突如として発表された、ヤマハの新デバイス「EPS」がいよいよ一般公開された。Off1.jpでは開発者をインタビュー。このデバイス、ライダーがハンドルを操作したのか、路面で振られたのか、判断をしているのだという。
実は、すでに全日本を走っていた!
ヤマハ発動機 MS統括部MS戦略部 澁谷悠氏によれば、このEPSはすでに2021年全日本モトクロスSUGO大会でジェイ・ウィルソンが走らせていたとのこと。実際にSUGOの写真をみてみると、たしかにバーパッドがいびつな形をしており、EPSが入っていることを裏付けている。YZ250Fのエントリー名で、スタンダードマシンだとの情報だったが、先行開発品が投入されていたのだった。
元々研究部門で育った技術だったのだが、今回はYZグループとMS戦略部が合同で進めている全日本モトクロスのファクトリーマシンに対しての投入を決め、研究部門と3グループで共同開発したのだという。
こちらは、東京モーターサイクルショーで2022年の富田俊樹車として展示されていたもの(なお、富田俊樹車YZ450FMはフルモデルチェンジされていない。2018が最後のフルモデルチェンジで、2020でマイナーチェンジ。通例のサイクルであれば2022でフルモデルチェンジのはずだが、ご存じの通り22では見送り。23の先行型であることが多い22のファクトリーマシンがフルモデルチェンジされていないのは、ここ最近では異例である)。フレームは、このEPSにあわせてステーのようなものが追加されている。澁谷氏によれば、EPSの追加によってフレーム自体の剛性を偏向するなどのチューニングは、おこなっていないそうだ。
対して、SUGOにおけるジェイ・ウィルソン車はフレームには変更がないようにみうけられる。
ステアリングを補助し、抑制する。真逆の動作をさせるという凄まじいデバイス
このデバイスの凄まじいところは、見出しに書いたとおり、真逆の動作をさせていることだ。モトクロスにおいて重要なのは、路面のうねりなどによってハンドルが振られることを、抑制すること。だが、逆にステアリングをサポート、つまり切る方向にも動くのだという。モトクロスにおいて、ハンドルをライダーが切るスピードや、加速度と、路面によって振られて起きるスピードや、加速度。これをなんらかの閾値で判断し、サポートするか、抑制するか、出力を決めているのだ。
「ライダーの操作するトルクと、路面から入ってくるトルクをセンシングして、それに応じてダンパー的に動かすときと、アシスト的に動かすときを判断しています」と澁谷氏は説明する。この判断の手段は、技術的な案件で説明ができないが、こここそがこの技術のキモ。「従来のステアリングダンパーだと、抑えるだけだったんですが、このEPSではシームレスにダンパーとアシストを切り替えられます」とのこと。「ライダーが違和感を感じないところまで詰めるのが、難しかったですね」と澁谷氏。富田俊樹、渡辺祐介の場合は、このセットアップは異なっているとことだが、それは「1秒を争うレースだからです」とのこと。
開発要素もふんだんに含むが、武器として使えるレベルには落とし込まれているという。ジェイ・ウィルソンもすでにSUGOで結果を出しており、さらにもう1ステップ上げるために、今回の全日本モトクロス参戦を決めたのだそう。今季、ヤマハの富田・渡辺は非常にチャンピオンに近い位置にいることになるが、その助力となるか否か。HSR九州の開幕が今から楽しみだ。