北海道の日高町で開催される日高2デイズエンデューロは、レースの格式のみならず、道民以外は海を渡っていくことになるため、経済的にもハードルが高い。今回はその敷居がどれくらい高いのか、かかった費用を計算してみた
ひだか高原荘、争奪戦ッ!!!(ゴールデンカムイ風)
日高2デイズエンデューロ(HTDE)は日高町にある「ひだか高原荘」、およびその付帯施設である日高国際スキー場を運営本部として開催される。HTDEは2デイズで行われるため、当然宿泊が必要だ。このひだか高原荘に宿泊できれば、建物を出た目の前がパドックであるという最寄りのレース環境を手に入れられるというだけでなく、施設内にはモーターサイクルジャーナリストの佐藤敏光さんが撮影したエンデューロの写真がどーんと展示されていたり、会期中はロビーにエンデューロバイクが展示されていたりと、このHTDEを満喫する環境としても最高であることは間違いない。
とは言うものの、このひだか高原荘には参加者全員が宿泊できるほどの客室数は無く、レース受付を開始した時点から参加者同士で部屋の争奪戦が始まるのが通例だ。僕のように「ああぁ、今年も日高の受付はじまっちゃったなぁ、どうしようかなぁ」とかほざきながら迷っているような人間は一生この高原荘の好待遇を受けることはできない。そう、レースはこの高原荘争奪戦からすでに始まっているのだッッ!
エントリーからスロースターターだった僕は、このHTDEに合わせて宿泊プランを用意してくれる「国立日高青少年の家」に泊まれることになった。全国各地に点在する、いわば林間学校など用の施設でありがたいのだけれど、目の前にパドックがあるひだか高原荘の好条件には敵わない。致し方ないことだが、公共の施設なので朝ご飯もレースのスタートには間に合わなかったりするので各自用意が必要となる。
それでも1泊800円、2泊しても1600円という価格はとてもリーズナブルだ。
北海道までバイクを運ぶのにおいくらかかるの?
さて、宿を手配できたら次は移動手段である。本州に住むライダーにとって、これが最も高いハードルだと言える。レースは土日の2日間、ムリして土曜の朝に会場に入るというウルトラC技もあるにはあるのだけれど、現実的には金曜に入ってパドックをつくり、下見をしておきたいところ。レース最中のガソリン補給のために、指定された場所へガソリン缶を事前に運んでおく必要もある。すごく慣れた人以外は、金曜に現地入りしておくのが無難だろう。
Off1編集部のある関東から北海道へバイクを運ぶとなると、5つほどルートが考えられる。以下、フェリーは全長5200cmのNV350で渡った場合の金額だ。
①新日本海フェリー 新潟〜小樽便
今年は全日本エンデューロ応援プランなるものがあり、往復5万5000円
②太平洋フェリー 大洗〜苫小牧便
多くのHTDEライダーが利用する一般的なプラン。往復7万4100円
③津軽海峡フェリー 青森〜函館便
青森まで運転しなきゃいけないわりに、そこまで安くない。往復4万7900円
④津軽海峡フェリー 大間〜函館便
究極の自走派にしかおすすめできないフェリー利用区間最短プラン。往復3万8300円
⑤鈴木健二便
今年から鈴木健二さんがバイクと用品のみを運んでくれるサービスを開始。ライダーは自力で現地入りする必要がある。時価となっていて、今年は往復3万5000円
①〜④には港までの自走交通費がかかる。わりと贅沢に見える⑤は、航空券もそこまで高くなくて総額にしても安かったりする。僕の場合は取材班2名が同行するという特殊な事情もあり、①をチョイスした。
ざっくり明細を出すと……
・フェリー代 5万5000円
・東京〜新潟高速&ガソリン代往復 1万8000円
・小樽〜日高高速&ガソリン代往復 1万円
・新潟宿泊代 6000円(稲垣のみ)
・日高宿泊代 1600円(稲垣のみ)
・エントリーフィー 3万5000円
・MFJライセンス 1万1850円(すでに持っている方は不要)
だいたい13万ほどということになるだろうか。これに、マシンのセットアップ費用や、パーツ代、タイヤ代などがかかってくることになる。いまどき、ちょっとグアムなんかに行こうとしただけでも15万円くらいは簡単にかかるわけで、国内最高峰のエンデューロ体験が13万円でできると考えたら、めちゃくちゃに安い。ISDEやEnduro GPだけでなく、海外のレースをたくさん取材で見てきたから断言できるのですが、「ヒダカ」はそれらに負けずとも劣らない、世界に誇れるレースだ。日本に生まれてオフロードバイクを生きがいとしている人は、ぜひ一度味わっていただきたい。
ほとんど何もすることが無かったマシンセットアップ
前回でタイヤの準備などに触れたものの、実際TMのEN250 ES Fi 4Tをうえさか貿易に受け取りにいくと、ほとんど何もやることが無い状態になっていた。なんせ相手は生粋のエンデューロレーサーだ(リンク参照:あのとんがったマシンですよ
)。うえさか貿易で担当してくれたメカニックはエンデューロの経験も豊富で、ヘッドライトやテールランプ含めてすべてが完璧な仕上がりだった。
あとはポジションなどを自分の好みを反映させていくだけ。まずは、ハンドルを使い込んでいたISAハンドルの内外テーパーバー3.5mmに交換。TMの車体はだいぶ剛性があるので、ISAハンドルの柔らかさとは相性がいいだろうと考えた。グリップも同じ理由でCIRCUIT社のラインナップの中でも適度に柔らかいKIRAグリップを選んでみた。これは同じチームTMRacing Japan Enduroから参戦する草木幸多郎さんのオススメである。
あとは前後タイヤをIRCのGX20に履き替え、リアタイヤには前回テストした120/80-19サイズのムースを仕込んだ。タイヤを外すためにアクスルナットを32mmのどでかいボックスレンチで緩めてから作業すると、タイヤ付近の工作精度の高さに改めて驚かされる。TM博士のジェリーズ松本さんから説明を受けていた通り、各パーツがびしっと隙間無くハマる。タイトなアクスルシャフトもコツさえ掴めばヌルヌルっと通り、まったくガタが出ない。これがTMか……と固唾を呑んだ。うーむ。すごい。
それとナンバープレートには、ZETAから新発売されたプロテクションナンバープレートホルダーを組んでみた。公道を走るので当たり前なんだけど、HTDEではナンバーを落としてしまって見つからなかったら、次の日に出走できないというとても厳しい決まりがある。そのナンバー脱落対策については昔から参加者みんなそれぞれに工夫してくるんだけど、このプロテクションナンバープレートホルダーが実はぴったりだったのだ。まず、樹脂の素材(PA66樹脂をベースにガラス繊維を複合させた強化樹脂)に弾力性があって、振動によるものを含めて破損に対する強度が高い。曲がらないというのではなく、弾力性をもって元の形に戻るタイプだ。ハニカム構造なので強度がありながら軽量であることも見逃せない。レーサーのテールフェンダーは、軽量化のためそれほど強度がなく、ナンバー部分の重量を増やすとブランブランしてしまいがち。だが、このZETAのホルダーならほとんど気にならない。これが昔からあったらなぁ! と思った。公道を走るレースでは、今後このプレートホルダーが定番になるに違いない。