過去に類を見ないほどのスピードレースであり、さらにはナビゲーションも非常に難しかったダカールラリー2023。この過酷なレースを67歳でフィニッシュした男がいる
1985年からダカールラリーに挑戦してきた67歳のフランコ・ピコが、2023年のダカールラリー全行程を走りきり見事に完走した。1955年生まれ、1976・1978年にはイタリアのモトクロス選手権でチャンピオンを獲得。ダカールラリーについては1985年の30歳時にヤマハXT600でクラス3位。1988年と1989年にはYZE750で2位を獲得。ファラオラリーでも2度の優勝経験があるラリーレジェンドだ。1996年からは四輪、2005・2009年にはカミオンのナビとしても活躍しており、ダカールに2023年を含めて29回も参加してきたという世界でも類を見ない強者である。
ピコはファンティック・レーシングチームに所属しており、2022年に発表されたばかりの市販車ファンティック製ラリーマシンXEF450FACTORYでサウジアラビアの砂漠に挑んだ。ラスト2日では右手親指を骨折しているものの激痛に耐えながら走り抜いたという。
「レーシングチーム、開発チーム、メカニックたち、FANTICのみんな、そしてSNSで応援してくれた世界中のファンに心から感謝しているよ。一方でチームメイトの結果は残念だった。ダカールでは落とし穴が常に付きまとい、それを事前に察知することは決して容易ではないからね。1年かけてここまでたどり着いたのに、ちょっとしたことであきらめざるを得なくなる。でも、それがダカールなんだ」
同ファンティック・レーシングチームからはイタリアエンデューロ界を代表するレジェンド、アレックス・サルビーニもダカールラリーに初参戦しているものの、あまりに激しいレースにステージ8でリタイア。もう一人のチームメイト、ティツィアーノ・インテルノに至ってはステージ1で離脱している。
「ラリー中は何度もトラブルに見舞われ、厳しい局面も少なからずあったが、歯を食いしばって耐え忍んだ。無理をして先を急ぐよりは完走して結果を残すべく、順位を気にしないで走ったんだ。
悪天候が続き、レース・ペースを保つことが非常に困難な日々となったが、極限の状態でマシンをテストできたといってもいいだろう。テストは成功し、マシンは非常に信頼性が高く、またスピードもあることが証明された。過去2年間(2022年にもピコは同じ体制でダカールラリーに参戦)にわたって重ねられてきた経験が、ファクトリー・モデルにきちんと反映され、それが正しく機能したことは本当に喜ばしい。
レース中盤からは、他のイタリア人ライダーとタッグを組んで、最も困難なセクションでは互いに助け合いなが らマシンを前へと進めてきた。親指を骨折したとき、診察したドクター(医者)がレースを断念するよう勧めてきたけれど、あと2日、ゴールまであとわずかのタイミングで、僕は到底レースをあきらめることなんてできなかった。医者のいうことも聞かず、まるで犬ころのように苦しみながら走ったけど、ついにここ、フィニッシュラインにたどり着くことができた。そう、やり遂げたんだ!」とピコ。ベテラントロフィーというクラスで8位、二輪全体で72位と輝かしい成績を残している。
ピコが駆ったFANTIC XEF450 FACTORY。市販車にはデジタルデバイスが装着されており、本格ラリーからいわゆるトレイルツーリングにまで用途を広げられそうな装備になっている