日本のオートバイウエアブランド、クシタニが今年からオフロードウエアを発売しているのは既報の通り。さらには長野県王滝村にオフロードコースを作ったというから、これは体験しにいくしかない!! と仕事のフリして遊んできた回顧録
ONTAKE EXPLOLER PARK
〒397-0201 長野県木曽郡王滝村3162番
ツーリング先としても最高なんじゃないか
編集部がONTAKE EXPLORER PARKを訪ねたのは、ゴールデンウィークのこと。まだオープンしていない時期に特別にこの素晴らしいフィールドを体験させていただいた。キャンプ地として、観光地として、そしてバイクで遊ぶプレイフィールドとしてのポテンシャルにあふれるこの王滝村に、「ファミリーで」どこまで楽しめるのか。そんな重大な責務を背負いながら大量の薪を含めた荷物満載のNV350を西へ走らせたのである(ゴールデンウィークを利用した、ただの家族サービスなのでは?)。
東京から向かうなら、中央道伊那インターで降りるのが便利だ。伊那市でしっかりキャンプの買い出しをしていくべし。向かう先の王滝村は我々オフロードバイクライダーだけでなく修験者が目指す土地でもある。滝行の合間にコンビニにいけたら気分が台無しでしょう? いざ心してまいらん。Googleマップでこの伊那インターからおおよそ残り1時間30分だ。
俗に木曽高速と呼ばれる国道19号から、山岳地帯へ入る。この19号が最後の買い物が出来る地帯だ。コンビニもラスト、ラーメン屋もラスト。僕ら家族は花火を探しにスーパーのような個人商店に入ったが、残念ながら売っていなかった。山岳地帯は前半こそよく整備されたまっすぐな道路だが、段々様相が変わってくる。王滝川をさかのぼる形で進む県道473号は景観も最高だが、なんといってもその先の御嶽湖が美しい。もしかして、これはバイクで訪れるべきだったのでは……と思い始めていた。
申し訳程度に小さな家族経営のガソリンスタンドがある王滝村の中心部を抜けると、ぐんぐん御嶽を登る峠道に入る。180度のクイックターンが続き、NV350に装備したLSDが常にガキガキと音を立てるたびに、あぁ、やっぱりバイクで来たら最高だったじゃないか……と思う。上れば上るほど空気は澄んでいき、たびたび現れる修験場や霊場に心が洗われていく。たぶん。しらんけど。
脳汁ほとばしるヒルクライム、はビギナーだってキッズだって楽しめる
ONTAKE EXPLOLER PARKは王滝村の御嶽スキー場をグリーンシーズンのみバイク用に転用したタイプのフィールドだ。たとえばMTBでは富士見パノラマやふじてんリゾートが同じようにグリーンシーズンを二輪向けに開放しているし、JNCCではレースでしか走れないフィールドとしてグリーンシーズンのスキー場を利活用しているが、オートバイ用にいつでも走れるスキー場はとても珍しい。
大きく分けてONTAKEは4つの斜面を使ったコースになっている。4つの斜面にはそれぞれ3本ほどのヒルクライムと1本のダウンヒルが用意されており、それぞれがランナバウトでつながれている。肩慣らしにまずは★1〜3(★で難易度が示されている)をつないで頂上を目指すことにした。クロスカントリーで言うと、僕はJNCCのFUN GPなら楽しめてCOMP GPだとちょっと怖いけど走りきることはできるだろう、ハードエンデューロはちょっとムリというくらいの腕前。日野カントリーオフロードでは、先日ダートフリークヒルで撃沈している。そんな僕がYZ250FXで走る限り、★1〜3のヒルクライムは爽快そのもの。JNCCでよく「気持ちよさそうに斜面を登ってるな!」って思うシーンあるじゃないですか。あれって実際レースで走ってみるとだいぶ路面が荒れてて大変な思いをする(それはそれで楽しいんだけど)のだが、ONTAKEは路面が荒れてなくて本当にただただ気持ちいい。
だいぶイージーなので、もしかして子供もいける?……と思い、TT-R50Eとヨツバモトに乗った息子二人を「鎧の巨人を倒す冒険に行こうぜ!」とダマして再度上ってみた。僕の息子はあまりにバイクに囲まれすぎていて、バイクは飽きてしまっている。「バイク? いかな〜い」という日常に変化をもたらすため、いつも同じデートコースに飽きてしまった女性を山に連れて行くがごとく、息子をヒルクライムデートに誘ったのである(乗りたくてもバイクなんて夢のまた夢だった子供時代を送っていた僕からしたら、なんてうらやましいやつらなんだ。俺は俺の息子になりたいぜ)。ともかく息子二人はそんな調子だからまったくバイクがうまくなっていない。でも、それでも両足をバタバタさせながらヒルクライムをゆっくり上っていき、TT-R50Eに乗った長男はしっかり走破してしまった。それからというものの、「お父さん、バイクで冒険なら一緒に行ってやってもいいよ」と言うので半分作戦は成功である。オープン直前に、RISE&RIDEの手によってキッズコースが開拓された。家族との憩いの場として最高過ぎるぜONTAKE。
オフロードバイク初心者を連れて行って、しっかり一緒に楽しめる場所ってあまりない。だけどONTAKEだったら、そんな用途にもぴったりだなと思った。そして、これらの初級ヒルクライムなら、アドベンチャーバイクで挑戦するのにぴったりだな、とも思った。リッターバイクのエキゾーストノートを響かせながら、大トルクで上ったらさぞかし面白いだろう。そう、ONTAKEはアドベンチャーバイクもウェルカムなのである。ツーリングの目的地として設定して、ついたら存分オフで遊ぶ。最近、トライアンフのタイガー1200が気になってるんだよなぁ。3気筒でゴリゴリ上ったら楽しいだろうなぁ。
上級コースはスパイス十分!
コースの設定に関わったのはYoutuberのOGAちゃんねる小川さんと、実制作は中部のベテランエンデューロチーム、高橋博率いるエンジョイズのみなさんだとのこと。当日は小川さんともお会いすることができて、コースを案内してもらった。スキー場の山頂より少し下に位置する、コースの最奥部からの眺めはとてつもなく素晴らしく、南アルプスを一望に出来る。あと数日で溶けてしまうとのことだが、ゴールデンウィークでも残雪が確認できた。
それにしても、やたらバイクでエグイところばかり行ってる印象のあるOGAちゃんねるがコースディレクションしたということは、どこかにエグイセクションが潜んでいるに違いない。そういうところにはひっかかるまい、と思いつつ一人で視察を続けると、★4〜5のセクションでなかなかキツイ斜度の下りに出くわした。時すでに遅し、引き返して上るには助走が足りず、一旦降りきるところまでのそりのそりと降りることに。下から見上げると、上級ヒルクライムルートの全貌が露わに……。意を決してスロットルを全開にするものの、ところどころ罠のように出てくる段差で体勢を崩してぱたっと倒れてしまう。そのたびに下まで下って再挑戦すること数えきれず。上れなければベースに帰れない。歩いて帰るとか、現実的ではない。何度か雄叫びを一人であげながら、次第に完登ラインが仕上がっていった。これは、走りごたえ十分すぎる。
その後に見つけたラインは、さらに難しそうでまったく歯が立たない気がしたので、一人でアタックするのはやめておいた。だいたいそういうラインが3本くらいある。もしかしたらセロー700使いのtacさんなら上れたりするのかもしれないし、ポル・タレスならウイリーしたまま上るのかもしれない。僕にはちょっとムリだ。仲間ときたら、きっとすごく楽しいだろう。
星に手が届くキャンプ場で、バイクサウナに興じる
さらにONTAKEの素晴らしいところは、広々としたキャンプ場が併設されていることだ。標高2000m近い位置にあるから夜の星空はとんでもないことになっているし、トランポで車中泊することも認められていて、自由度が高い。真夏でもこれだけ高いところにあれば寝苦しさとは無縁のはずだ。
そこで僕らが提案したいのはバイクサウナである。バイクサウナというのは、バイクと共にサウナを楽しむというOff1.jpが独自に提唱している造語だ。こちらの記事では、バイクでテントサウナを持ち込んでサウナに興じてみた。またこちらの記事では、エルズベルグロデオの会場隣でオーストリアのサウナを楽しんだ。特に定義はなくて、バイクと一緒にサウナを楽しめればそれはバイクサウナである。
今回僕らが持ち込んだのは、Amazonで手に入る低価格のテントサウナだ。テントサウナの黎明期から楽しんでいるので、まだ価格の落ち着かない頃に買った10万円するバックパックサウナを持っているのだが、このONTAKEにあわせてテントサウナを買い足し、薪ストーブと、薪60kgほどを積み込んできた。良質なサウナはどんなものか、と最近ではテレビだやYoutubeで山ほど意見が出てきているけれど、黎明期から楽しんでいる僕に言わせればサウナの質はシチュエーションに左右される。最高の環境が整えば、自律神経も整うのだ。
用意してきた薪には、いい香りがすると薪屋さんに言われた桜の木が混じっていた。これを持参したオガライト(五右衛門風呂などに使われていた旧時代の再生材による薪。ものすごく効率がいい)を混ぜ、ゴウゴウと音が鳴るほど高温に炊く。薪ストーブの上には、御嶽で拾ってきた火成岩を山ほどのせておき、蓄熱性を高めロウリュできるように整えておく。準備には1時間以上がかかるが、これがいい。自分が作った熱で身体を温めるという行為が、なんと尊いことか。
水風呂は野菜を洗うための巨大たらいを持参した。しっかり冷えた井戸水を張っておき、熱々になった身体をつけ込むと、キブンはキャベツである。空には満天の星、実に贅沢だ。子供はたき火でマシュマロを焼き、大人は肉を焼く。夜は更ける。
御嶽神社、おんたけ自然湖、こもれびの湯、ララカレー
何もない、と思っていたONTAKE付近は、実はなかなか見所のあるものも多かった。まず、なにはともあれ御嶽神社だ。ONTAKEのベースから、さらにクルマでスキー場沿いの公道をのぼっていくと、御嶽神社にたどり着く。ここは霊峰御嶽の登山口で、立派な主峰を望むことができる。2017年の噴火以来、山は閉ざされてしまっているけど、隣接しているビジターセンターはこの王滝村と御嶽山を知るのにとても素晴らしい施設だ。朝方、キャンプ地からこの御嶽神社に向かってランニングをしてみたけど、ちょっと斜度がきつくて1/3あたりで諦めた。とても気持ちがいい朝で、低酸素トレーニングにもうってつけだなと思った。
御嶽の噴火で生み出された新しい自然湖というのが、新たな観光地として有名になりつつあるという。行ってみると、北海道でみたような緑色のとても美しい湖だった。自然湖は御嶽湖にもつながっており、SUPなどを楽しむにもとてもよさそうだ。上流にはダムがあるため、ツアーを利用して安全な範囲で楽しむのがいいと思う。
サウナが苦手ならば近隣のこもれびの湯を訪れるといい。御嶽の別荘地にたたずむ小さなこの公共温泉は鉄分たっぷりの滋養のありそうな湯で、素晴らしい。スーパー銭湯が大好きな我が息子たちも、一風変わった風呂に満足そうであった。
周囲はご飯を食べられるところが限られているが、絶品のスリランカカレーを出すララカレーがおすすめだ。パリパリしたハードナンと野菜と一緒に食すか、つけめんとして食すか選ぶことができる。子供にはちょっとおすすめできないくらいスパイシーで、とても奥の深い味がする。
都心から90分範囲内でゴールデンウィークを堪能しようとしたら、たぶん大変な人出に悩まされることだろう。でも、3時間かけてONTAKEまで行けば、ゆったり自然とバイクを堪能することができる。子供達も、奥さんも満足することが(たぶん)できる。オープンは6/11とまもなくだ。