元になったレースはもちろん、エルズベルグ・ロデオ
フィニッシャーよりも価値ある一歩
シコクベルグに出場したライダー、そしてほとんどの観客は、このレースの元になった「採石場を登っていくレースフォーマット」のレースを知っているはずだ。そう、オーストリアで毎年開催されている世界最大規模のハードエンデューロレース、エルズベルグ・ロデオだ。石戸谷蓮は2018年から「5ヵ年計画で完走を目指す」と宣言し、このエルズベルグ・ロデオに参加しているライダーなのだ。
そもそも、この「CROSS MISSION」というイベント自体が、石戸谷が「エルズベルグ・ロデオに参戦するための費用を捻出するため」という名目で始まったもので、僕自身も一度出場し、一番簡単なXクラスだが完走している。コアなハードエンデューロファンに向けたレースや、オフロード初心者に向けた走行会など幅広い層をターゲットにしてきたことで、イベント自体のファンや知名度も増え、満を辞したタイミングでの、シコクベルグだった。
そもそものキッカケは、SNSで西日本砕石の3代目が、会社の敷地をオフロードバイクのレースで使えないか、と発言したことだった。元々は四国エンデューロ選手権の会場として使用される予定で話が進んでいたものの、この新型コロナウイルスの影響で選手権は中止。それならば、とCROSS MISSIONの計画が進められた。
これは僕の想像だが、おそらくこのシコクベルグは採算を度外視したイベントになっただろう。それはもちろん、本来の目的からは違ってしまうのだが、途中からは「こうなったら盛り上げられるだけ盛り上げてやる」という気持ちが、石戸谷の中に芽生えたはずだ。
「息子から会社の敷地でオフロードバイクのレースをしてもいいか? と聞かれてOKを出しました。実は20年ほど前にもちょっとだけここでオフロードバイクの練習をしたことがあって、いつの時代も変わらないな、と。そして肘爆photoくんがすごくいい写真をSNSにアップしてくれて、そこから蓮くんに繋がって今回のレースが開催できるようになりました。
僕も彼らも、バイク人口を増やしたいという共通の目的を持っていました。ところがバイクのイベントをやる、と言うと最初地元では「ガラの悪いライダーが集まってうるさいんじゃないか」とか、「コロナウイルスの感染拡大が心配だ」といった声が上がっていたのですが、スタッフの今井さんが清掃活動をしてくれたり、尽力してくれて、地元の協力も得ることができました。
あと皆さんにお願いしたいことがあります。バイク野郎って言うと、やんちゃなイメージがあるんですけども、公道では安全な模範運転をして欲しいと思います。オフロードバイクはオンロードよりもバイクのスキルを磨くことができます。レースでしっかりスキルを身につけて、公道での安全運転に繋げてください」と今回会場となった西日本砕石株式会社の岡さん。
石戸谷のプロモーション力はもちろんのこと、西日本砕石の岡代表の力もあり、話はドンドン大きくなった。地元の新聞やTV局が取材に訪れ、表彰式には新居浜市長の姿も。僕が取材のために前日に宿泊したルートイン新居浜では通常朝食は6:45からのところ、それではレース時間ギリギリになってしまうため「CROSS MISSIONに参加されるお客様は6:00から大丈夫です」と受付のお姉さんに案内されて、驚いたものだ。
これではまるで北海道で町をあげて開催されている日高ツーデイズ・エンデューロ、ならびにこちらもエルズベルグ・ロデオを模したHIDAKA ROCKSのようではないか。そんなオフロードバイクの聖地と呼べる土地が、新たに誕生した瞬間と言ってもいいだろう。
エルズベルグ・ロデオはハードエンデューロライダーなら誰もが憧れる夢の舞台。しかし、オーストリアのレースに参戦するには費用、休暇、言語など多くの壁が存在する。それらの壁を乗り越えてエントリーできたとしても予選で500台に絞られるため、決勝を走ることは難しい(それでも毎年1000人を越すライダーがエルズベルグ・ロデオにエントリーするのだが……)。しかし、石戸谷はシコクベルグを開催することで、日本中の、エルズベルグ・ロデオに憧れていた300人のライダーたちに、600人の観戦者たちに、擬似エルズベルグ・ロデオを提供してみせた。これは日本人として2人目のエルズベルグフィニッシャーになるよりも、もっともっと偉大なことだと思う。
そんな僕が感じたシコクベルグの存在意義をまず先にお伝えしてから、レースレポートをお読みいただきたい。