関東の草モトクロスレース「ヒーローズ」にはまりつつある編集部の体験記。開幕戦のみなさんの写真もありますヨ
自分のレース以外の時間は、写真を撮影していました。ご自由にお使いください!(撮れてない人、すみません)
怖いからやんねぇ
僕、ジャンキー稲垣は2000年の大学生時代にオフロードバイクを買ってしまって以来、どっぷりオフにはまって2002年にはオフロードバイク誌の編集部の扉を叩いていた。気づけばそれから20年、日本でも珍しいオフロードバイク専門の編集者としてなんとかご飯を食べてきた。専門の編集者というからにはばっちり乗れるんだろう、と思われがちなんだけど、実は自他共に認める20年来の永遠のビギナーです。一番印象的なのは公私ともに業界の大先輩として仲良くさせていただいているオグショーの社長、小栗伸幸さんにあるレースで「びびるくらい遅い。あんなにアクセルあけられない人は初めてみたよ」と言われたこと。もう少し歯に衣というやつを着せてもよろしいのではないでしょうか。ただ、この評価は正確で、運動神経のいい人ならオフをはじめてだいたい3回目くらいで僕を抜ける。20年を3日で抜かないでいただきたい。
上達しない理由は自分でもよくわかってる。怖いからだ。転んで痛いのも嫌だ。だからモトクロスなんてもってのほかだった。怖いんでモトクロスから逃げてエンデューロっぽいことばかりをやってきた。でも、エンデューロも急な下りとか怖いし、丸太も怖い。僕はライテク記事は人生で100回では効かないほど量産してきているんだけど、それと自分がやるのとはまったく別だ。知らなければ出来ないから記事を提供するのだが、知っていても出来ないこともあって、いざ自分がやるとなるとライン取りすらスーパー下手だ。トライアルライダー藤○慎也をライテク記事に起用し、いまや彼のニックネームにもなっている「ぶっ刺し」という言葉を生み出したのは僕だけど、ぶっ刺すことなんてゼッタイにできない。一生できない
とにかく怖いからやんねぇ、と言い続けてきたわけだが、タイムがわかるデジタルデバイスの助けもあって2年前くらいからちょっとずつタイムを出すのが面白くなってきていた。そのためならジャンプの恐怖にだって打ち勝ってやる、と息巻き、なんとかモトクロスビレッジ(埼玉県にある小さめのMXトラック)の小さなジャンプを飛べるようになった。小さなジャンプでも飛べるようになると、モトクロスライダー達の末席に座れたような気がして嬉しい。おれジャンプ飛べるんだぜ! と自慢して回りたいが、証拠写真をみるとめちゃくちゃダサくてしんどい。
ともあれ気を良くした僕は、昨年からヒーローズという関東周辺のコースを転戦する草レースシリーズにちょこちょこと出るようにしている。たぶん、僕を昔から知る人にいま草モトクロスに出てると言ったら、信じられないという顔をするはずだ。「そういうタイプじゃなくない?」と。僕もそう思う。クラスはフルサイズバイクで最も初級者向けの、ライツノービス。僕の目標は目下ひとつ上のミドルで走れるようになることだが道は遠い。
今度はスタートが怖い
1月22日という冬真っ盛りの日程で開幕してしまうのが、このヒーローズである。僕らはMFJなどのメジャーレースが始まるとほとんどの土日が取材で埋まってしまうので、むしろ今がオンシーズンだ。シーズン終盤か、序盤だけが僕らに与えられたお楽しみの時間というわけである。極寒の日程でも、開催されているだけでとても感謝している。
10年来の大寒波が来る、とニュースで言われる数日前だからそこそこ寒い。モトクロスビレッジは一見ベストコンディションに見えるのだけれど、掘り起こされた地面のその下には、てっかてかに磨かれた氷の路面があって朝の内は体験したことがないコンディションだった。コーナーはモトクロスビレッジらしいざくざく路面でとても調子がいいんだけど、ストレートがつるつる滑る。しかしそれも、次第に氷が溶けてベストコンディションになっていった。
実は昨年の11月に同じヒーローズに出たとき、隣の人がスタートで捲れ、それに巻き込まれてクラッシュしてしまった。草モトクロスでは良くあることなんだけれど、それがトラウマになってしまって、元々怖かったスタートがさらに怖くなった。モトクロスっていえば、スタートゲートを使った緊張感あふれるスタートこそ醍醐味!! のはずが、最も苦手なのがスタートになってしまったのである。それから4回レースに出てるんだけど、どのヒートもスタートは失敗。むしろ、スタートで出遅れたことに安堵するような精神状態である。お、これで巻き込まれないな、と。
今回もどのヒートもほとんど最後尾からスタートした。早めにゲートピックできるよう列に早く並んだにも関わらず、アウト側を選んだ。アウト側なら巻き込まれないからだ。
いいレースとは何だろう
実は前週にビバーク大阪の立脇三樹夫さんからアドバイスをいただいていた。立脇さんは80年台のカワサキファクトリーライダーで、最近は関東と大阪を行ったり来たりする生活を送っていて、ビバーク大阪に勤めているのにしょっちゅう埼玉県のモトクロスビレッジで顔を合わせている。立脇さんは僕に「大きく身体を動かした方がいい」と教えてくれた。僕はそのアドバイスを、もっと大きなラインをとれ、という意味だと拡大かつ飛躍して解釈し、そのように走ってみたところとてもイイ。その日はモトクロスビレッジで1分00秒台に初めて入った。立脇さんに「最近レースが続いてて、イン側を抑えようとして走ることばかり意識がいっちゃってました。大きく身体を動かすと、アウト側のラインも見えてきてスピードもあがりましたよ!」と報告すると「その繰り返しなんですよ。たしかにインを守らなきゃいけないのも事実なんですが、それだけだとつまらないし、スピードが上がらない。気持ちよく走れるアウト側でしっかりスピードを磨いて、レースの要所要所でインをしめていきましょう」と立脇さん。ふむふむ。なるほど。なんだ、アウト側走ってもいいんじゃん。
ヒート1。前述通り安定の最後尾スタートから、1〜2コーナーで2台くらいさばきながら少しずつ上位を狙う。ヒーローズもこれで3戦目、モトクロスビレッジのバトルというものが少しずつ見えてきた感がある。S字で抜けなければその2つ先のコーナーでアウトからかぶせる、あるいは早めにインにつく……てな具合にビギナーなりのセオリーができている。これを組み合わせながら、前を走る相手の弱点をしっかり観察して仕留めていくのだ。めっちゃ楽しい! いつもパドックを一緒にしてもらっている旧来の友人であるワッシーさんや、ちょうど近くまで来ていて顔を出してくれていたエンデューロライダーの池田智泰さんにも「楽しそうに走っててよかったよ」と褒められ、有頂天である。
ヒート2もしっかり最後尾からパッシングしていく作戦(じゃない。そもそも出遅れたいわけではない)が功を奏したのだが、後半に背後から2ストの軽い音が聞こえてくるようになった。赤いバイクにつつかれている……。こういう時こそスピードに乗るラインをとろう! とアウトにはらんだ瞬間さくっとBetaの2ストロークがインをついていった。まだラストラップじゃないし、もう一度抜き返そうと思ったのもつかの間、ぐいぐいBeta乗りさんは離れていく。そもそもスピードがまるで違うじゃんよ。
というわけでヒート1は4位、ヒート2は6位。なんせたくさんバトルした。パッシングもクリーンに出来ていたと思う。最高に楽しい。モトクロス楽しい。これまでのヒーローズは、コーナーで抜かれる恐怖から、イン側を守り続け、あげくの果てにフォームもすごくちぢこまった走りになってるなーと思っていた。そういう時は、だいたい前の人を抜けずに終わる。それに比べると、ライン取りの幅が増えただけですごく楽しく感じるようになった。
このレース、実はかつてダートスポーツ誌の先輩であるバトン大塚さんも参戦していて、ひそかに「そろそろ大塚さんに勝負を挑めるんじゃないか」と思っていたのだけど、ミドルに参戦した大塚さんがさくさく1分フラットのタイムでまわっていたのに対し、僕は1分3秒くらいでぜーぜーしていた感じ。まだまだミドルも大塚さんも遠いぜと思ったのでした。
いつもパドックをご一緒いただいているワッシーさん(ではなくそのワッシーさんのアイコンであるところのエテ吉を弄ぶ僕の息子)