いま、全日本モトクロスでトップ争いを繰り広げているライダーは、みなキッズの頃から話題だった。あの地方の、あのライダーがとんでもなく速いらしい、そんなウワサが毎年あって、モトクロス全国大会でその速さが証明された。幾度となく、日本でその体験が蓄積され、次第に全日本という場に集結していく。なかでも、山本鯨は85cc時代のスピードがハンパじゃなかった。僕は、某誌でカスタムオフロードバイクの特集を組んだことがあって、そのなかに山本鯨の乗るRM85Lを組み込んだ。よく覚えている。モトクロスビレッジに来てもらった山本親子と、テストライダーの大河原功次。山本の父親は、その場でRMのエンジンを開けて見せた。「ほら、ノーマルでしょう?」

モトクロスの戦い方を評価することは、なかなか難しい。たとえば、スーパークロスでは、そのコース幅の狭さから、イン側からクロスラインを狙いにいくのは当たり前の戦い方だ。インに入られたと思ったら、引くか、突っ張るか。だいたい後者は失敗する。アウトドアのモトクロスでは、ラインは無数にあるため、そんなリスクの高いチャージはなかなかしない。では、本題。日本ではどうだろうか。欧州や北米ほど幅が広くないこともあるし、参戦するライダーの特性上、ラインが限定されがちである。富田のインタビューでは、「日本はアウトドアみたいにたくさんラインがあって抜けるっていうコースでもないです。開幕で当てたところもインで轍ができないところだったし、山本は基本アウトを走っていたんですよね。今のトップ4は本当に差がないので、ラインをクロスさせてパッシングする抜き方しかできない。結局、僕が当てにいっているみたいなイメージになっていますよね。難しいですね。あからさまに自分も一緒にコースアウトしていくというのはダメだと思いますけどね。

SUGO、HSRはラインが多い。2回目のSUGOは、能塚・山本が前を走っているのを冷静に色んなラインを試していたら良いラインが見つかって。それを繋げていったら上がっていけた。ああいうレースが理想ですね。広島はラインが限られていたので、ずっと平均台の上をレースしているようでした。この中でどうやってレースしていこうかと。平均台の上でライバルの前に出ようとしていかないといけないというか」と説明する。

いささか乱暴な言い方をすると、富田が言うには山本はインを開けすぎる。後ろについていることがわかっていれば、スピードに乗せるアウトラインは使わない。使ったとしても、インに入られた時に対処できるはずだ、と。あれは、イン側に入られるリスクを考えていない走り方だと。

山本の450での走り方は、本来的にはとてもスマートで、イン側をしっかりしめながら他車にアドバンテージを築いていくものだった。その姿は、写真映えはしづらい。山本のコーナリングはルーストがあがりにくく、地味だが速い、そんな印象があった。だが、2021年は違う。積極的にバンクを使ってアウトからスピードをのせていく走りが多く、そのスタイルの違いは明らかだった。山本は明確にしなかったが、これはもしかするとマシンによるものなのかもしれない。ファクトリーバイクから、量産バイクにスイッチした2021年、山本のマシンの中身はスタンダードそのものだったと聞いている。しかし、富田は4メーカー中唯一のファクトリーマシンだ。山本にとって、イン側のラインから、ファクトリーパワーを使って一気に立ち上がれた昔の走りと違うのは、当たり前なのかもしれない。

画像: 波乱のコーナーに入る前、山本も富田にチャージ

波乱のコーナーに入る前、山本も富田にチャージ

山本が転倒する左コーナーの直前、山本は富田をパスしていた。山本によれば「ラムソンを飛んで一個目の上りで、僕がインに入ってぶつかってるんですよね。僕が抜いた右コーナーはお互いフェアな、常識の範囲内でやっていた感じです。それが急にどこでスイッチが入ったかわからないけど、ああいうことにはなったっていう。ああいうことをしているライダーっていうのはレースを捨てているのと一緒なので勝てないですね。リスクを回避しない限りレースは勝てない。接触とか転倒を絶対に避けないと、マシンが壊れる可能性もあります。僕が転倒したコーナーでは、あんなに早くイン側に来てるとは思わなかった。抑えたはずだった。自分も結構ロスなく行けていましたから」

広島のこのクラッシュは、山本のピンチを引きおこした。富田が1位、山本が4位だったらギリギリで富田がランキングを逆転してしまうというシーンだった。ほぼ最後尾まで落ちてしまった山本は、しかし冷静さを失わず、タイトルを諦めなかった。富田はトップを引き、まさに富田の理想の状況が作り出されていった。

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