世界に先駆けてスタート!

JP250のレポート<https://www.autoby.jp/_ct/17618559>でも少し触れた、JSB1000クラスの使用燃料の変更について少し書きます。
すでにレース界では、22年最終戦のMFJグランプリで公表され、春のモーターサイクルショーでも一般発表があったとおり、23年からの全日本ロードレースJSB1000クラスは、世界に先駆けて100%非化石由来のバイオレーシング燃料を使用する2輪レースとなります。

いま世界のモータースポーツをはじめ、クルマ&バイクや一般産業も含めて脱炭素ってキーワードがクローズアップされていますよね。いわゆる、カーボンニュートラルです。
今までのガソリン使って内燃機関を動かす→有害排気ガス出ちゃう→それなくさないとね、どーする?電気にする? 水素にする?って流れです。さらに燃料を精製から使用までの工程でも大気中のCO²濃度を増やさない、というのもカーボンニュートラルです。

ガソリンを使ってエンジンを動かす→燃焼させると、窒素/水蒸気/二酸化炭素=CO²を排出します。それに伴って窒素酸化物/炭化水素/一酸化炭素/粒子状物質/硫化酸化物、そしてCO²を排出してしまうから、地球温暖化やオゾン層破壊、酸性雨が起こります、と。これがどう環境に作用するかは、ちょっと調べてみてね^^。

画像: ドイツ ハルターマン・カーレス社のETSリニューアブレイズ・ニホンR100というレース燃料です

ドイツ ハルターマン・カーレス社のETSリニューアブレイズ・ニホンR100というレース燃料です

そんな中、全日本ロードレースは23年から、100%非化石由来、つまり今までのガソリンじゃない燃料を使ってのレースとして始まりました。それがカーボンニュートラルフューエル(=CNF)。直訳すると脱炭素燃料、って意味ですね。
たとえばクルマのレースでも、F1では2026年からCNFを使うと発表されていますし、日本のレースでも、SUPER GTは23年からCNFを使用します。そしてF1の世界では、実は「21年シーズンにCNFを実用化していた」とホンダが公表したこともありました。

中の人も、最初にMFJグランプリでの発表を聞いた時には「うえぇぇ、たいへん! じゃぁエンジンとかもそっくり変えなくちゃいけないんじゃ?」って思ったんですが、さにあらず。今までのマシンで、今まで使ってたガソリンのかわりにCNFを使うんです。もちろん、エンジン側の変更は、主に点火系のマッピングで、これは最小限で、ということでした。

今シーズンから全日本ロードレースJSB1000クラスで使うCNFは、ドイツのハルターマン・カーレス社のETS RenewaBlaze Nihon R100というもので、植物ごみや木材チップなどのバイオマスを原料とする特殊燃料。ETSというのは、ハルターマン・カーレスのレース用燃料ブランドです。

画像: 代表的なプライベートチームといえばSANMEI Team TAROPLUSONEの関口太郎 しかも事前に試験データを取っていないBMWを使用しています

代表的なプライベートチームといえばSANMEI Team TAROPLUSONEの関口太郎 しかも事前に試験データを取っていないBMWを使用しています

JSBクラスでは、23年シーズンからこれを使用することを義務付け、その仕様変更データなどは主催者と参加4メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)が提供する、と。ここにひとつ目のポイント。ドゥカティ、アプリリア、BMWがまず蚊帳の外ですね。

実際、CNF化を発表する前に、4メーカーや主要チームでCNFでのテストを実施したところ、仕様の小変更で対応できる、とも発表されました。これはベンチテストが主なもので、実走テストではなかったようです。

そして、CNFが実際にエントラントの手に渡ったのは、23年の年明け。全日本ロードレースのシーズン前テストで初使用、というチームが多く、そこで実際のCNF使用感が分かった、というものです。ここがふたつ目のポイント。準備期間が短い、短すぎますよ。

実際に使用したチームのエンジニアに話を聞きました。これ、どういった影響があるかわからないため、匿名を条件に話してもらったものです。
「データで提供されたマップ変更をすると、問題なく走る。それはガソリンを多く吹く方向にね。ただし、問題なく走るというレベルではあっても、パワーダウンはあるし、高回転で伸びないし、ライダーによるとドラビ(=ドライバビリティ 出力特性やパワーフィーリングの意味)が悪い、と。アクセルのツキがボヤッとしていて、特にアクセルオフ時にエンジンブレーキのフィーリングがよくないから、そこはライダー側が変えていかないとね、とは話しています。マシン側はシフトポイントも変わるし、シフターも反応が良くないし、制御もトラコンもすべて見直ししないといけなかった」
一般の人にわかりやすく、とお願いしたら(笑)、走りはするけど今日エンジン調子悪いな、チョーク引きっぱなしで走っているかな、マフラーがフンづまりしているような感じ、ということでした。

画像: チャンピオンマシンYZF-R1にもCNFの影響は少なからずあります 本文中の談話とは関係ありません

チャンピオンマシンYZF-R1にもCNFの影響は少なからずあります 本文中の談話とは関係ありません

続いて、そのCNFを使用した後。これは、あるチームのメカニックの方に話を伺いました。
「CNFはまず、走行後にオイル量がドッと増えます。燃料の燃えカスが落ちてオイルに混ざるのかな、たとえば1Lのエンジンオイルが、1走行30分とか走ると1.3Lになったりする。フレッシュオイルを入れても1走行でかなり汚れるし、そのオイル+燃料残量混入分は粘度が低くてシャバシャバ。この状態でエンジン内部パーツにダメージがあるかどうかがわからない。エンジンオイルが増えるってことはオイル成分が薄まるってことで、エンジンにダメージがあるのは想像できるけどね。それはやってみないとわからないのが実情」
これはオイルダイリューションという現象だそうで、燃え切らなかった燃料が揮発せずにエンジンオイルに混ざってしまうこと。オイル性能が劣化することで、エンジン内部へのダメージも心配されているようです。

画像: 全日本ロードレースJSB1000開幕戦・レース2のスタートシーン

全日本ロードレースJSB1000開幕戦・レース2のスタートシーン

そして開幕戦。CNFで走っている現場にいると、コースから少し離れたコースサイドにいても独特のにおいがします。臭い、とひとことでは言いづらいのですが、ガソリンのようなシンナーのような、なんだか甘ったるいようなにおい。湿布の匂い、って声もありました。
これは燃焼後にマフラーから出るにおいでもあるし、使う前のCNF本体のにおいでもあります。開幕戦の舞台・モビリティリゾートもてぎにいて、JSB1000クラスのチームピットだけ、JSB1000クラスが走行している時間帯にだけこのにおいがするので、なんだかヘンな感じ。ST1000クラスはこれまで同様、一般のガソリンスタンドで買えるハイオクガソリンを使っていますからね。

画像: ちょうどマシンに給油中だったTOHOレーシング これも本文中の談話とは関係ありません

ちょうどマシンに給油中だったTOHOレーシング これも本文中の談話とは関係ありません

さらに先ほどのエンジニアさんの話。
「データ提供を受けてマッピングを変更してテストしたんだけど、CNFはアルコールが主体らしくて燃えにくい、揮発しにくい特性があるんだと思う。だからパワーがボヤッとして感じるし、燃え切らずにオイルに混入する。4メーカーはメーカーでテストしてくれているからデータはあるけど、外国車はテストデータもないし、オイル混入量が多いマシンも少ないケースもあるんだって聞いた。オイルの混入は、特に低温時に起こりやすいみたいで油温を上げ気味に走るように指示があったね。気温、路面温度、それにラジエター目張りの量とかも、データとっていかないと。オイル混入は、400ccまでは増えてOK、800ccになったら交換、って指示もある。推奨される走行200kmでオイル交換だと、オイル管理やどのタイミングでオイルチェックするか、とにかく今までやったことがない作業が増えて困惑してる」

ちなみに購入価格ですがCNFはリッター約1500円。それが、メーカー補助があってリッター500円弱くらいで買えるのだそうです。昨年までのハイオクガソリンだと、サーキットで買うと街中のスタンドよりちょっと高くて200円くらいだったとも。ここで約2倍ですね。

オイルに関しては、JSB1000クラスのチームはオイルメーカーサポートが多いけれど、実際にお金を出して買っているプライベーターも少なくないから、オイル代も負担増。それより、やはりオイルの取り合いで、供給してもらえるオイルがなくなっているんだとか。話を聞いたチームでは、次戦の鈴鹿2&4までの分は確保しているけれど、その先は未定だ、とも。

画像: 特に秘密の物ではないので、ピット裏で見ることができる光景です

特に秘密の物ではないので、ピット裏で見ることができる光景です

ちなみに世界のほかのモータースポーツのCNF使用への取り組みは、MotoGPは2024年から40%、27年から100%へ、WSBKは24年から40%にする、と発表されています。
クルマのレースではF1が2022年からすでにCNF10%となっていて(エタノールが10%添加されているE10燃料ですね)、26年から100%へ。WRCは22年からすでに100%、日本のスーパーGTは23年からと発表されていましたが、テスト不足を理由にGT300クラスのみ、開幕戦からの使用を控えてシーズン途中から100%に切り替わるようです。

いわゆるワークスチームばかりの選手権でも、段階的にCNFへと切り替えをしているのに対して、ワークスチーム、セミワークスやプライベーターが混在する全日本ロードレースで、最初から100%切り替えることに関して、やはり準備期間が短すぎたのではないか、とみんなが思っているのが実情です。F1ですら、2030年までにF1マシンから排出されるCO²の量を実質ゼロにする、と目標値を挙げているのに――。

モータースポーツは技術開発の面を持っています。CNFが環境にいいのは間違いないことなのでしょうし、モータースポーツの車両が電気とモーターによって行われることに抵抗がある人はたくさん。ならば、いま問題があるからと言ってやめちゃおう、とする方向に行くのはもったいない。

CNFは、モータースポーツをはじめ、バイクやクルマという一般の社会のモビリティの、未来につながる方策なのは間違いないはずです。そうでなければ、きわめて近い将来、道を走っているのは電気自動車ばかりになってしまうし、だからこそEUはCNF燃料車のみ販売継続OK、との方針を打ち出しました。

だからこそ、性急にことを進めずに、段階的にすすめられなかったものかなぁと思うのです。クルマのレースより先に、MotoGPより先に先進的なことをやりたい、とでも考えたのでしょうか。それならば、CNF導入より先にやることはたくさんあるはずです。

画像: 世界に先駆けてスタート!

写真・文責/中村浩史

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