文・写真:中村浩史
※この記事はHonda GB350 BIBLE(Motor Magazine Mook)に掲載したものを一部編集し転載しています。
取材協力:destec(デステック)
〒341-0055埼玉県三郷市上口1-16-3
不調を見抜くのはもちろん、愛車を愛する心が持てる
空冷2バルブ単気筒エンジンに鉄パイプフレーム、正立フロントフォーク、リアのツインショック——。大人気モデルGB350/350 Sは、バイクの構造としてかなりベーシックな、スタンダードなものだ。
基本的メカニズムで構成されるバイクは、丈夫で長持ち。けれど、それはきちんと定期的なメンテナンスをしている、というのが大前提だ。
その意味で、水冷マルチエンジンやツインチューブフレーム、倒立フォークやリンク付きモノショックを持たないGBは、かなりメンテもしやすい。バイクのメカニズムを理解することについても好材料だ。
もちろん、ブレーキやエンジンパフォーマンスの不調などはプロに任せるエリアのメンテナンスと考え、ここではハンドツールを触ったことがあるオーナーならば、自分でできるメンテを軸に紹介していく。
そもそも定期的なメンテは、手を入れなければ、いつか必ず寿命が来るバイクという工業製品を、一日でも長持ちさせるバイク乗りの基本的な知識。もちろん、走行距離と比例して調子が悪くなる宿命の「機械」は、不調になるのを先回りして手を入れて行けば、ずっと調子がいいまま乗り続けることができるのだ。
ホンダが推奨するメンテは大きく分けて、日常点検と定期点検の2パターン。このうち、日常点検の方がオーナー自身に意識しておいてほしいメニュー。一方の定期点検に関しては、ホンダドリームなど、プロやショップに任せるのがいい。
自分で意識したいメンテは①エンジン ②ドライブチェーン ③タイヤ ④バッテリー&ヒューズ ⑤エアクリーナー ⑥レバー&ペダル操作類の調整、といったところ。ここを日頃から意識しておけば、愛車のコンディション変化を感じて、早期に不調を発見することができる。
そしてメンテで大事なことはもうひとつ。それは、コンディションを維持するのはもちろん、自分のバイクをもっと好きになる、もっと大事にする、という効果があることだ。
エンジンオイルの交換
なによりGBの走りを左右するエンジンオイル
ホンダが推奨するエンジンオイル交換時期は「初回1000km、または1カ月/以後3000kmごと、または1年ごと」。エンジンオイルの役割は潤滑/冷却がメインで、空冷エンジンのGBにとって中でも冷却は重要な要素だ。ドレンボルトとフィルターの位置は下の写真(白い円)で示す通り。
オイル交換時にはOリングやガスケット、シール類をすべて新品に。下の写真は封入時のOリングを軽くグリスアップしているところ。組付け時の傷つきを防止し、密閉性を高める、いわばプロメカニックの習慣を見習いたい。交換したフィルターは620円、スプリングは175円、Oリングは295円。惜しむ出費ではない。
推奨オイルはホンダ純正ウルトラG1で、交換オイル量はフィルター交換時とも2.0L。
ドライブチェーンの清掃・調整
ドライブチェーン調整でパワーロスを防ごう
ドライブチェーンは金属とゴム=ラバー(Oリング)の集合体。エンジン出力を確実に路面に伝えるために「潤滑」は絶対条件だ。
作業は清掃と潤滑がセットで、必ずチェーン専用クリーナーと専用ルブ(潤滑剤)を使いたい。ルブ吹き付けはスプレータイプが多いため、周囲、特にタイヤに飛び散らないようにウエスでガードする(上写真参照)。ルブを吹き付ける場所は、チェーンの可動部と、スプロケットとの当たり面。チェーンに付着した余分なルブは作業後に拭き取ろう。プレート面もきれいになる。
チェーン調整は、GBでは標準装備のセンタースタンドを立てて行う。
中間でのチェーンのたるみは、ホンダ指定値で25〜35mmだが、下写真のようにスイングアームとの距離で測ると分かりやすい。本来はライダーが乗った状態=リアサスが縮んだ状態でたるみを計測するのが正解。
引きしろの左右合わせはチェーン引き目盛りで合わせるよりノギスや金尺を当てて合わせると、より正確にリアタイヤが正立する。エンジンはかけないこと。
タイヤの点検
エア圧のほか、表面の荒れや汚れもチェック
タイヤのエア=空気圧は、毎回走るたびにチェックしてもいい重要項目。それだけ、自然に空気は抜けていく。エア圧はひとり乗車で「前2後2.5」kg-f/cm3と覚え込もう。
タイヤ表面は、暗所でライトを当ててのチェックも見やすい。亀裂や損傷、パターン溝の小石にも注意だ。
バッテリー・ヒューズボックスの点検
ランプが点かない、セルが回らない……。電気系統の不調時はバッテリー、ヒューズをチェック。
左サイドカバーを外せばバッテリーがある。ヒューズの点検の際はシートを外す。
ヒューズはチェック不要なほど信頼性向上!
ヒューズボックスはシート下に3つ、系統ごとにケース収納されていて、ケース表面に経路とヒューズ容量が記されている。
文字を読めるようにキープしてメモしておくといい。バッテリーは左サイドカバー内。そのバッテリー側サイドカバー下部には、サイドカバー取り外し用の6角レンチがある。ヒューズ抜き取りは専用工具で、こちらは車載工具袋に入っている。
エアクリーナーの点検・交換
汚れたら交換! ビスカス式エアクリーナー
GBのエアクリーナーは、ろ紙に専用オイルを染み込ませたビスカス式。
エアクリーナーは右サイドカバー内にあって、エアボックスを取り外したら、はめ込みのOリングも忘れずに装着しないと、密閉できなくなるから注意が要る
エアクリーナーボックス内はこんな形状。
下の写真のように、ボックスのカバー溝にはOリングがはめ込まれている。またはエアボックスを開けた時にはこのOリングも交換したい。ボックス内もパーツクリーナーで清掃して綺麗に保つ。エアクリーナーが交換時期に満たず汚れが目立ったら、とりあえずエアブローするのもひとつの手だ。
点検&清掃は不要で基本は交換のみ。ホンダ推奨のサイクルは4万kmごとの新品交換だ。
クラッチレバーの点検・調整
メンテ次第で操作感が変わるクラッチレバー
クラッチのつながり位置も調整できる、クラッチレバーはバイクの使い勝手に意外と大きな影響を与える。まずは自分の手の大きさや好みに合わせてつながり位置を調整しよう。
固着したアジャストナットは傷つけないようにウエスで保護しながら、バイスプライヤなどで緩める(下写真参照)。
ダストブーツ内のレバー、ホルダー両側の摺動部をグリスアップしておくと、操作性がよくなり、バイクのコントロール性も向上する。ここが雨サビで真っ赤っかというのは論外。地味だが大事なポイントなのだ。ワイヤのほつれや切れにも注意したい。
ハンドルポジションの調整
個人の体格に合わせることができるハンドル
いろんな体格のライダーがいる中、バイクのライディングポジションはほぼ固定されている。シート&ステップ位置を換えたければ、アフターマーケットパーツを買い足す必要があるけれど、実はハンドルポジションは調整できる車種が少なくない。GBも調整可能な車種のひとつで、バーハンドルホルダーを緩め、ハンドルを回転することでグリップ位置を下写真のように調整できる。
低くする時はタンクに当たらないか注意しよう。ハンドル位置を変えた後のレバー角度調整や締め直しも忘れずに。
標準位置
最上位置
最下位置
ペダルポジションの調整
確実な操作で速く安全に走るために!
シフト&ブレーキペダルも位置調整できる。下の写真例はGB350の踏み返しつきのシーソーペダル(350Sは通常シフトペダル)だが、ペダルセンターの取付ボルトを緩め、刻み=セレーションを数コマずらせば自分(あるいはシューズ)に合った最適位置が探せる。あらかじめノーマル位置をマークしておけば、変化もわかる。
GBのブレーキペダルはステップホルダーの奥に調整ボルトがあって、少しやりにくかった。
構造はロックナット上下を緩めてマスターシリンダーのプッシュロッド長を変化さることで、ブレーキペダル位置を上下できるのだ。シフトペダルと同じく、ノーマル位置マークも忘れずに付けておこう。
ハンドル、ブレーキ&クラッチレバー角度と左右のペダル位置で結構変わる!
バイクはシートとステップバー位置の変更をしにくいため、体格に合わせられないと思いがちだが、ハンドル、ブレーキ&クラッチレバー角度と左右のペダル位置を合わせると、かなり大きな違いを感じとれるものだ。気になるようなら、ぜひチャレンジしてみてほしい。
車載工具
車載工具は必要最低限のもの。買い足すといい
GBのシートはシートエンドにあるボルトを6角レンチで取り外す構造。その6角レンチは左サイドカバー内のバッテリー下にはめ込まれていて、これを使いシートを取り外せば、シート裏に車載工具がバンド留めされている。
車載工具は必要最小限の装備で、入っているのはリアサスのプリロード調整用フックレンチと14/17mmレンチ、ヒューズ用クリッパーのみ。ユーザーからすれば、もう少し充実してもらいたいというのが本音だろう。
メンテナンスの基本は洗車
日々劣化していくバイク、最初の気づきはぜひ洗車で
「本音を言えば、メンテナンスはプロに任せてもらった方がいいと考えています」というのは、今回のメンテナンス作業をお願いした、埼玉県三郷市、デステックの笹賀さん。
というのも、「バイクのメンテくらい自分で出来なきゃライダーじゃない」なんて言われていた1980年代から40年も経って、バイクはもはや電子部品の塊になってしまっていると言っていいからだ。
「自分でメンテして正常なところも悪化させてしまい、そこからショップに相談……というケースもあるんですよ」(笹賀さん・以下同)
けれど、自分でメンテをする行為自体を否定しているわけではない。メンテで自分のバイクに手を入れ、より理解を深めてバイクのことを好きになる、今より大事にする、ということも、メンテの重要な効果だからだ。あくまでも自分でできる範囲を決めて、それ以上をプロに任せればいい——ショップスタッフの偽らざる本音だろう。
そのため、今回のメンテメニューは、あくまでもオーナーができるものに絞っている。これ以上の重要保安部品などは、プロに任せたい。
「まずは洗車をお勧めしたい。洗車はバイクをきれいにするだけではなくて、異常を発見できたり、パーツ脱落や緩みを見つけることができる。こちらの効果だって大きい」
ただ乗っているだけではわからない、バイクの劣化を目で確認できるのだ。洗車の最中にタイヤのエア不足、ボルトの緩み、脱落しそうなパーツを発見、という例は多い。
「その洗車も、旧車の世代でよく見かけたような中性洗剤で泡立ててホースで水じゃぶじゃぶ——というやり方はお勧めしません。今はカー用品ショップで洗車用のケミカルが手に入りますから、水洗いよりもそちらを勧めたい。水洗いは、よほどひどい泥汚れなどの時だけで」
GBは、現行モデルの中ではメンテ性がいいとのこと。ここは、さすが空冷エンジン+パイプフレーム、ツインショックのネイキッド。自分でメンテを始めてみたい、という気持ちにもちょうどいいモデルだ。
冒頭にも書いたが、ホンダ推奨のメンテは日常点検/12&24カ月点検の大きく分けて2パターン。
「今回は、そのうち日常点検の作業をお見せしました。洗車から始まるファーストメンテをして、そのために必要な道具や工具を揃えていくと、絶対にそれまで以上にGBのことが好きになるはずです。逆に僕たちショップから言えば、自分で大切にメンテをしているバイクは、ほぼ調子がイイんです!」
文・写真:中村浩史