスターYZ)が「YZ250FXはよく走るから、全日本モトクロスのIBくらいまでならYZ250FXでも出れちゃいますよ」と言っていたのをよく覚えている。実際、僕は21年式のYZ250FXを買ったときもよくモトクロスを楽しんでいたし、今もYZ250FXでモトクロスコースを走る。いや、むしろ僕くらいのノービススキルだと、YZ250FXがベストチョイスだとも思う。サスペンションがつぶれ気味でスピードが乗りづらい感触はあるものの(編注:生意気言ってますね)、それを軽く補って「開けられる」安心感がある。何度もタイムを計っているから知っている、僕にとっての最速マシンはYZ250FXで間違いない。
ある日、TM Moto Japanの皆さんの練習に混ぜてもらっていたら、「今度、ヒーローズ軽井沢出るんですけど、一緒に行きませんか」とお誘いいただいた。実はこのTMチームは大学時代のサークルの後輩にあたる梅田くんが率いていて、去年からオフロードバイクに乗り始めたばかりの米窪さんというチームメンバーがいる。梅田くんはとっくのとうに遙か先のレベルへ行ってしまったが、米窪さんとなら楽しくノービスクラスで遊べそうだ。しかし、その米窪さんにも置いていかれかねないので、念には念を入れてヒーローズ開催一週前に軽井沢モーターパークへコソ練にでかけた。

たぶん10年以上ぶりに走る軽井沢モーターパークは、まったく記憶に残っておらず、コースに慣れるまでが大変だった。どのジャンプも怖くはないんだけど飛び切れない。ジャンプの飛び出し前に速度が足りてないのと、つい足でサスペンションをいなしてしまう病。誰かいい治療法を知りませんか。20年探しています(編注:いいから開けろや)。
ともあれ、手元のGaminで計ると当初2分8秒だったタイムは、練習終わり頃には2分5秒台まで短縮。ぼちぼちでんな。コソ練せずに当日ぶっつけ本番でレースしてたら、とてもじゃないが攻めて走ることはできなかったと思うので大正解である。それに、事前練習するとかまるで全日本MXのライダーみたいで優越感がある。アスリートごっこは気の持ちようからだ。
タケルレプリカ
ところで、このヒーローズ参戦にあたってコソ練だけでなく用意したモノがある。バイクの新グラフィックだ。以前、YZ250FX用にPolisportsのホワイト外装を手に入れていたので、満を持してそれ用のグラフィックを作ったのだ。

タケルレプリカ。かっきー
この新グラフィックは、全日本エンデューロ選手権のジュニアクラスに参戦する中学生、藤岡丈瑠(たける)くんのレプリカ。このデザインはタケルくんがYZ125に乗り換える際、自由帳に色鉛筆でグラフィックを描いて、それが形になったという逸話がある。素敵すぎやしませんか…。こういうバイクに乗りたいな、と絵を描いたらある日そのままのバイクが自分の家のガレージにあるんですよ?
なお、タケルくんは凄まじく速いのだけど、年齢が若すぎるせいでジュニアクラスを走っている。タイムはすでにIBレベルである。まだ幼稚園くらいの頃からエンデューロ会場へお父さんと一緒に遊びにきているのを見ていたので感慨深い。なお、そういうキッズライダーはたくさんいて、うちの長男(13歳)と1つ違いの橋本大喜くんはJNCCのFUN GPで大変な活躍をしている。あっという間におとなを飛び越えていくな君たちは。

これがほんものの「タケル」です
まあ、いいや。とにかく、タケルレプリカのグラフィックを、タケルグラフィックを手がけたモトクルセイダースさんで作ってもらった。ホントはJEC東日本の参戦用に作ったんだけど、ヒーローズは希望ゼッケンを取れるので、JEC用ゼッケンと共通化できたのだ。そういうところもいいよね、ヒーローズ。
勝負にならんとはこのことです
そんなことんなで迎えたヒーローズアダルト軽井沢の当日。自宅のある練馬から軽井沢モーターパークまではだいたい3時間かかるので、朝が早い。朝4:00に応援隊である家族を叩き起こしてひたすら関越道を爆走する。当然、家族は全員行きの車中で爆睡しているので孤独だ。
会場に着いてみると、前日に雨が降っていたこともあって路面はウェット。走り出しても身体がこわばってなかなか攻めることができず、2分25秒くらいで練習走行を終える。2分25秒? いくらなんでも遅すぎやしないか。不安が募る。軽井沢の路面はよく滑るというか、突然タイヤに裏切られるので思い切れないのだ。聞いてみると米窪さんも事前練習しにきていたそうで、その日は雨だったらしい。なんだよ、そっちの方がいいじゃん……。

米窪氏
ヒーローズアダルトの予選は、決勝のグリッド決めのためではなく、速すぎる人を上のクラスに上げるために存在する。スタッフがコース上のライダーを観察していて、クラスに対して速すぎるな、と判断されると予選後強制的にクラスを変更されてしまうのだ。前述の梅田くんは1年前に同じクラスにエントリーしたはずが、このシステムにより1つ上のクラスへ上げられてしまって対決にすらならなかった。米窪さんとはなんとしても同じクラスで走りたい。スタートで彼の隣に陣取ったところ、そもそもスタートゲートを使ったことがないというので、2速でスタートするんだよ、とか偉そうに教える僕。アレ……? なんかこの流れ、前にもあったような気がするな、と思っているうちに5秒前ボードが出た。パタンとゲートが倒れて、いつもどおり出遅れる僕と、TM Motoのパワーを活かして後伸びする米窪さん。またか。君も僕を踏み台にするのか! 予選ヒート、僕は最後尾から追い上げて中盤くらいでゴール。スタートでするすると前に出た米窪さんはトップ通過で、またしてもひとつ上のクラスへと上げられてしまった。なんなん! TMは上手くなるバイクなんですか! そうですか!(←泣いてる)

気合いの感じられない1コーナー後。PHOTO/Hero's
というわけで、米窪さんとの勝負はそもそも同じ舞台に立つことすらかなわず、いつも通りノービスクラスを走ることに。しかし、この予選の仕組みのおかげで(たまに予選で三味線引く人もいるらしいが)ヒーローズのノービスクラスは僕にとって本当にちょうどよい塩梅となっており、ペースが同じくらいのライダーしかいない。僕のような万年ノービスでも、抜きつ抜かれつのデッドヒートを楽しめるのだ。レベルは低いが気分はアスリート。ここが大事だ。
さて、問題はスタートだ。なんとなくわかっていたことだが、僕はスタートの雰囲気に飲まれて気圧される度合いが異常に高い。簡単に言うと、スタートが怖い。いつも、永遠にスタートしなければいいのにと思っているくらいである。いろんな人が、僕にスタートの方法論を教えてくれる。それこそメディア特権で、IAライダー様にもなんども教えてもらったことがある。そして、一人でスタート練習するとそこそこ出られる自信がある。方法論だけは知っているから、ゲートを出てからの加速はそこそこ鋭いはずだ。なのに、横一線に並ぶともうダメ、一瞬で気圧される。しかし、この日のヒーローズはグリッドに半分以下しかバイクが並んでなくて、スカスカの状態だったので僕にもチャンスがある! と思っていたんだけど、それでもやっぱり気圧されました……。ヒート1は特にひどくて、タイミングは完璧でゲートを超えてすぐの時点では前に出てたのに1コーナーを曲がるまでにずるずる下がり、コーナーを抜けた頃には最後尾まで落ちていた。もはや奇跡である。YZ250FXにはクロスカントリーバイクなのにローンチコントロールがついていて、がっつり効かせて出ているにもかかわらず、気持ちで負けまくる。その後はいちおう追い上げて4位にはなりましたが、前にいるライバルたちはいつものメンツで、「またこの背中か!」と思いながら走ったのでした(つまり負けた)。
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youtu.be息子にこの奇跡のスタートを映像で撮ってもらっていたので、お昼ご飯を食べながら分析してみた。なにが怖くてアクセルを閉じるのか、必死に映像を見て考えた。なんとなくわかったことは、ゲートが落ちてからタイミングよく出てるにも関わらず、視界の端に少しでも他のバイクの鼻先が出てくると途端に怖さを感じているということだった。視界が広すぎるのだろうか、競走馬が付けているブリンカー(視野を狭めるための板)の必要性を感じた。

PHOTO/Hero's
ヒート2は、それを意識してゲートを越えた直後の加速をしっかりしてみたところ、案の定鼻先が見えるバイクは数台で、1コーナーを5番手で通過。この位置から追い上げれば、表彰台が見えちゃうじゃん! と思いきや、上位陣はやっぱり速くてそのまま5位でフィニッシュ。でも、気づけば2分1秒までベストタイムを更新出来ていたし、ここまで集中してバイクに取り組んで考えまくって努力することの楽しさといったら本当にない。
なお、ヒーローズアダルトのノービスクラスは、44歳の僕でも下から数えて2番目に若い。ほとんどのエントラントが50代で、60代の方もいらっしゃる。まだ20年もこのアスリートごっこが楽しめるのだと思うと、やっぱモトクロスは最高だなと結論づけざるを得ないのであった。
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youtu.be二人でスタート練習すると出れるから、やっぱ精神的なものですね……。