BMWモトラッドによれば同社が定義するTOURING ENDURO2022年の世界のマーケットは、R1250GS/アドベンチャーが60%のシェアを持つ。その圧倒的なマーケットリーダーが、このたび10年の時を経てフルモデルチェンジ。新生ゲレンデシュポルト、R1300GSの実力はいかに

PHOTO/井上演
RIDER/和泉拓

画像1: 「R1300GSはオートバイ界のiPhoneだ」発売したばかりの王者を斬る

BMW
R1300GS
¥2,843,000〜
※写真はR1300GSツーリング

https://www.bmw-motorrad.jp/ja/models/adventure/r1300gs.html

巨人、和泉拓語る。「GSはiPhoneのようなもの」

2000年台初期にアスファルトダンサーというチームで当時非常に珍しかったエクストリームバイク(リッターオーバーのロードバイクでスタントをするスポーツ)に取り組んでいた和泉拓は、その頃の経験や身長186cmの巨躯を活かして今もビッグバイクのテクニシャンとして名を馳せている。彼の愛車はカスタムしたヤマハのテネレ700で、自ら「セロー700」と名付けては各地のハードエンデューロに参戦、走破している。もちろん和泉はそのような極端なバイクライフだけではなく、ツーリングスキルもとても高い。ヤマハ以外のアドベンチャーバイクへの造詣も深く、他メーカーのバイクを所有して乗り継いできた。GSシリーズもR1200GSを所有していた経験がある。そんなアドベンチャーバイクのすべてを知り尽くした和泉は「GSのイデオロギーまで理解できているとは思っていませんが、GSはiPhoneのようなものです」と言う。どういうことなのか。

アドベンチャーバイクの中でもR-GSシリーズは、他社とはまったく異質のマシンだ。エンジンがまず異質。パラレルツインに位相クランクを組み合わせてパルス感を出すエンジンが主流の昨今、シリンダーを左右に張り出したボクサーツインを採用している。ボクサーは360度クランクだから、クランク位相の面でも主流から外れている。フロントのサスペンションもテレスコピックではなくテレレバー式を採用しているし、駆動系にいたってはシャフトドライブだ。おおよそバイクのスタンダードの形からかけ離れている。どれだけ変わったマシンなのだろう。BMWのボクサーツインに乗ったことがないライダーは、そう思ってまたがるはずだ。セルスターターでエンジンを目覚めさせ、ひとたびスロットルを煽ると、それだけで明らかにGSが異質なバイクであることがわかる。シャフトのイナーシャでアクセルを煽るたびに右にマシンが傾くからだ。うわ、これは個性的だ!

画像1: 巨人、和泉拓語る。「GSはiPhoneのようなもの」

だが……ここまでGSの独特な個性に触れておきながら、和泉が言いたい「GSはiPhone」という意味はまったく逆の話だったりする。「すごく特殊な構成でありながら、GSというのはいい意味でとてもスタンダードなバイクなんです。誰にでも使えて、どのモデルを買っても裏切られることがない。モデルチェンジのたびにユーザーを拡げるような形になっていて、そこがとてもiPhoneらしいと言えるでしょう。R1300GSになってその傾向はさらに強化されました。本当に走り出してすぐ1コーナー目でそれが理解できるほどでしたよ。どんなバイクであっても、ステアリングが少し内向したり、ちょっとしたきっかけが必要だったり、コーナリングにクセがでてくるものですが、R1300GSはまったくクセがない。これほどナチュラルに曲がれるマシンを僕は他に知りません。比較するためにR1250GSにも乗りましたが、やはりさらに輪をかけてナチュラルに進化していました。

エンジンもクセの強い形をしているのですが、実際に乗ってみると素直で非の打ち所がない。フィーリングにクセのあるようなところは一切ないですし、電子制御の完成度がとても高い。ライドバイワイヤの難しいところもしっかり解決されていて、一歩抜きん出ていると思える。僕がGSをiPhoneだと言うのは、こういうところです。完璧でそつがない。売れているからこそ開発費をかけることができるのでしょうし、それがしっかり感じ取れる。BMWの哲学を受け入れられれば、最高のバイクライフが送れて、最高の長距離ライディングが楽しめる。そういうマシンですね」

画像2: 巨人、和泉拓語る。「GSはiPhoneのようなもの」

iPhoneが世界中で爆発的なヒットを生んだ理由は、何か個性で突出したわけではない。ぬるぬると動く画面や、幼稚園児でも使いこなし始められるユーザビリティに、優れたデザイン……。そういったiPhone的なものをすさまじいクオリティで仕上げてまとめてきたからこそ、スマートフォンのスタンダードになった。R1300GSも同じように、アドベンチャー界のスタンダードたる資質をすさまじいクオリティで仕上げてきている、というわけだ。では、その細部をみていこう。

小さく・軽く・シンプルに

画像: 小さく・軽く・シンプルに

エンジンも、フレームも、すべてが新型になったR1300GSについてざっくり何が変わったのかと言えば、小さく、軽く、シンプルになったことだろう。名称が1300になり排気量も増えたことで、あの巨体のGSがさらにどれだけ大きくなったのだろうか……と想像してしまうかも知れないが、実際にはその逆である。満タン状態で237kg、前モデルよりも12kgも軽量だ。そして見た目からしても、その大きさはだいぶ抑えられている。でっぷりとしていたダミータンクが、圧倒的にスリムになっているのは、コンパクト化の象徴と言えるかも知れない。また、強烈に大きかったサイレンサーが、キャタライザーなどをエンジン下に配置したことで250クラスなみの大きさになっていることも、見た目に影響しているはずだ。こればかりは実車を見ていただくしかないのだけれど、「このサイズなら、乗れるかも知れないな」と思えるに十分なナリをしている。

「見た目だけではなく、乗ってみると900ccくらいの感覚なんですよ。とても1300ccもあるようには思えないですね。シートとハンドルとステップの関係性は変わらず、僕のような大きな人間でもゆったり乗れる懐の深さがあります。小さく感じる理由は、まずタンクの後端の幅ですね。スタンディングするとわかりやすいのですが、ヒザで感じる車体の大きさがとても小さい」

画像: 歴代最強スペックのエンジンには、クセがまったくなく素直

歴代最強スペックのエンジンには、クセがまったくなく素直

画像: タイミングチェーンの位置を変えることで、これまで右バンクが手前にあって左右非対称だったエンジンが、シンメトリーになった

タイミングチェーンの位置を変えることで、これまで右バンクが手前にあって左右非対称だったエンジンが、シンメトリーになった

それに加えてシート高を自動で調整してくれる前後サスペンションの効果も大きそうだ。先代も電子制御でプリロードとダンピングを調整してくれるダイナミックESAを搭載していたが、R1300GS(R1300GSツーリングのみ)は車高調整の機能であるDSAを新たに採用した。これは、停車時に30mmシートを下げてくれるもので、速度30km以下になるとゆっくり車高を下げていく。

「今回のGSはスタンダードのシート高が850mm。僕の身長であれば問題ないのですが、乗車時にはさらに下がっていて820mm。跨がった瞬間に低いな! とびっくりするくらい低い。ローシート仕様のオートバイだと、シートとステップの距離が狭まってしまって、ライディングポジションに影響してしまいます。ところがサスペンションで下げてくれる分には問題ない。30km以上の速度になるとシート高は元に戻るのですが、どこでシート高が上がっているのかわからないくらい自然です。シートの幅も細いので、足が真下に降りるから本当に足つきがいいですね。186cmの身長があっても、足つきはいいに越したことは無いんですよ。僕も難しいセクションで遊ぶことがわかってる日は、シートを低いものに変えたりするんです。足が付くことは正義です。

小さく軽いから、長距離だけでなく近所の買い物にでも使えてしまう敷居の低さを感じます。R1200GSで買い物に行こうと言う気にはならなかったけど、これなら頻繁に駐輪場からひっぱりだしてやろうと思えるでしょう。極端な例ですが、僕なら白井(オフロードパーク白井。トライアルコースだがハードエンデューロライダーにも人気)のロータリーまで行ってみたいなと思えるほどですよ(編注:一般人の腕前ではとうてい到達できないようなセクションです)」

画像: センタースタンドを立てようと足をかける動作でも起動する車高調整 youtu.be

センタースタンドを立てようと足をかける動作でも起動する車高調整

youtu.be

電子制御なんて気づかないくらい自然なほうがいい。究極的にはモード選択すらいらない

画像1: 電子制御なんて気づかないくらい自然なほうがいい。究極的にはモード選択すらいらない

先代から盛りだくさんだった電子制御技術の数々は、R1300Sになってさらに一皮むけた感がある。それはiPhoneが2008年にデビューしてアップデートを繰り返し、iPhone3Gに進化して一気にキャズムを越えたときと似ているかも知れない。凄いことを感じさせず、裏で凄いことをやっている。そんな凄みがある。

「特に電子スロットルにとても好感がもてました。多くの電子スロットルは、極低開度の部分に遊びがあるように感じます。これが開けても前に出て行かないようなフィーリングを生み出してしまうのですが、このR1300GSはそのあたりの調整がとてもうまくいっていると思いました。すごく自然です。

あと、スポーツモードのナチュラルな出足も評価が高いですね。だいたい電子スロットルはパワーを出すモードにすると、開け始めにしっかりパワーをのせてくる。これは見栄えはすごくいいんです。交差点なんかでバっとあけた時に、パワフルさをとても感じやすい。ところが実際に日常的に使っていると、この部分に乗りづらさを感じる。R1300GSでは唐突にパワーが出るような感触はなく、開けていけばしっかりパワーが乗っていく仕様になっています。

画像2: 電子制御なんて気づかないくらい自然なほうがいい。究極的にはモード選択すらいらない

様々な電子制御のついたアドベンチャーに乗ってきましたが、トラクションコントロールやABSは、むしろ僕らインプレライダーすら気づかないくらいナチュラルにライダーを補助してくれることが理想だと思います。そういったところもBMWは優秀です。BMWが考える「この設定ならこういったシチュエーションが乗りやすい」というモードにハマれば、とても完成度が高いです。こういうところもとてもiPhone的だと感じます。スマホに置き換えると、アイコンをタップした時のモーションは、調整できないというのと似ているかもしれませんね。メーカーの提供する完成度の高いものを、そのまま受け入れられるような多くの人から、とても高い評価を受けるのではと思います。今回のR1300GSは“エンデューロ”モードにするとサスペンションが下がって足つきがよくなります。これをよしとするかどうか。エンデューロなら本格的には最低地上高を高くとるためにシート高は上げたほうがいいだろう、と思う人もいるでしょう。さらにもっと細かくパラメータをいじりたいという人もいるはず。アイコンをタップしたときにグラフィックモーションなんていらないから、切りたいと思っているAndroidユーザーのようにね。でも、実際にはGSユーザーの中にその層がどのくらいいるのか。

そのうちBMWではモード選択すら、不要になるんじゃないでしょうか。サスやタイヤの動きなどでダートなのか、雨なのか、路面状況をセンシングしてシームレスに走りやすいモードへ変更するというようなね。乗ってアクセルをひねれば、最適な形で走り出す。勝手な推測ですが」

クセがなく、なんでもできるオールマイティさ

何かに特化することは、何かを捨てることだった。排気量を上げて、巨大なアドベンチャーバイクをさらにパワフルにすれば、巨躯のパワフルなライダーにしか乗れないものになっていってしまう。いたずらにパワーを上げすぎたモノというのはどんなジャンルであれ一般人には理解できないものになってしまう。

画像: クセがなく、なんでもできるオールマイティさ

ところが、新時代ではその両立が可能になってしまった。あたらしいR1300GSは、GS史上もっとも出力のあるパワフルなエンジンを搭載しているのにもかかわらず、「大きくて手強いバイクだな」というアドベンチャーのデメリットを払拭している。コンパクトで軽いから、何でもできるオールマイティさを持っている。

GSというのは不思議なバイクだ。オートバイのカテゴリの中でも一際大きく迫力のあるアドベンチャーバイクにおいて、王者の地位を揺るぎないものにしている。大きくて誰にでも乗れるものではなく、ライダーには相応のスキルを要求する。230kgオーバーの車体を自由自在に操る姿はとても格好がいい。そういったイメージを持たれている反面で、実は凄まじく乗りやすいマシンに仕上がっていて、クセもない。ライダーを1000km以上先まで苦も無く連れて行く、完成度の高いパッケージ。

「iPhoneってどんどんウエアラブルになって、ライフスタイルに溶け込んでいくものですよね。BMWが目指すところも、そういうものなんじゃないかと思いました」と和泉は言う。Off1ではこのあたらしいR1300GSを、今後長距離ライドや土の上など、今回とは違った側面でのパフォーマンスについても追っていきたい。

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