日本でも待望のBeta23年式モデルがデリバリー開始。富山県のスキー場イオックスアローザでBetaのラインナップ中もっともセールスのいいRR2T 250/300に乗る機会を得た
2スト250/300の立ち位置
Beta
RR2T250
1,170,000円(税別)
Beta
RR2T300
1,190,000円(税別)
※RR2T250はリーガルキット、通関証明、譲渡証明が付属し、ナンバー登録が可能
※RR2T300 は競技専用車となり、ナンバー登録はできない
ここ数年、オンタイムエンデューロの世界選手権であるエンデューロGPでBetaは常勝ブランドである。スティーブ・ホルコム、ブラッドリー・フリーマンという二大スターライダーを抱え、今年も最大排気量のE3クラスでRR2T300を駆り、フリーマンは8度目の世界タイトルを手にした。
現代の2ストローク300ccの用途は変幻自在だ。フリーマンのように世界タイトルを狙う強烈なパワーを求める人にはもちろん、2ストローク特有のアタック感の軽い低速域を延々使いながらトレッキングマシンのように使うこともできる。2000年代序盤、環境問題に端を発して始まった4ストローク化だったが、2020年代に入った今、2ストロークへの回帰は10年代にも増して進んでいる。現在では欧州ブランドのほとんどにおいて、2スト250/300のシリーズがもっとも売れるセグメントに成長している。
つまり今のエンデューロのスタンダードは2ストローク250/300だと言ってしまうこともできるだろう。分離給油で250ccならばストリートリーガルとしても活用できるため、オフロードツーリングを志向する層にもBetaは人気がある。セローやCRF250Lを乗ってきた人が、もう少しステップアップしたい、そんな声に応えられるほどに懐が深い。もちろん全日本エンデューロのトップだって狙えてしまう、そういうマシンなのだ。
すさまじく乗りやすい、トルキーシルキーバイク
「Betaらしいバイクですね。エンデューロレーシングっていうよりはエンデューロ的なフリーライディングが楽しめるバイクだと思いました」ビッグタンクマガジン編集長の春木氏は、RR2T250についてまずこう教えてくれた。先にOff1で公開しているRR2T125/200の記事内で触れている「Betaは“プレイバイク”というキャッチフレーズを使ってきた歴史があるのですが、これもBetaを語る上で忘れられない大事な特徴ですね。レースで上を目指すライダーにはレース用の“レーシング”というグレードをチョイスできるようになっていて、スタンダードモデルはエンデューロだけでなくフリーライドやトレイルなど「プレイ」ライディングを楽しむ人たちに、リーズナブルでいいマシンを提供しようというメーカーであると思います」という言葉がまず前提になっている。
「250と300は、キャラクターが似ているようで実は違っています。250はどっちかというと回転の上昇が早くて、低回転から中回転のトルクカーブが結構プログレッシブです。急激にトルクが出てくる感じがしますね。エンジンのツキもやっぱり250はいいですね。
一方300は排気量が大きいだけあってすごく太い低回転でのトルク、パワー感があります。大きなピストンを持つエンジンの低回転域って使いにくいことも多くて、綺麗に半クラッチを使わないとトラクションが逃げてしまうというようなことがあるのですが、そういった扱いづらさが全然ありません。300ccのエンジンは極低速での取り扱いが非常に楽で、これならどんなところでもトラクションを得られるなと感じました。数年前、RR2T250/300にはバランサーが装着されて低速で非常にスムーズになりました。一世代前のエンジンだと低回転のばたつきがタイヤに直接伝わってトラクションの不足に繋がったりします。300は特にこのバランサーの出来がよくて、非常にスムーズですね。
2ストロークの250と300は、今の世界的な事情でいうと300が人気になっていますよね。ハードエンデューロのムーブメントと直接的な関係があって、極低速でのトラクション性能では300ccが有利になりますから、助走の短いヒルクライムなどで強みを発揮するためです。日本の場合には、300ccは通常公道を走るように登録できないことが多いのでトレイルバイク的な楽しみをするなら250という選択肢になると思います
そうした人たちが300じゃないからがっかりするのかというと全然そんなことはありません。250でも非常に高いポテンシャルを持ってるのは間違いないです」
Off1編集部ジャンキー稲垣のゆるゆるインプレ
PHOTO/井上演
これはアガリのバイクなんじゃないか、最近の2ストローク250/300のエンデュランサーに乗るたびに僕はそう思う。
僕はかれこれ20年ほど前、2スト250のトレイルバイクでオフロードの世界に入門したんだけど、当時はトレールでもすごいパワーを感じて怖かった。こんなパワーをオフロードのどこで使うんだよ、と思ってたし先輩が乗ってたKTMの2スト360ccに至っては舗装路でも乗りたいと思えなかった。そんな時代のことを考えると、今の2ストはとにかく扱いやすくて、まるでトレイルバイクを進化させたかのようにすら思える。Betaの250/300には今までも乗ったことがあるのだけど、やはり今回も同じことを感じた。めちゃくちゃに乗りやすい。このバイクならどこにでもいけるっていう万能感がスゴイ。トレールユーザーは、まじで騙されたと思って乗ってみて欲しい。すんごい乗りやすいから。
最近モトクロッサーで少し開けることを覚えたので、250と300の違いもこれまでよりは鮮烈にわかるようになった。250と300は春木氏も言ってるとおり明確にキャラクターが違っていて、250はしっかり高回転まで回しながら走ることができるキャラクター。逆に300はだいぶ頭打ちが早いから、早めのシフトアップをしていかないと速度が乗りづらいなと感じた。まぁ残念ながら2-3速のハナシなんでトップライダーの3−4速のハナシとは違うんだけど……。音を聞いているとエンデューロGPの300はきっかり回りまくっているから、スタンダードの300とはまた違った性格なのかもしれない。
それとバランサーの効果も実に興味深いところ。今の2スト250クラスの乗りやすさはとにかくこのバランサーによるところが大きいと思う。YZ250FXは2022年モデルからバランサーの位相を変更することで、モーターのような無振動エンジンになり、これもまたどこからでも開けられるスーパーフレンドリーなエンジンになった。KTMの250EXCも2016年で同じ変化を遂げている。Betaの場合は2019年モデルでRR2T250/300にバランサーを投入。ただし、Betaの開発陣は当時「コーナーの出口や、スリッパリーな路面で加速する時、振動がないほうがスムーズに開けていけることがわかった。ただ、振動をかき消してコンフォートにしたかったわけではないから、ある程度の振動を残している。これはレーシングバランサーだから」というコメントをくれた。ロードバイクの世界でも、わざとパルス感を残してトラクションを向上させる270度クランクのバーチカルツインがメジャーになっている。いまや、振動ってのはチューニングの一つなんだろう。
バランサーによる振動の低減度合いは、KTMのほうがBetaよりもしっかりその振動を消しに来ているなと感じる。キャンバーターンなどで極低速のシチュエーションで僕が個人的にしっくりくるのはBetaの少しパルス感が大きめの回り方。バンバンバンとアイドリングするエンジンの呼吸を掴みやすく、スロットルを開けるタイミングがなんとなくわかる。一方で、より振動の少ないKTMエンジンはタイミングに関係なくどこからでも開けられる、というのもわかる。どちらがいいのかは正直判断に迷うところだ。
ビギナーが感じるレーシングエンジンの怖さ、とは実は振動やパルス感が大きいのではないか。いかにもパワーが出てそうなバン・バン・バンという迫力のある振動、脈動はマシンの怖さに直結するのだと思う。よりフレンドリーさを求めたのがKTM、レーシングバランサーを追求したのがBetaと個人的には解釈している。
250/300の外見上の違いはステッカーだけ。基本コンポーネントは共通
2019年にフルモデルチェンジを受けた車体とエンジン。それ以前からバランサー軸が入る余地がクランクケースにあった。ファクトリーマシンには2019以前からバランサーが装備され実戦でテストされていたとのこと
シュラウドは2022モデルからBeta全車種アップデートされており、先端部分にブーツが引っかかりづらくなった
ザックス製のF/Rサスペンションはスタンダードモデルに装着されるもの。全日本クラスでトップを狙うようなスピード域ならまだしも、多くのライダーに必要十分な減衰力・性能を持つ。動きも非常にスムーズ
マディ用モードの切り替えスイッチ。晴れの日用でも十分に扱いやすい特性