EICMAにてあのビモータからエンデューロマシンのコンセプトモデルが発表された。カワサキKX450をベースに作られたビモータBX450だ。このマシンを読み解くには、現代のエンデューロを知る必要がある
bimota
BX450
ドカティやヤマハなど様々な銘機とよばれるエンジンを、独創的なフレームに載せることでハイエンドクラスのロードスポーツモーターサイクルを創りだしてきたイタリアのビモータが、EICMAでエンデューロモデルを発表。2019年にカワサキがビモータブランドの再生支援に乗り出してから早3年目、初のオフロードマシンを開発した。トライアンフをはじめとするロードスポーツで名を馳せてきた欧州のブランドが、モトクロス・エンデューロマシンの開発を次々に発表していく最中のことである。
エンデューロは長距離を走る競技と理解するべきだが……
オフロードバイクを使ったレースは、ざっくりとトライアル、モトクロス、エンデューロ、ラリーとに分けられる。トライアルだけは不整地の走破技術を競う競技のため根源が違うのだが、それ以外の競技における重要な違いは「距離」だ。とりあえず「長い距離を走るモトクロス」はだいたいの場合、エンデューロと呼ばれてきた。かなりおおまかだが、実際それで合っているとも言える。
ただ、これを競技の内容ではなく「使う車両」に目を向けてみると話は少し複雑になってくる。エンデューロ向けのモデルであるエンデュランサーは公道でナンバーがとれるストリートリーガルである必要がある。なぜなら、オンタイムエンデューロと呼ばれる競技ではサーキットだけでなく、一部公道を利用する場合があるからだ。EUではこのオンタイムエンデューロという競技に対して法律側の理解が得られているため、法令上エンデューロモデルという区分けが存在する。市販のトレールモデルとは違った規制が適用されるため、モトクロッサーをベースとしたようなモデルであっても公道走行できるのである。
エンデューロを構成する大きなふたつのカテゴリー
1.クロスカントリー モトクロスコースやオープンフィールドで耐久レースをおこなうもの。一斉スタートで周回数を競う
2.オンタイムエンデューロ テスト区間で1台ずつタイムを計測、その積算タイムを競うもの。しばしばテスト区間どうしをつなぐ「ルート」に公道が含まれる
この、オンタイムエンデューロに出てくるルート上にある公道の存在こそが、エンデュランサーをエンデュランサーたらしめている。クロスカントリーにはクロスカントリー用のレーサー(公道走行不可)が用意されている。KTMであればXCシリーズにあたり、ヤマハであればXシリーズがそれにあたる。クロスカントリーバイクはモトクロッサーにリア18インチタイヤを装着し、サスとエンジンのセッティングを長距離走行に合わせてマイルドにしたものだ。競技の性質上、本来はサイドスタンドは不要なのだが、どのブランドもサイドスタンドをつける習慣がある。そんなクロスカントリーバイクとエンデュランサーは混同されがちだが、各メーカーは明確にこれをわけているし、マシンの性格もだいぶ違う。クロスカントリーバイクのほうがエンデュランサーよりもだいぶパワフルで、よりモトクロッサー寄りだ。
国産4メーカーはエンデュランサー市場からほぼ撤退している。ヤマハが古くからWR250/450Fをリリースしているのだが、これはオンタイムエンデューロがおこなわれる欧州では現在ナンバー取得を前提としておらず、もっぱら規制が緩やかな豪州・北米でトレイルライド向けに使われている。2019年にはエンデューロGPにファクトリーチームを有していたヤマハだったが、ここからも撤退。理由はやはり公道を走れるエンデューロマシンを持っていないからだ。一方、イタリアの企業HMがホンダCR/CRFシリーズをモディファイしてエンデュランサーに仕立て上げた車両を販売しているが、これは日本のホンダの戦略とは一切関係のないものだ。
今回のビモータはKX450Xをベースとしたエンデューロバイクということだが、実はこのマシンからは現在のエンデューロマシンに対するマーケットの反応が見えてくる。
なぜビモータはビッグタンクを選んだのか
さて、前置きが長くなったが、今回コンセプトモデルとして発表されたビモータBX450をみていこう。親会社であるカワサキKX450をベースにビモータが開発したエンデューロバイクはスペックにはユーロ5適合とあり、公道走行を前提としたマシンとして紹介されている。
シャシー、エンジンをKX450と共通にしたパッケージで、外装をビモータカラーとした仕様。KX450ベースのクロスカントリーバイクKX450X同様にリア18インチ化、サイドスタンドが装着されているのが特徴だ。KX450Xをベースとしている、と解釈してもいいかもしれない。
サイレンサーは名門アロー社製に換装されているが、エキゾーストパイプはKXのものをそのまま使用していると推測される。
車体剛性を調節しやすいエンジンマウントまわりにも手が入っている兆候は見られない。基本的にはKXそのままのパワフルなエンジンと車体の素性の良さを継承したモデルと言えそうだ。
公道走行を想定しているためスピードメーターやウインカースイッチが装着されている。左側のGET製デバイスを見る限り、ECU関連にGET社が参画し、エンデューロに適したマッピングを手に入れているのだろう。なおこのGETのデバイスはトラクションコントロールのためのセッティングノブである。
ライトカウル、ハンドガードが標準装備なこともエンデューロモデルの「しきたり」だ。
と、ここまでしっかりエンデュランサーとして開発されていることを説明してきたのだがエンデュランサーの文脈では解せないのがビッグタンクである。
10.7Lの容量を誇るビッグタンクにはビモータのロゴが入っているのだが、実はエンデュランサーにビッグタンクは不要だ。オンタイムエンデューロでは給油するためのチェックポイントが設けられており、通常のモトクロスと同様のタンク容量があれば十分にレースに対応可能だ。むしろビッグタンクが必要なのは、周回に対する給油回数を減らすことでタイムを稼げるクロスカントリーの方なのである。どのメーカーもエンデュランサーにビッグタンクを装着したりはしない。モトクロッサーのままでは心許ないので、少し大きめのものを採用することはあるけれども。
オンタイムエンデューロが盛んなわけではないが
エンデュランサーが世界で求められている
BX450のビッグタンク採用こそが、現代のエンデュランサーにマーケットが求めているものを反映していると言ってもいいだろう。
10年前、エンデュランサーは欧州のものだった。オンタイムエンデューロに参加するというよりは、トレイルライディングを楽しむためにサンデーライダーたちがこぞって買い求めていた。本来の使用用途からは離れるが、トレイルバイクに比べてハイパワーで軽量なエンデュランサーは若手からレースを引退した老齢のサンデーライダーまで、幅広い層に受け入れられた。同じような状況は日本にもあって、現在全日本エンデューロにおいてナンバーが必要なレースは北海道ラウンドだけ、地方選でも公道を使うオンタイムエンデューロは非常に珍しいにもかかわらず、エントリー台数の何倍ものマシンがナンバー登録されているという。
この状況に拍車をかけたのが北米のトレイルブームだ。20年前のアメリカでオフロードと言えばオープンエリアでXR600Rをかっ飛ばすシーンが思い浮かぶかも知れないが、今はそうではない。オフロードの主戦場はトレイルに移っていて、欧州と同様に公道を挟みながら次のトレイルへ向かうというようなルートを走るのが一般的だという。つまり、日本以外のブランドから販売されているエンデュランサーは、現在世界各国で引っ張りだこ、という状況なのである。
なお、トレイルライディングやツーリングで求められる航続距離は、ユーザー自身がビッグタンクの装着で解決してきた。ビモータがエンデュランサーにビッグタンクを装着した理由はここにあるのだろう。公道を利用したトレイルツーリング向けのベースマシン、ではなく買ってそのまま出発できるトレイルツーリングマシン。今、エンデュランサーはオンタイムエンデューロにとどまらず、幅広くオフロードを楽しみたいホビーライダー向けのマシンとして、進化し続けているのだ。