2022年11月に、愛車のYZ125を乗りやすくすべくサスペンションモディファイした。それでもスキルの無いジャンキー稲垣には手に余る感じだったので、1年越しで次の作戦を実行することに!
YZ250FXが自分にジャストフィットなのがいけないんだきっと(んなわきゃない)
僕が22MY YZ125を購入したのは2021年の秋のことだ。JNCCやJECで散々お世話になってきたYZ開発メンバーの面々が、ここぞとばかりに17年ぶりに2ストロークのYZをフルモデルチェンジしたとあっては、買わないことには失礼にあたると思った。それまで真面目に取り組んだことがなかったモトクロスを、ある程度ちゃんとやってみたかったことも理由の一つだった。モトクロッサーであるYZを乗りこなせれば、カッコイイじゃないか。
乗り初めのうちは、正直何をどうしていいかわからなすぎてそのままスタンダードセッティングで乗っていて不満がなかった。あまりにスキル不足で、クロスカントリーバイクのXシリーズと比べても、ちょっとサスペンションが固いかなーくらいに思っていた。ところが、欲を出してJNCCなんかにも出てみようとYZ250FXを買い増してみたところ、乗れば乗るほどYZ250FXがイイ。埼玉県モトクロスビレッジでタイムアタックをすると、もはやハナシにならないくらいYZ250FXのほうがタイムが出るし、アタリが優しい。うまくなるほどに、モトクロッサーとクロスカントリーバイクの差を感じるようになって、余計にYZが難しく感じるようになってしまった……。
そこで2022年11月、1年悩み続けてとうとうサスペンションのスペシャルショップであるテクニクスに相談することに。モトクロッサーらしさは失わないようにしたいけれど、固めのサスをなんとかしたいというオーダーに完璧に応えていただいた。モトクロッサーらしさを失わない、というのが条件だったので体重70kgの僕からするとバネレートはスタンダードそのままでジャスト。バネを変更しないモディファイならバネを用意する必要が無いのでコスト安でもある。これはこれでアタリ。上の記事に書いているとおり、とてもいいバイクになったと思う。
それでもYZ250FXとのタイム差は縮まらない。ぐう。ここまで来ると、YZ250FXがいかに優れたバイクなのかという結論を出してしまいたくなる。YZ250FXはマジですごい。そのままJNCCに出れちゃうし、僕にとってはモトクロスをやっても最速。楽だし、速いし、おいしい。鈴木健二さん曰く、IBまでならYZ250FXで戦えちゃうよと。俺ごときがモトクロッサー様を乗りこなせるわけがない、ということか。でも、YZを乗りこなせるやつになりたいんだよ俺は! 見栄を張りたいんですよ!
バネレートを落としすぎるとモトクロッサーではなくなってしまう。でも、それでいいじゃん
現状を整理しよう。モトクロスビレッジで1分を切れるようになったら、少しYZ250FXのサスペンションを固めたくなってきた。ローラーセクションで引っかかるようになってきたのと、1分を切るスピードを手に入れてはじめて「あ、このサスめっちゃ柔らかかったんじゃん!」とわかるようになった。アジャスターを全部締めて、もうちょい、ほんの少し固めたい、というレベルになったところではたと気づいたのだ。自分にとっての今のベストなサスはどの位置にあるのかを。
というわけで再び1年越しでテクニクスに出向き、YZ250FXよりもう少し硬めのサスが好みです、とまったく違うオーダーをすることになった。要するにモトクロッサーらしさは諦めたわけであるFX並みにしてください、と素直に言えないのだけど、まぁざっくりいうとFXのようなサスが欲しかった。JNCCの手練れとして知られるベテランライダーのテクニクス小倉さんが言うには「自分のYZ125Xに乗ってみてください。YZ125Xのスタンダードのバネレートなんですが、これだと、YZ125よりも3ランクバネレートを落としたことになります。これでやりすぎだと思うなら、YZ125から2ランク落としましょう」とのこと。たしかにYZ125Xでモトクロスビレッジを走るとYZ250FXと同じような感触で、もう少し固めでもいいなと思う。もうこうなると、言われるがままである。ぜひ2ランク落としでお願いしまする。
7月12日 YZ125 STDスプリング(減衰弱めにリバルビング) 1:04.96
7月12日 YZ125X 小倉号。YZ125比で3ランクDOWNスプリング 1:04.30
7月12日 YZ250FX STD 1:01.20
取材日のタイムを見るとこんな感じ。YZ250FXがいかに速いかがわかるだろうか……。ちくしょうめ。なお小倉さんのマシンもたいしてタイム差がないけど、これはめっちゃ遠慮して走ったせいです。かなり感触はいいかんじだった。
さくっと1分切れるYZに仕上がりました。めっちゃ楽しいじゃんコレ!
取材日にはなんとテクニクスさんのテクニクスファクトリーバスが帯同するという強力すぎる協力を受けることに(ほんとすみませんすみません)。小倉さんがモトクロスビレッジでスプリングを差し替えてくれるというお殿様対応。まるでファクトリーのようなご対応をしていただいた。そうか、ファクトリーのライダー達はセッティングを出すために、こうして現地でセッティングの効果を即確かめ、タイムを計測しながら確実にマシンをいい方向へセットアップしていくのだな、と実感した。
小一時間たつと、灼熱のモトクロスビレッジで小倉さんが組んでくれたサスペンションが目の前に。その場でグイグイとストロークさせてみると、そこまで変わらない気がする。一抹の不満を覚える。というか、2ランクも下げてその場でストロークさせてわからないのか……。もうその場でストロークさせてしたり顔するのやめよう。実はコースインしても、その差を明らかに感じることができなかった。もっとがらっと変わるのかと思っていたので、正直拍子抜けする僕。ほとんどXになった! とここに書こうと思ってたんだが、全然そんなことはない。むしろほとんどモトクロッサーだ。
ところが! 2周目あたりで異変に気づく(ようやくかよ!)。純然たるモトクロッサーではあるものの、なぜだか走りやすい。これまでギャップで拾ってしまっていた衝撃が、感覚数値で20%減って感じ。わずか20%と思うなかれ、それだけで心の余裕がだいぶ違う。単純にスロットルを開ける(あるいは半クラッチを当てる)タイミングが、それまでよりも速くなった。コーナーもそうなのだけれど、ギャップで跳ねられるかも! という心配がなくなったことで、荒れた路面でしっかり開けていけるのだ。感覚値ではなく、LITProを使って加速値を比べても、各コーナーで開けるタイミングが早いし、急加速ではなくスムーズな加速をしている。こうなると使えるラインもだんだん変わってきて、1コーナーではインをくるっと回れるし、3コーナーでは荒れていたアウト側のバンクをつかって加速することができるようになった。
YZ125はYZ250FXに比べて、エンジンも車体も反応がとても速い。ライダー側の操作に対しても、路面から受けるショックに対しても同様だ。それがとても万年ビギナーの僕からすると難しい。このことは、考えるよりも先に身体が動いてしまっていて、あまり思考で認識できていないように思う。「なんかよくわからないけど怖い」というような感覚だ。2ランクサスペンションを下げたYZ125は、「なんかよくわからないけどフレンドリーやんか」に変わっていた。かといってYZ250FXに感じていたような、少し柔らかすぎるなという側面は一切ない。しっかり、しゃっきりしたモトクロス用サスペンションだ!
7月12日 YZ125 -2ランクスプリング(減衰弱めにリバルビング) 1:01.30
LITProのデータをライダーの身体に及ぼす影響という面からさらに眺めてみると、STDのスプリングではそれほど脈拍が上がりきらず170bpmほど。-2ランク下げたサスペンションではきっちり180bpmまで上がっていて、身体を思い切り動かせていることがわかる。これは人によって違うだろうけど、僕の場合はあきらかに脈拍が高い時ほど攻める姿勢ができていて、タイムも出やすい。テーブルトップでの速度は、6km/hほど上がっていたし、フープスとそのあとのつながりもよくて速度が乗っている。明らかに開けられるようになった。これなら1分切れるのでは!
7月17日 YZ125 -2ランクスプリング(減衰弱めにリバルビング) 0:59.86
というわけで、その週末に早速YZ125でトライ。試行錯誤しつつ、最後の最後で1分を切ることが出来た。くうう。感涙ものです。ありがとうテクニクスさん……。両日の違いは、もう歴然。すべてのセクションでスピードのノリが違っていて、1コーナーまでの直線では8km/hもスピードが違っていた。それに、なによりとても楽しかった。久々に、2スト125が楽しいなと思える日がやってきた。最高だぜ。
非常に興味深かったのは、モトクロッサーとクロスカントリーマシンがいかに離れた存在かということ。僕のYZは減衰も抜いていたし、2ランクもスプリングを下げたらふにゃふにゃになってしまうのでは、と思っていたのは大きな間違いであった。モトクロッサーとクロスカントリーマシンには大きな隔たりがある。これを埋めるには、スプリングも減衰もしっかり落としてやらなければいけない。そしてしっかり落としてやったとしても僕のようなモトクロスビレッジで1分を切るか切らないか、と騒いでる万年ビギナー(そんな人がいったいどれだけいるのかはわからないけれど……)にとってはふにゃふにゃになるようなことはない。プロのサスペンション屋、テクニクスさんはそういう事情をしっかりわかっていて、適切なセットアップを提案してくれる。これからも、伸び悩んだらテクニクスさんに相談しよう、と心から思ったのだった。