80年代はじめ、突然巻き起こった「ターボ」ブーム。
先鞭をつけたホンダCX500ターボに続いたのはヤマハ。
CX500ターボが燃料噴射を採用していたのに対し
キャブレターにターボを組み合わせたXJ650ターボだった。

バイクでは世界初のキャブ・ターボ

速さやスピードを想起させるコトやモノがタブーとされた1980年代初頭。ホンダCX500ターボと同じく、ヤマハXJ650Tもまた「より快適でより安全に高速走行をコントロールし、省エネルギーという時代の要請にも十分に応える」ニュータイプのスポーツバイクとしての登場だった。

当時の発表資料には「ターボチャージャーによってフルスロットル時には1000cc級のパワーを発揮するが、エンジン回転数と燃料消費は650ccのまま。ミドルクラスの燃料消費とスーパーバイクの最高出力を両立しています」と書かれていた。

画像: 81年10月に初公開されたXJ650T ターボユニットはクランクケース下に配置され、目立たない存在だった

81年10月に初公開されたXJ650T ターボユニットはクランクケース下に配置され、目立たない存在だった

ベースとなったエンジンは、ヨーロッパで人気モデルだったミドルクラスモデルのXJ650。1981年の東京モーターショーには、XJ1100ターボとXJ650ターボがショーモデルとして出展されたが、翌年に実際に市販にこぎつけたのはXJ650Tのみだった。

画像: 1981年の東京モーターショーに登場したXJ1100ターボ

1981年の東京モーターショーに登場したXJ1100ターボ

XJ650Tは、CX500ターボや、後に発売されるスズキXN85、カワサキ750ターボと違って、燃料供給にキャブレターを採用している。ちなみに、同時に東京モーターショーに出展されたXJ1100ターボは燃料噴射を採用。XJ650Tは二輪車初のキャブターボ車として登場したのである。

画像: 同じく82年に発売されたXJ750Dと同じデザインのホイールやドラムリアブレーキを採用

同じく82年に発売されたXJ750Dと同じデザインのホイールやドラムリアブレーキを採用

ターボユニットは、世界最小のターボユニットと言われた三菱重工製「TC03-06A」で、XJ650に搭載するにあたって必要な機能とセッティングは、ヤマハと三菱重工の共同開発と言われていた。
当時ターボ車にキャブレターは不利という声もあったが、ヤマハはノックセンサー付き電子進角式フルトランジスタを採用し、アクセル開度や燃焼状況に関わらず、最適な燃焼を実現。アクセルを開けてからターボの過給が始まるまでのタイミングのズレ、いわゆる「ターボラグ」を防ぐために、吸気系にリードバルブを追加。ターボユニットも小型のタービンを採用し、ブースト圧も低めに設定、穏やかに加給が始まるようなセッティングとされていた。

画像: XJ650Tのトピックのひとつが、このエアロダイナミクスフェアリング

XJ650Tのトピックのひとつが、このエアロダイナミクスフェアリング

画像: 同じく82年に発売されたXZ400DとXJ750D

同じく82年に発売されたXZ400DとXJ750D 

ターボチャージャーの追加と同時に、XJ650Tで特徴的なのが、この大柄なフルフェアリング。風洞実験によってエアロダイナミクスを追求したといわれたフォルムは、ちょうど同年にデビューしたXJ750DやXZ400Dにも採用されたもので、スポーツイメージとは違った意味でのハイスピードツーリングの形を表わしたデザインだと言えよう。全体の造形には、ヤマハのボート製品などのマリン部門で蓄積した技術も駆使した、と発表されている。

XJ650T最大のトピックである出力に関しては、ベースとなったXJ650が64psだったのに対し、ターボチャージャーを追加することで85psまでアップし、70psのXJ750よりハイパワーを発揮していた。重量増はXJ650に対し、約20kgだった。

画像: アメリカ仕様はセカターボ650

アメリカ仕様はセカターボ650

XJ650Tは翌83年にはアメリカ輸出を開始。しかし短命に終わり、後継モデルも発売されなかったことから、販売面ではさして成功したモデルではなかったのかもしれない。ちょうどこの頃にレーサーレプリカブームがスタートし、エンジン本体の性能競争も始まったことから、ターボにまで手が回らなかった、というのが実情かもしれない。

空冷4ストローク並列4気筒DOHC2バルブ、キャブレター吸気のXJ650Tに対し、水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、インジェクション吸気の新時代ターボを見たかった気もする。

<この項つづく>

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