スタイリッシュな北欧デザインの極み、ハスクバーナモーターサイクルズのNoden901をさらにグレードアップした“Expedition”を御嶽で試乗。スタンダードからアップデートされた足回りはいかに

RIDER/野口英一(ノグチシート)

スタイリッシュなNorden 901を本気仕様に

こうもアドベンチャーバイクが隆盛を誇る理由はなんなのだろうか。オフロード専門メディアを続けてきた筆者からすれば、いままでセローやCRF250Lに乗ってきたオフロード人口がそのままアドベンチャーバイクを買っているとは到底思えない。とある識者が教えてくれたことが、筆者の中で腑に落ちている。

「アメリカンのクルーザーに乗って帰っても何も言わない小さな娘が、アドベンチャーバイクを見せると『これはかっこいいねぇ』って言うんだよ。でも、オレもアドベンチャーバイクは見た目だけでかっこいいと思う。スタイリッシュだし、なぜか冒険を想起させるしね。かつてアメリカンから無意識に感じ取っていた、アメリカン=大陸横断=冒険=カッコイイ、的なイメージを今はアドベンチャーバイクが一手に引き受けてるのかもしれないね」

画像: スタイリッシュなNorden 901を本気仕様に

どデカイバッグを装着した立派なクルーザーを持っているからといって大陸横断するライダーなんてほとんどいないのと同じように、アドベンチャーバイクに乗っているからといって砂漠を縦断するライダーなんてほとんどいない。何か想起させるイメージを背景にもちながら、ロマンを売るという意味で、アメリカンとアドベンチャーは共通点がある。実際、アメリカンタイプのバイクからアドベンチャーに乗り換える例は、実感としてよく聞く話でもある。

長距離を無給油で走れたり、オフロードを走破できること以外に、市販車としてのアドベンチャーバイクに求められる資質のひとつにこの「カッコよさ」があるのは間違いない。そのために各社はしのぎを削ってラリーや、冒険のストーリーを紡ぎ出し、Youtubeなどでプロモーションする。このバイクであれば、こんな冒険ができる。砂漠だって乗り越えられる。どんなところにもいける、という具合だ。スポーティな外観はおおよそラリーマシンのイメージで、コマ図がスクリーン内におさまりそうな形をしている。わざとメーターがコマ図ボックスのように縦型をしていることも多い。

しかし、ハスクバーナモーターサイクルズのNorden901は、それらのアドベンチャーバイクとは一線を画すものだ。「アフリカ大陸」「ラリー」「アドベンチャー」などとはまったく異なる「北」を意味する車名“Norden”を冠し、ライトはオーセンティックな丸目一灯。数々の優れたデザインを生み出してきたキスカ社が手がけたボディは、他のバイクメーカーのアドベンチャーバイクとはまったく違う方向性を持っている。キスカはこのデザインを「Rugged yet refined(無骨でありながら洗練されている)」という言葉で表現している。この10年ほど、かつての名車にスタイリングのイメージソースを持つ「復刻版」とも表現すべきマシンが雨後の筍のように発表され、どこかでみたバイクが量産される中、Norden 901は何にも似ていない。かつてハスクバーナモーターサイクルズが売っていたエンデューロマシンにもスクランブラーにも、何にも似ていないのだ。Norden 901は売れ線のアドベンチャースタイルから飛び出し、スタイリッシュで洗練された新たなアドベンチャーの世界へライダー達を誘う。

そんなNorden901の走行性能をより高めたモデルが、今回試乗したNorden 901 Expeditionだ。サスペンションにはWP XPLORを携え、ストローク長を240mmまで拡大。専用の大型スキッドプレートで荒野での走行を見据え、さらにグリップヒーターやシートヒーターを装備。長い白夜を楽しみながら、北欧をさらに北へ向かい、フィヨルドの荒れ地を突き進む……そんな情景をイメージさせられるマシンに仕上がっている。削れた岩盤に浮き石の多いフィヨルドで育ったオフロードライダー達は屈強でどんな道をも苦にしなかった。きっと、Norden 901 Expeditonもそんなバイクに仕上がっているという期待が高まっていた。

レジェンドラリースト、野口氏曰く

このたびNorden 901 Expeditionの試乗をお願いしたのは野口英一氏。1992年にオーストラリアンサファリでクラス優勝の経験をもつ、国際ラリーのレジェンドである。現在はノグチシートの代表として知られていて、ダカールラリーのTeam HRCや、日本のモトクロスカワサキファクトリーなどのレース用シートを手がけてきた。特にダカールではHRCのテストに帯同してライダー達の細かなオーダーに毎年応えており、いまやTeam HRCにとって欠かせないサプライヤーである。

カスタマイズシートの製作は非常に奥が深く、身体の骨格やバイクの性格などを把握することが重要。どこでマシンをホールドすれば、加速に身体がおいていかれないか、どの程度のスポンジフォームでどの程度底付きを防止すればお尻が痛くならないか。常日頃からマシンとの対話を大事にしている野口氏の仕事は、いわば職業的テストライダーに近いものがある。アドベンチャーバイクから、ビッグツアラーまで、ノグチシートにはユーザーから多種多様なシートが送り込まれ、野口氏は無理難題に毎日のように向き合っている。

画像1: レジェンドラリースト、野口氏曰く

景観も素晴らしいONTAKE EXPLOLER PARKをNorden 901 Expeditonで自由に駆け回った野口氏は開口一番「めちゃくちゃに楽しいバイクに仕上がってるね!」と笑顔で言った。普段、古いBMW GSに乗っている氏だが、だからこそ現代の大柄と言えるNorden 901にはだいぶ手を焼きそうだと考えたという。「僕は身長がある方なので、たいていのバイクのシート高は気にならない。それでも、ちょっと怯む程度にシート高が高いなと思った。だから、最初はおっかなびっくり乗ったんだけど、とにかくオフロードを走るのが楽しいバイクだったから、そんなのはすぐに忘れたよ。

画像2: レジェンドラリースト、野口氏曰く
画像3: レジェンドラリースト、野口氏曰く

足周りが特にいいね。これはノーマルとは違うサスペンションが入ってると聞いているんだけど、それでシート高も上がっているんだろう。そんなデメリットは忘れてしまうくらいに、サスペンションの出来がいい。このONTAKE EXPLOLER PARKは、まっすぐヒルクライム出来るようなビギナーにももってこいのコースだと思うんだけど、だいぶ人気で来場者数も多く、路面が荒れ始めてきている。特に上り下りでギャップがあると、こういった大きいバイクでは振られて怖い思いをするものだけど、エンデューロバイクと同じような感覚でギャップに突っ込めるようなサスペンションだった。横にも滑らないから、ライダーが無理矢理補正するようなこともないよ。オフロードを純粋に、恐怖感なく楽しめると思う。足がしっかりしているから長距離でも疲れないだろうね。

画像4: レジェンドラリースト、野口氏曰く

あと、このNorden 901 Expeditionだけに設定されている“エクスプローラーモード”が素晴らしかった。オフを走るモードでは、オフロード、エクスプローラー、ラリーの3モードが用意されているんだけど、ラリーはだいぶアグレッシブなモードで持て余してしまうかな。オフロードモードではかなりトラクションコントロールの介入が大きくて緩慢に感じる。エクスプローラーはその中央値にあるというより、自由自在に走れるようなイメージだね。長距離走れるようにセットアップされているということだったけど、確かに疲れないかもしれない。ゆっくりも走れるし、リアタイヤを思い切り振り回しても走れる。今回はあまり距離を走っていないので確かなことは言えないが、疲労がたまりがちな長距離走行では緩急つけて走れた方がいいんじゃないかな。プレイフルであればあるほど、疲労を忘れるからね」

Expedition=遠征、とサブネームが付けられたNorden 901のスペシャルエディション。一見、サスペンションが豪華になったことでよりオフロード方向へ性格を振ったものかと思いきや、いわゆる長距離に最適化されたマシンで名前の通りのモディファイが施されている。とにかくバイクに乗っている時間が好きで、年がら年中ロングツーリングに出かけ、その出先でもリアタイヤを振り回して遊ぶようなアグレッシブでジャンキーなライダーには、このマシンがぴったりだと言えそうだ。

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