2025年8月27日、ダイハツは歩行領域モビリティ(シニアカー)である「e-SNEAKER」のメディア向け試乗会を実施した。今回の記事では、屋内試乗で感じたことをレビューしたい。
レポート:黒石研仁(スマートモビリティJP編集部)
※この記事はウェブサイト「スマートモビリティJP」で2025年9月3日に公開されたものを一部編集し転載しています。

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クルマの代替ではなく、歩きの拡張がコンセプトの「電動カート」

ダイハツは軽自動車やコンパクトカーなどをはじめとした小さなモビリティの可能性を追求しつづけ、また交通空白地域での乗合送迎サービスや福祉介護領域での送迎支援など、さまざまな取り組みも行っている。

こうした事業に加えて、2025年8月25日に発売した電動カート「e-SNEAKER(イースニーカー)」は軽自動車よりもさらに小さな、移動半径1.5km圏内をターゲットにした最小のパーソナルモビリティとして設定されている。

つまり、近所への買い物や家族・友人とのお出かけなど、歩行領域のちょっと先への移動を想定した「歩き移動を拡張する電動カート」なのである。

画像: 「e-SNEAKER」

「e-SNEAKER」

ボディは下に向かって幅を広げていく「末広がり」な形状として低重心さや安定感を演出しつつも、一般的なシニアカーとは一線を画したスタイリッシュな見た目が印象的だ。

とくに、シートの着座面や足置きステップ部分が前傾しているため、車イスや原付スクーターというよりも自転車やスポーツバイクに近い姿勢で乗車することになる。自転車と同程度の比較的高めな目線の高さやバーハンドルと合わせ、“自転車感覚で乗れる” という点が、最大の特徴である。

画像: 自転車とほぼ同じ目線の高さで視界は良好。前傾姿勢により “乗っている”感があり、運転好きには刺さるポイントと言えるかもしれない。

自転車とほぼ同じ目線の高さで視界は良好。前傾姿勢により “乗っている”感があり、運転好きには刺さるポイントと言えるかもしれない。

ダイハツによると、現在開催されている大阪・関西万博の会場内で150台のe-SNEAKERを用意して無料でレンタルサービスを行っているが、そこでは当初想定されていた高齢者層のみならず、ファミリー世代や若者など、比較的若い世代も積極的に利用されているという。

個人所有ではなくレンタル(しかも無料)だからという要素も大きいとはいえ、デザイン面や機能面では全世代が使えるユニバーサルモビリティとして受け入れられていると言えるのではないだろうか。

ちなみにシート高は555mm・630mm・700mmの3段階に設定できるものの、自転車のサドルのようにユーザー自身が簡単に変更できる設計ではなく、車体のパネルを外した上でボルト締めが必要になるので、ダイハツ車販売店で作業をお願いする形となる。

アピールポイントは「四輪の安定感 × バイクの操作感がもたらす利便性」

実際にシートに腰掛けてみると、前傾での乗車姿勢とバーハンドルの組み合わせにより、傾かない(バンクさせない)バイクに乗っているような気分になる。クッション性に優れたシートは座り心地よく、左右に滑り落ちてしまわないようにサイドサポートが設置されているのも嬉しいポイントである。

発進手順は、
①ハンドルの下、バッテリー部分にあるボタンから電源を入れて、キーを差し込み右に回す
②ハンドル左側のブレーキレバーを握る
③ブレーキレバーを離し、アクセルグリップをひねって前進する
という3ステップで完結する。

画像: ハンドルポストのバッテリー部分にあるボタンを押すと、車両の電源がオンになる。

ハンドルポストのバッテリー部分にあるボタンを押すと、車両の電源がオンになる。

電源をつけた後の操作方法は基本的に電動バイクと同じ。ただ、アクセル(スロットル)が自動車で言うところの「ワンペダル」式の操作なので、走行中アクセルオフにすると回生ブレーキがかかって停車する仕様となっている。

そのため、ハンドル左側のみに採用されているブレーキレバーは、緊急時や停車時以外で使う機会は少なそうだ。また、メーターディスプレイ下の「+/−」ボタンを操作すると、フルスロットル時の最高速を1〜6km/hの範囲で変更できるようになっている。

画像: ハンドルバー周辺のレイアウトはシンプルなので、誰でも簡単に操作できるだろう。右側にある後退ボタンを押すと1km/hでバック走行できる。

ハンドルバー周辺のレイアウトはシンプルなので、誰でも簡単に操作できるだろう。右側にある後退ボタンを押すと1km/hでバック走行できる。

最高速の6km/hといえば、歩行者でいうところの「早歩き」レベルで、屋内で走行するには少し速い速度感。それでも、スロットル操作に対してリニアにモーターが反応してくれるので、意外と軽快に楽しく運転できる。

その一方で、レスポンスが良すぎるあまり、スムーズな発進・停止は難しい。速度自体が遅いため、急発進してもクルマのような大事故になることはないものの、人どおりの多い繁華街やショッピングセンターのような屋内施設を走行する場合は、最高速設定を変更するなど安全への配慮は求められるだろう。

ちなみに、ダイハツ e-SNEAKERも含めたシニアカーは、道路交通法上「歩行者」として扱われるモビリティであるため、クルマやバイクのようにウインカーやテールランプは搭載していない。

自転車と同様に他者に方向転換の意思を表示する装備がないので、交通量の多い歩道や路側帯を走行するときは、手信号で意思表示したり交通環境に注意するなど周囲の歩行者と共存するための努力が必要だ。

画像: 点灯・消灯を切り替えられるヘッドライトは搭載するが、テールランプではなくリフレクターを搭載している。

点灯・消灯を切り替えられるヘッドライトは搭載するが、テールランプではなくリフレクターを搭載している。

駆動用モーターは定格出力250Wのモーターをリアの左右輪にそれぞれ搭載して直接駆動する。試乗会場は平らな会議室であったため、登坂性能の検証はできなかったが、カタログスペック上はショッピングモールにあるような立体駐車場スロープと同等の10度まで登坂できるという。

なお、シニアカーはパンク防止目的でエアレスタイヤ装着モデルも多いが、e-SNEAKERでは乗り心地重視でエアタイヤを採用している。しかも前後サスペンションやふかふかのシートも備えているので、段差の乗り越えでも、衝撃を吸収しながらスムーズに安定して走行可能だ。

正面から進入すれば、最大7.5cmの段差、最大10cmの溝は乗り越えられるというので、歩道と車道の境にある段差や道路のちょっとした溝であれば、問題なく通過できる。

画像: エアタイヤとサスペンション機構の組み合わせにより、段差の乗り越えもスムーズに行える。

エアタイヤとサスペンション機構の組み合わせにより、段差の乗り越えもスムーズに行える。

また、駐車やルートミスしたときの方向転換用に後退(バック)機能も標準装備されており、アクセルグリップ横のスイッチを押すことで、最高1km/hでバック走行できるようになっている。視界を遮るものが何もない車両であるメリットを活かして、周囲をよく確認しながら使って欲しい。

ハンドルステムの下に配置された駆動用バッテリーは車体に装着したままの充電できないものの、脱着できるうえ重量2.5kgと軽量なので自宅内への持ち運びはしやすい。付属の専用充電器で家庭用コンセント(AC100V)に接続して約2.5時間で満充電になり、航続距離は12kmとなっている。最高速6km/hであることも踏まえ、あくまでも「歩行領域を拡張する移動手段」として利用するのが最適だろう。

画像: バッテリーは小型、かつ2.5kgと軽量なので、充電時の持ち運びストレスは少ないだろう。

バッテリーは小型、かつ2.5kgと軽量なので、充電時の持ち運びストレスは少ないだろう。

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